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リゾート・イン・ブルーの喧騒 -支配人黒崎雪乃は本日もにっこりと客様をお出迎えする。-  作者: 鳴海ニノ
第一章 ホテル清掃係黄瀬実李は支配人への恩返しのためにフロント業務をする。
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15.人気プラン誕生秘話

その日は、分厚い灰色の雲がいつもの青く低めに見える空を覆っており、シトシトとしつこい長雨が降る日であった。


小河原島は、南国ということもあり、海、リバートレッキング、サイクリング、そういった野外でのアクティビティが最も人気である。


しかし、こうもしつこい雨が降っていては、せっかくプランニングしていたツアーも

キャンセルせざるを得ないお客様も多い様だった。


その点、このリゾート・イン・ブルーは強かった。


屋外にあるプールは、雨が降っているとはいえ、気温さえ高ければ、楽しむことができるのであった。


さらには、広めのロビーに展開される、ラウンジは、プールを眺望することができ


それなりの良い景色を繰り広げている。


実李は、リゾートインブルーについての疑問は多々存在したが


これを機に、本日の清掃パートナーである浅野さんに聞いてみることにした。


「ここの厨房って結構立派ですよね。レストランでも何でもできそうですが、このラウンジで夕食とか、朝ごはんとか、提供しないんですか?」


リゾート・イン・ブルーには、そこそこ立派な厨房が存在する。


冷蔵庫、冷凍庫は結構な容量を誇っていたし


業務用のガスコンロは、全部で5口もあるし


さらには、立派なコンベクションオーブンと言う、業務用のスチームオーブンさえ備えてあった。


しかし、ディナーはおろか、朝食の提供すら、このホテルはしていなかったのであった。


この広々としたチェックインカウンターの傍らに展開されるラウンジには、


25席のテーブル客席と


奥の小上がり舞台スペースに立派なアンティークグランドピアノと


11時から21時までサーブされる、セルフのフリードリンク数種類と


袋入りのミックスナッツ、お煎餅などささやかなお菓子が置かれているのみである。


「・・・それも色々あったのよ。」


浅野さんがふうっと、ため息をついた。


「先代の都子支配人の時まで、・・・あ、雪乃さんの叔母さんなんだけどね、都子支配人が存命の時まで料理長が存在してて、朝食、夕食も出してたんだけど、亡くなってちょっとしたあたりから、急にやめちゃったのよ。それから、雪乃さんが支配人になってからも、料理人募集かけて、まばらに入ってはすぐに辞め、入ってはすぐに辞めて、を繰り返してたのね。」


ちょっとした疑問であったはずなのに、また新たな多くの情報が入ってきたことに、実李はまた混乱してしまった。


黒崎支配人の叔母にあたる人物が前支配人で、死亡退職されている、と言う事実は、既に黒崎支配人が経営者一族であると知っていたので、さほど驚きはしなかったが。


また、黒崎支配人が、人員の苦労をしていたという情報に、同情とも取れるような、呆れるとも言えるよう、なんともいえない感情が広がった。


「すぐ辞めるって、具体的にどのくらいで・・・?」


「早い人は1週間ね、長くて1ヶ月半くらい。」


流石に短すぎでは?と、何があったのかに思いを巡らせると、頭がクラクラしてきた。


浅野さんは、こう付け加えた。


「これはあくまで私の感想だけど、料理人と呼ばれる人たちは、包丁と、その腕一本でどこでもやっていける自信から、自分に合わない職場に見切りをつけるのがとても早いのよ。都子支配人は、その点料理人たちと仕事をするのがとてつもなく上手だったの。その当時は、創業者の奥様の、つまり雪乃さんのお婆様もお元気だったしね。」


さらに浅野さんは続けた。


「雪乃さんは若いから、おっちゃんの料理人たちに舐められてたってのはあると思うの。それで、上手くやれてなかったみたいね。たまに、どっちが上司よ?みたいなことも言われていたし。"俺はいつだって辞めてもいいんだからなー!!"みたいなね。」


逆パワハラ?と言えるのだろうか。辞められても困るし、かといって、言うことを聞いてもらわなければ困るし


黒崎支配人もさぞかし頭が痛かったであろう。


「雪乃さんは雪乃さんで、”そんなこと言わずに〜”的なことが言えないのよね。いつもそう言われて"左様ですか、かしこまりました。あなたの意思を尊重します。"って言うもんだから、向こうも引けなくて、結局辞めちゃうの。


と浅野さんはカラカラ笑った。


実李も、ちょっと吹き出してしまっていた。


浅野さんの、黒崎支配人のあの淡々とした物言いのマネのうまいこと。


浅野さんは、やはり恐るべし。人をよく見ている。


また、今まで、"辞めないでくださいよ〜"としか言われてこなかったおっちゃんたちが、いきなり横っ面をぶん殴られた様になっている顔を思い浮かべると、若干の滑稽さを覚えずにはいられなかった。


本人等にとっては至極深刻なやりとりであったことは想像がつくが、横暴なおっちゃんの言葉をザックリ切り捨てる黒崎支配人に一種の清々しさも感じた。


「なので、雪乃さんも吹っ切れて、もう料理人を置くことは辞めにしちゃったのよ。最後の人が辞めたら、レストランは置かないって決めて、ラウンジは全てセルフのフリードリンクと軽食。食事はお客様の持ち込みか、近隣のレストランにパス。数年前の大改装の時には全客室にユニットキッチンと冷蔵庫も入れちゃったのよ。そうすればお客様は自室で料理ができるでしょう?」


浅野さんの言うとおり、ここの客室全てにユニットキッチンと冷蔵庫がついている。もちろん、調理器具、お皿なども揃っているため、外にわざわざ行かなくとも、食材を街中で買ってきて、お客様自身でで気兼ねなく調理して食べることができる。


リゾートインブルー周辺地域は結構な田舎であるため、コンビニ、スーパー、レストランまでは程遠い。

そのために、食事問題は少なからず問題になるのだが


なるほど、この様に切り抜けていたのだった。


「材料切るくらいなら雪乃さんにでもできるから、BBQの仕出しはやってるじゃない?プールサイドでやるプランね。それでお客様も納得してるし、いいんじゃないかしらね。」


プールサイドで楽しめるBBQプラン、これもこのホテルの売りであった。


実際、ライトアップされたプールの傍ら、開放的な空間で行う


支配人が厳選した島の食材をふんだんに楽しめるBBQは


お客様からも絶大な支持を誇っていた。


このリゾートインブルーのBBQプランは、周辺のリゾート施設にも影響を与えていて


自身のホテルのサービスとして提供し始めた所が増えてきたのだった。


しかしながら、それはこの様なやむを得ない、それなら出来る、と言う発想から生まれたのだと。


そして、案外この問題で悩んでいるホテルは、多いのではないかと。


その人気プラン誕生秘話には、かなり、皮肉な思いがした。

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