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どん底だらけの俺の世界に自称魔法少女がやってきた。  作者: 夏嶋咲衣


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5.現実と彼女の話

いつもありがとうございます!

「はい、お疲れ様です!…はい。ご連絡ありがとうございました。え?木下優太役ですか?…はい、わかりました。後で、メール確認します」


 スマホのボタンを押し通話をオフにした。

 電話はマネージャーの菅原さんからで、オーデ不合格の知らせであった。

 しかし、監督の押しで俺も木下優太役でドラマ出演が決定したそうだ。

 菅原マネージャーが言うには、監督は俺が良かったそうだが、主演の千歳夏菜子の意向で広瀬海が若手のメインに選ばれたそうだ。いわゆるバーター。

 決定打はスポンサーの社長が千歳のファンだった。


 そういう事だそうだ。


『私の力及ばずで申し訳ない』


 菅原マネージャーは俺にそう言ってくれたけれど、こんな事がよくある話だし、俺が断トツに良ければいいわけで…。


「よし。木下優太頑張るかっ」


 パチンっと両頬を挟み気合いを入れ、パソコンが置いてあるリビングに顔を出した。


 リビングに併設したキッチンでは、母さんが定番のカレーを作っている。

 スパイスの薫りが鼻を刺激し、食欲を沸き立たせるんだ。


「陽向、もうすぐご飯よ」

「分かった。それにしてもうちカレー多くない?」


 母さんはムッとした顔をしたが、直ぐに得意気に鼻を鳴らした。


「うちのカレーはスパイスが効いてて美味しいのよ!」

「ルーだけどな」

「ルーの何が悪いのよ」


 自炊してみろとか聞こえてきたが、カレーって意外に難しいと思う。


「ただいま」


 我が家では大人しめの父さんが帰ってきたようで、


「陽向、ニュース見たか?」

「ニュース?今日はテレビ見てないけど何かあった?」


 父さんはスーツのジャケットを脱ぎながら、テレビのリモコンに手を伸ばし電源を入れた。


「ニュースを見てないなら。今朝の事件は知らないかもな~。ほら、これだ!」


【本日午前8時15分頃、東京都内東高校に侵入し、次々と登校中の生徒や教師を所持していた刃物で襲ったとして、東京都○○署は7日、同都○○町4、無職、佐藤容疑者(36)を殺人未遂容疑で逮捕した】


 流れたニュースに驚き、俺は持っていたスマホを床に落とした。


「嘘だろ…?」


 佐藤一という名前には一回目の高一の時にニュースで見た記憶がある。

 それに、朝日が告げた名前は佐藤一…。

 朝日の言ったように、事件が起きた。

 俺達の通う隣町の東高校に佐藤容疑者が侵入し、中庭にいた生徒を次々に刺した。

 使われた凶器は刃渡り15センチ程のどこにでも売っている包丁だ。


 それだけじゃない。

 ニュースに映された佐藤の映像には、やはり学校で見た透明な蛇達が映っていた…。


 俺は…まだ幻覚を見ているのか?


「あら、物騒ね」

「ああ」


 母さんが険しい目でニュースを見て、俺に話し掛けてきたが、話になんて集中できるはずもなく、適当に受け流す事になる。


「陽向も気をつけてよ」

「どうやってだよ。」


 『たしかに』なんて緊張感もなく母さんが呟いたのを背中で聞き、実は一つ前では被害者だったよ。といいそうになったが、あまりにも不謹慎だと自分にがっかりした。


 駆け足で階段を上がり、二階の一番手前にある自分の部屋へ行き、クローゼットに掛けてあるブレザーの胸ポケットに入っていた4つに折られたメモを取り出す。


 朝日りん

 あいつの連絡先をスマホに打ち込み、間違えてないか何度も確認する。

 今から送るメールが別人に届いたら大変だ。


 ふーっと大きく息を吐いて、落ち着かない気持ちを整える。


TO朝日


立花です。

朝日が言っていた事は本当に現実なのか?

もし、今大丈夫なら、電話で直接話したい。



 直ぐに朝日からの返信を告げる機械音が小さく鳴った。


TO陽向くん


朝日りんです。

勿論大丈夫!

私の番号は090-○○○○-○○○○



 話すしかない。

 いや、聞きたい事がある。


 

 ワンコール聞いたか聞かないかのタイミングで、朝日が電話に出たのが分かった。


「も、もしもし。朝日です!」


「あ、俺、立花」

「うん!うん!」

「ニュース見たよ」

「あ…うん。信じてくれた?」

「正直言うと混乱してる。だけど、朝日が言った通り事件があったし、オーディションもダメだった。ただ、和也の親友役で出演は決まったよ」

「うん…。あの、陽向くんさえ良ければ今から会って話せないかな?直接伝えたい事があるの」


 壁に掛けてある時計は午後7時を過ぎている。

 外はもう暗く、女性を一人で歩かせるには不安な時間だ。


「もう暗いぞ。電話か明日じゃダメか?」

「少しでも早く話したい」


 気まずい沈黙が続いたが、折れる様子のない朝日にうなずかざるおえなかった。

 

「分かった。朝日、最寄り駅どこ?」

「私が行くよ!」


「いや、危ないから俺が近くまで行く」

「ごめんね。私の駅は春中駅だよ」

「春中か。家から一駅か。分かった。自転車で行くから、改札出たとこで待ってて。いや、着いたら電話する」

「うん…ありがとう」

「じゃ、また」


 どうしたんだ?

