18. 黒崎支配人の恩
宿泊客の全員の無事を確認したからと言って安心はできない。
消化活動の傍ら、警察と消防の調査がある様だった。
矢継ぎ早に、警察官、消防隊員にさまざまなことを聞かれた。
さながら放火犯に対する事情聴取である。
しかし、ホテルに出勤していたことは、黒崎支配人がその場で一緒に作業していた浅野さんに電話をしてくれて証明してくれたし、後ほど館内の防犯カメラを提供する約束もしてくれた。
また、ありがたいことに、黒崎支配人は、宿無しとなってしまった喜瀬屋の4組の宿泊客を
リゾート・イン・ブルーに受け入れてくれると言うのだ。
「ちょうどうちも閑散期で空いてますから問題ありませんよ。6名の大木様御一行様はビラタイプにご案内ですかねそうすれば皆様受け入れ可能です。」
「それでは、実李さん、私皆様をご案内してまいります。1時間後くらいには戻れると思いますが、消防と警察が帰るまでは見守っていた方がよろしいですよ。今は暗いから無理ですが、日が昇ったら火災現場の写真も沢山とったほうが良いです。火災保険の適用の際に使用します。あ、早めに火災保険会社に連絡してください。落ち着くまでは、うちのシフトも保留にしておきましょうね。何かあったらお時間関係なくご連絡してくださいね。」
それじゃっと、歩き始める黒崎支配人
「黒崎支配人・・・!」
黒崎支配人は、ピタッと止まった。
「ありがとうございます。私、何とお礼を申し上げたら良いのか・・・」
彼女の叱咤と、冷静さのおかげで、混乱の中でも最善の行動が取れたと思う。
さらには、お客様の受け入れまで。
どうして黒崎支配人がここまでしてくれるのかわからなかったが
紛れもなく、この人のおかげで、今自分がすべきことがわかったのだ。
すると、黒崎支配人は少しの間何かを思慮した。
そして、更に言うのを少々躊躇していた様だが、言葉を選びながらのように見える口調で続けた。
「もし、少しでも恩義に感じてくださったのでしたら・・・今度は私のお願いを聞いてくださいませんか?」
と、至極遠慮がちにそう言ったのである。
「お願い?お願いって・・・?」
黒崎支配人は、その言葉お静止して続けた。
「その話は、また後で。今はとにかく喜瀬屋さんの復興に注力してください。ここ2週間くらいは、きっと実李さん、てんやわんやかと。こう言うことはお互い様ですから、私も微力ながらお手伝いいたします。」
それでは今度こそ!と、黒崎支配人はサッとお客様のご案内に向かっていった。
「あの、」
思わず、実李は後を追いかけるように声を発した。
「私にできることがあれば、何でも!」
それを聞き取ったであろう黒崎支配人は、振り向くことはないままに、ありがとうございますーと言いながら
足早にその場を後にした。
そして、喜瀬屋を襲った火事は、その日のうちに消し止められたが、旧館を全壊と言わずも半壊させ、主人の黄瀬広吉に全治1ヶ月の怪我を負わせた、何とも後味の悪い火事になったのであった。




