6.涙
今日は短めです。
「私は…私は陽向くんの本当の笑顔を見てきた!」
最大限の力を振り絞ったのか、崩れる様に膝を地面につけて、けれども視線はそのままただ俺を見ている。
流れ落ちた涙が地面に…落ちた…。
泣けばいいと思っているわけではないのは、唇を食いしばり耐えようとしているからわかる。
「二回目の時は佐藤一に殺された。私はその時にいたでしょ…?一回目の時にも私は陽向くんの最後を目にしてるの」
ドクン。と俺の心臓が大きく波打ち、早いリズムを刻む。
「ちょっと、待って」
緊張で乾いてしまった唇から溜息に似た笑いが溢れた。
ぐるぐると昔の記憶だとか感情なんかが、ぐちゃぐちゃに混ざり合い、理由の分からない気持ちが溢れてしかたない。
「あの時俺の名前を呼んだのは朝日なのか?」
「そうだよ」
「俺を突き飛ばしたのは朝日だったのか…?」
「それは違う!私は…陽向くんが落ちた現場にいたの。…でも、陽向くんが私のせいで死んでしまったのは事実だから…。今回こそは助けたい!」
『今度は助けられて良かった』
二回目に聞いた言葉。
「朝日のせいって何?俺達はそんなに親しい間柄だったのか?」
「陽向くんと私は一回目の時には子役同士で出会ってるの。小さい頃から、父と母の関係で撮影現場に出入りしてた私は、自然に自分もドラマに出ていた。陽向くんと最初に出会ったのは、子供用ドリンクのCMだよ」
その撮影は何となくだけど覚えている。
だけど、相手役は朝日だったか?
「相手役って男子じゃなかったか?」
「二回目、三回目はね」
朝日は涙を拭って淋しそうに微かに笑った。
「陽向くん、私はね、二回目も三回目も5歳の時に戻って来てるの。でも、一回目の記憶があったから、子供らしくない子供だったな」
「10年…」
一回目の記憶を持ったまま10年を繰り返す。
表には見せないが、辛かった筈だ。
「ごめん」
「どうして陽向くんが謝るの?謝るのは私だよ。私を助けようとして陽向くんは…。二回目からは子役も拒否して、人目に触れないように生活した。でも、タイミングは違っても陽向くんの死を変える事は出来なくて…。私だけの力じゃ避ける物は分かっても変えられなかった。だから、今回は陽向くんに接触した。陽向くんが覚えてるかは賭けだったけど、陽向くんの行動が一回目とは違って見えたから、もしかして陽向くんにも記憶があるんじゃないかと思って…」
「『輝く』のオーディション中に二回目三回目共に戻った。朝日の思ってる通り、俺には所々記憶がある」
俺は一言一言を噛み締めるように、喉から絞り出す。
「私の事は少しも覚えてない?」
朝日は震える声で俺に問う。
「…最後の声は覚えてる。だけど、朝日に言われて朝日の声だって知った。俺と朝日が友達だったのは分かった。だけど、朝日のせいで俺が恨まれる理由がわからないよ」
「あの人は父を独占したかったんだと思う。それには、父の娘である私が邪魔だった。私がいなくなれば母は責任を問われて家族崩壊。その後に自分と息子だけを真の家族にしようとしたんじゃないかな」
「でも、俺とは直接的に関わり合いないだろ?それに、最初の頃は俺には優しかったと思う…」
ヘタリ込んでしまっていた朝日の腕を摑む為に伸ばした俺の手から逃げる様に朝日は自身で立ち上がる。
そして、顔をくしゃくしゃにしながら泣いてる様な笑顔をした。
「私を貶めようとしたあの女の邪魔をしたのが、陽向くんだよ。あの日未来探偵は私の本当のヒーローになったの」
最後までお付き合いくださりありがとうございます!ブックマーク&ポチッ。そして、評価で星をプッシュしてくださると励みになります!