 心なしか思い詰めている声だったよな…。


 俺は引き出しからネイビーブルーのパーカーを引っ張り出すと雑に羽織った。

 流石に夜は半袖では寒いからだ。

 急いで階段を降りると丁度夕飯が出来たのか、俺を呼ぼうとリビングから出てきた母さんと会ってしまった。


「ちょっとどこ行くの?」

「悪い!後で食べる!」

「陽向⁉」


 母さんの声を背中できいて、俺は玄関の扉を閉めると車庫に止めてある自転車に乗り、春中駅までの道のりを急いだんだ。春中までと俺の最寄り駅の春上駅の真ん中くらいに我が家はあるので、自転車で8分程のはず。

 




「陽向くん!」


 改札に向かうと駅の壁にもたれ掛かる様にして息を整えていた朝日が、少し前のめりになり手を小さく振った。

 走って来たのか肩までの髪が少し乱れ、数本顔に掛かっている。

 俺だったら、気になってしかたないだろう。


「待ったか?電話するっていったろ?」

「ごめん。早く陽向くんに会いたくて」


 いやいや。恋人でもないんだし、この会話はダメだろ。

 勘違い野郎になってしまうところじゃないか。


 俺は大きくため息を吐くと、


「それアウト。思わせぶり禁止」

「え?」 


 朝日は目をキョトンとさせて、意味が分からないみたいだ。


「いや、何でもない」


 『そお?』と小首を傾げる朝日は、いつもより今朝より少し緊張しているようだ。


「あっちで話す?」


 俺は駅の前にあるベンチを指差した。

 朝日は無言でこくりと頷く。


「呼び出してごめんね。それから、連絡ありがとう」

「ああ」

「それで…あの」


 言いにくそうに


「あまり、人に聞かれたくないから…力使っていいかな?」

「力?あ…いいよ」


 図書館前の公園で見せられた空間を歪ませる力だろう。

 朝日は前と同じ様に指をパチンッと鳴らす。

 さっきは感じられなかった、圧力みたいなものが俺の体を軽く押し、世界に二人取り残された様な不思議な感覚になる。

 朝日はシャツを両手で握りしめて、また黙ってしまった。


「あのさ、ニュースには驚いたけど、朝日の言っていることをどこまで信じていいかは正直わからない」

「うん。そうだよね」


 朝日はコクコクと何度も頷く。


「でも、これだけは信じてほしい。イタズラとか誂ってやろうとか思ってるわけじゃない。私は陽向くんに死んでほしくないだけなの」

「待って!朝日は俺に何かが起きる前提で話してるよね?俺からすれば、朝日の方が怪我してるだろ」

「怪我?」


 朝日は淡々とした声で俺に問う。


「私が怪我したっていつかな?」

「は?二回目の時にバスで」


 我に返った時には俺は二回目の話をしてしまったと気が付いた後だった。


「陽向くん、やっぱり覚えてるんだね?三回目の自覚もあるんでしょ?」


 何も言わずに目を反らす意外の方法が見つからなかった。

 覚えていると言ったって部分的だし、それで何かできるわけでもないだろ…。

 肯定したってしかたないんだ。


 朝日はベンチから立ち上がり、


「一回目である先輩に追い詰められた陽向くんは言葉が話せなくなってしまった。と言ってもいい。吃音。陽向くんの病名だよね?」

「…どうしたんだよ、急に。俺、今言葉に詰まってるか?根拠もなく人を貶めたりするなよ」


 俺はにっこりと頬笑み、朝日の言葉を否定した。


「噓つき」

「は?」

「その笑い顔は陽向くんの演技だよね?」


 走って乱れた髪を直す事もないまま、朝日は俺に問いかける。


「二回目のオーディションの後、私と出会った時に同じ様に笑ってたよ」

「それの何がおかしい?同じ人間だよ。いちいち笑い方なんて変わらないだろ?」


 俺は感情を抑える事が上手くできず、責める様な言い方になってしまった。

 だけど、朝日は話し続ける。

 ギュッとシャツの袖を握りしめる朝日の目は次第に潤み始めた。


「知ってるから」


 瞳に涙をいっぱい溜めながら、それでも言葉をやめる事はしなかった。


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