11. 女だらけのホテル
「ところで・・・」と広吉が急にソワソワして聞き出した。
「なんであのホテルは、女性従業員が多いだろ?それで客を釣ってんじゃないかって噂もあるんだが?実李お前、何か変なことやらされてないか?大丈夫か?」
おそらく、本心の親心で心配しているつもりなのだろう。
しかしながら、おじさんならではのその発想に、我が父親ながら呆れる思いがした。
「・・・何それ?」
「だって、今あそこの従業員全員女じゃないか!山川さんとこの由美さん・・・今は浅野さんか、あと、舞花さんとこの嫁さん、平さんとこの孫娘、あとお前だもんな。案外ここいらでも美人て言われてる奴が採用されてるって、話もあるぞ。まあ、その点お前が採用されてるんだから、あちらさんに見る目はあるわな!さすが俺とかーちゃんの娘だ!」
はっはっは、と笑ったが、また神妙な顔に戻りこう続けた。
「それに、何年か前に商工会の幹部連中が、幹部会をあのホテルでやった時に、余興だって、やたら胸を出した歌手が外国の歌歌ってたっていうから・・・何の店だよ?って一時期噂んなったんだよなー。」
実李はしばし思慮した。女性従業員が多いことは、現状を見ればわかるが、それで釣っているわけではなく、やむを得ずそうなってしまっているという事は明白である。
しかし、女性の歌手とやらの方は・・・いや、全くの初耳だし、見当もつかなかった。
「・・・いや、何それ?」
「だから、やっぱりあそこも東京資本の会社だから、売上至上主義だろ?実李にもし何か辺なことをさせていやしないかと・・・」
「男性授業員がいない理由?それはあのホテルが激務すぎて、島の男の根性如きじゃ務まらないからだよ。」
父親が急にヒイッと罰の悪い顔をした。
玄関から、着物を着た女性が現れた。
この女性は実李の母親で、この旅館の女将、黄瀬和美。買い物から帰ってきたのだった。
「あ、本当にそれ!」
アハハと実李が笑いながら同意した。
確かに、リゾート・イン・ブルーは、規模にしては従業員が少ない。
それでも運営ができているのは、全てシステムの効率化と、電化製品などの備品でそれがカバーされているからである。それはすなわち、人によるケアとセーフティネットが少ないため、端的に言えばダメなやつはとことん仕事ができなくなると言うシステムであるとも言える。
これは、ジェンダー論者に怒られてしまうので、あえて言うが、男性が、と言うよりは、柔軟な考えを持った人でなければ受け入れられないと言える。
和美は、黒崎支配人と地域の商工会などでよく交流があり、親しい間柄と言える。
実李にリゾートインブルーの仕事を斡旋したのも、他ならる和美であった。
「じゃ、例の、女の歌手の話はどうなんだ?」
と少々ムキになって広吉が聞く。
・・・・
和美にも見当がつかないようだった。しかし和美は続ける。
「リゾートインブルーさん一時経営がかなり厳しかったらしいわよ。借金もすごくて。今はそこそこ安定してるけど、ずっと創立者の社長と奥様がツートップで切り盛りされていて、プール作っちゃってすぐにその社長が亡くなって、随分苦労されていたんじゃないかしら。経費削減とかで、随分人も減らされてるみたいだし。」
なるほど、大型投資直後の経営者の死。これは相当苦労しただろうに
と思いを馳せてみた。例の歌手の件は、集客のための苦肉の策だったのだろうか。
しかし、本当のところは実李にはわからない。黒崎支配人に聞いてみても良いものかどうかも分からなかった。実李は一応知ってる範囲のことで答えてみた。
「女性従業員で釣るって言うんなら、支配人がもっと女っぷりを出してくると思うんだよね。黒崎支配人、格好からしても、どちらかといえば男性的、というか、中性的と言うか・・・兎に角そう言うのはないよ。」
心の底からそう思った。黒崎支配人の化粧っ気のなさ、メガネ、パンツスーツにベストと言った装い。
黒崎支配人は、女で釣ると言う言葉とは、とても程遠いところにいる気がした。
なるほど、と広吉も納得したようだった。
「確かにそうだよなあ。黒崎のお嬢も、ここへ来たばかりの頃はもっと、こう、お嬢様ーって感じだったんだよな。スカートとかもつけてて・・・苦労してるのかも知らん。」
先ほどの、訝しげな面持ちから一転して、同情の顔つきになった。
「父さんも一度あそこでバイトしてみたらいいよ。すごく勉強になるし。」
「お父さんが一日持つかしらね?あの規模だったら半日で根をあげそうよ。」
「草刈りならできそうだか、募集してるんか?」
あはは・・・と談笑をしている最中、喜瀬屋の正面にタクシーが止まり、お客様が下車してきたのであった。




