14. 口コミ評価
実李と舞花さんはその日の清掃を二人で終えた。
相変わらず、ここの宿の主婦陣は、光の速さで退勤をされる。
実李が、タイムカードを押そうと言う頃には、すでに
「それでは、お疲れ様ですー!」
とニコニコしながら、おかえりになっていた。
黒崎支配人は相変わらずぐちゃっと色々の書類が置かれたデスクにあるPCを、またも今朝と似たような訝しげな顔で睨んでいるように見えた。
「大丈夫ですか?また何か変な口コミが?」
私の声を聞き取ると、また瞬時に、いつものにっこり笑顔になった。
「いえ、変と言うか・・・一時うちも口コミ評価が著しく低く書かれてしまって。
それをカバーするためにここまでの量の口コミを集めたのですよね。それを思い出しておりました。」
黒崎支配人は、ふふっと笑って
「これ、3年前くらいの口コミです。」
実李はまた提示してきた口コミを更に見やった
20xx/3/25宿泊 総合評価 1 サービス:1 立地:4 食事:1 設備:1 清潔さ:5 値段:1
"店員に何聞いても、宿ファイルを読めとしか答えない。人件費の無駄。HPも誤情報だらけ。二度と行かない。”
40代男性:家族
20xx/3/30宿泊 総合評価 3 サービス:1 立地:5 食事:1 設備:1 清潔さ:5 値段:1
"夜緊急電話に対応してくれませんでした。一日冷たいお風呂に入る事になったので残念です。”
60代女性:友人
20xx/4/2宿泊 総合評価 3 サービス:3 立地:5 食事:4 設備:1 清潔さ:1 値段:4
"虫が多く出て困りました。自然いっぱいの島なので仕方がない部分がありますが、怖くて夜も眠れず、寝不足になりました。”
30代女性:家族
「流石に人件費の無駄は、余計なお世話すぎですよね・・・」
実李は、他の2件は、まあまあわからないでも無いが、この
"人件費の無駄"
"二度と行かない"
という表現に強い暴力性を感じた。
「事実、この辺りは前支配人から私へ切り替わった時期だったので、私自身至らない点が多かったと言いますか、反省して、改善するべきであると受け止めているのですが。」
黒崎支配人は、殆ど空になったアイスコーヒーの入っていたグラスを手で弄んでいる。
「当時、口コミ数が100件くらいでしたので、総合評価が3とかになってしまったのですよ。やはりこの辺りの時期、この予約サイトからの予約が本当に無くなってしまったんです。」
「ちゃんと見てるんですね、お客様。でも私も自分がお客様の立場なら、見ちゃいますね。」
お客様のめざとさに感心しながらも、納得の因果関係だった。
「もちろん、ご指摘いただいたことは改善いたしました、緊急回線電話は今では耳にくっつけて寝てます
。」
実李は、ブッと吹き出してしまったが、おそらくこの支配人の場合、冗談ではなく、本当にやっている。
「あと、うちは、多数情報サイトに掲載してますから、ここから入らなくなったからと言って、すぐ売り上げが落ちたわけでは無いのですが、このサイト、国内ではシェア率も高いですし、流石に過誤できなかったので、すぐ良い口コミを集めることにしたんです。」
「どうやったんですか?」
理屈は簡単だが実際問題、それを実現させるのは、難しい様に思えた。
「単純に値段を下げると、満足度が上がるので安売りセールをすることですね。あとは、必死にお客様に口コミを書いてくださいとお願いすることです。宿がどんなに良いと思っていても、あまり皆様口コミには書いてくれません。嫌なことがあったお客様こそ、口コミに書きたがるものなんです。」
「口コミを書いてくれたらプレゼント的なことは、掲載サイトによっては禁止されてますし、難しいところです。」
黒崎支配人は神妙な顔をした。
「口コミは事実、重大問題です。これで悪く書かれまくってしまって、飲食店や店舗なんかが潰れてしまうと言うことはよくあることです。」
「ホテルは特に泊まった人しか書けないので、まだそこまでの影響は無いと思いますが、飲食店なんて、誰でも書けてしまいますからね。本当に怖いですよ。もちろん、ご指摘いただいて、改善ができれば、それが正しい口コミの機能なので、良いことなのですが。」
黒崎支配人は、最後のアイスコーヒーをグッと飲み干して続けた。
「私もそうですが、誰が書いたともわからないこの評価を皆気にして、レストラン選び、ホテル選びをするんですものね。口コミを書いた人がクソ野郎だったらどうするんですかね?なのでせめて、うちにご宿泊を検討していただいてるお客様には、正当な指針として、口コミ評価でご判断いただきたかったので、多数派の意見として、良いホテルとして見ていただける様に、口コミを沢山集めたのです。」
実李は少し考えた。
「確かに・・・レストランの口コミでたまに書かれている"まずい"、"定員の接客態度が悪い"
という言葉には少々疑問です。その人の口に合わなかっただけかもしれないし、定員の接客態度が悪いことを反省して、今では改善されているかもしれないじゃ無いですか。」
「そこなんです。ですので私も、できるだけ、口コミには返信をさせていただくことにしてます。」
そう言うとPCをスクロールした。
3年前の、こ黒崎支配人が就任した頃から、ほぼ全てに返信がついていた。
早速のご投稿ありがとうございました。
嬉しく拝見させていただきました。
また青い海と青い空の小河原島にいらっしゃる際は
是非お立ち寄りください。
ご来館ならびに温かなご投稿有難うございました。
支配人 黒崎
日はご来館いただきまして誠にありがとうございました。
また、早速のご投稿をお寄せいただき大変光栄でございます。
またいつでも、ご来館をお待ちしております。
支配人 黒崎
せっかくご来館くださいましたのに
ご期待にお応えできず、残念な思いを残してお帰りいただきましたこと
大変申し訳ございませんでした。
今後ご指摘いただいた窓サッシにカメムシが沢山いたと言う点につきまして
清掃係と情報を共有させていただき、私自身も最終チェックを怠らず
努めてまいります。ご投稿に心より感謝申し上げます。
どうぞこれに懲りずに、またのご来館をお待ち申し上げてります。
支配人 黒崎
などなど・・・
良くもこんなにも返信のバリエーションがあったものだと
実李も驚きと感心の眼差しで、その口コミ評価を見ていた。
「最新の口コミなんですけれども、なんだかんだと申しましたが、結局のところ、こういう言葉に救われるものですよね。」
と言って、昨日投稿されたばかりの口コミ評価を黒崎支配人は見せてくれた。
実李の心にも、誇らしい気持ちと、温かい気持ち、お客様に対する愛情が溢れていた。
We had yet another great stay at these Hotel’s . Very spacious accommodations and the pool and buth was extremely relaxing and refreshing. Also, The BBQ here is the most delicious and satisfying than the I eat anywhere. I highly encourage you stay at these Hotel’s as you will not be disappointed. Great location, great host, and great cleaning, great accommodations!!
50代 男性 家族




