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どん底だらけの俺の世界に自称魔法少女がやってきた。  作者: 夏嶋咲衣


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3.日常の出来事?

いつもありがとうございます!

「こちらどうぞ」

 

 揺れるバス車内で、朝日が年配の男性に声を掛けている。


 昨日のあいつをまた見かけた。

 俺にだけではなく、自分が困っていると感じた人間には声を掛けているらしい。俺は困ってないのにありがた迷惑。


 

「うるさい!私を年寄り扱いする気か!」

「ごめんなさい!でも、立ってると危ないですよ」


 泣きそうに目を潤ませながら、でも朝日は怯む事なく男性に返す。


「うるさい!」


 男性は朝日を無理矢理座らせると、車内後方に歩いて行ってしまった。

 車内にいた数人の乗客達も理不尽に怒鳴られた朝日を見ていたが、誰も関わろうともせず、連れ同士でこそこそと話すのみだ。

 助け舟を出さなかった俺も彼らと同じ。

 自分に火の粉が飛び散らないようにするだけの人間なんだ。

 罪悪感を感じちらりと朝日に視線を送ると無理して表情を殺す朝日の横顔がある。


 胸が少しチクチクする。


 何で俺がモヤモヤしないといけないんだよ。

 俺には関係ないんだ。

 人の事を気にして首を突っ込んだって、自分が痛い目をみるだけだと前の世界で学習したはずだ。

 なのに…、


 なのに、朝日の不器用な生き方が自分と重なり気になってしまう。


 あぁ!


「あのさ」

「朝日さん、大丈夫?」


 俺の一言に被せる様な声は川口だ。

 同じバスに乗っていたようで、あいつの側まで近付き小声で声を掛けたようだ。


「大丈夫」

「無理しちゃダメだよ」


 朝日に肩に手を置き、諭すように語り掛ける川口は派手な見た目とは違い友達思いの優しい奴だったりする。


「え?」

「朝日さん困った人がいると声かけてるけど、感謝する人はばかりじゃないし、逆に馬鹿にされたと思って怒る人もいる」

「うん…」

 

 しょんぼりと俯く朝日に川口は慌てて、


「あ、別にダメだって言ってる訳じゃないからね。善意の行動で傷付いて欲しくないと思っちゃった。ほら、その怪我だって何かしてできたんでしょ?」

「小学生がふざけてて道路に出ちゃって、引っ張ったら私も一緒に転んでしまいました」


 困った様に眉を下げた朝日に川口はからっと笑った。

 案外この二人は相性いいのかもしれないな。


 二人に見つからないようにそっとバスの後ろに戻る。


 前回も怪我をしていたが、

『今度は助けられて良かった』って、何なんだよ。

 意味わからん。

 朝日が知るタイミングで俺が怪我でもしていたというのか?

 

 俺は首を捻り考えるも少しも心当たりにたどり着くこともないまま、下車する停留所に着いたのだった。

 順番にステップを降り、帰りとは反対の図書館の前に出る。

 昨日の夜に真と待ち合わせした場所だ。

 もしかして、あいつは俺と同じ様に未来を知っている?


 だったら、自分の怪我を避けないのはおかしいよな。

 俺は首を傾げた。

「陽向、おはよう!何見てるのさ…あぁ」


 真は俺と川口、朝日を交互に見て生暖かい眼差しを向けている。


「何だよ。気持ち悪いな」

「いや、陽向でも女の子に興味を持つんだなと思っただけ。あ!あややー」


「は?そうじゃねえ。ちょっと待て!まだ心の準備が」


 辰巳に腕を引っ張られて前にいた川口達に合流する羽目になってしまう。


「あれ?真。今日はバス?」

「違うよ。陽向を待ってたんだ」

「陽向、おはよー」


 元気よく右手を上げて俺に挨拶をしてくれた川口は時間とか距離を感じさせない昔の川口のままだ。


「おはよ」


 川口は俺の挨拶に不満なようで、ぷぅっと頬を膨らませ、


「ノリ悪っ」


 川口が俺に絡んでいると真は朝日に話し掛けていた。


「隣のクラスの朝日さんだよね?」

「はい。朝日りんです」


 普通に歩いているだけで真は人目を引いてしまう。

 隠し撮りをされたこともあったみいだが、優しく注意するだけで動じない。

 校門までの数メートルですら、人目が気になる俺は真みたいにはなれない。


「あややの友達なんだね」

「そう!私だけクラス離れて淋しいかったんだけど、朝日さんが友達になってくれたんだ」


 靴の下で落ちたイチョウがカサっとたまに音をたてた。


「友達なのに朝日さん呼び?」

「そうだよね!じゃあ、りん!」

「は?いきなり呼び捨てか?」

「りん…」


 朝日はくすぐったいようにふふっと笑い、


「私もあややって呼んでもいいですか?」

「もちろん!そうだ。まだ時間も早いし、中庭に行って四人で話さない?」

「だめ!」


 強張ったような顔で朝日は似つかわしくない声で、中庭に行くのを拒否する。


「りん?」


 はっと我に返った朝日は小さく首を振るばかりで要領が得ない。


「あー、もしかして朝日さん秋の花粉症?」


 空気を変えるように明るめの声で真が朝日に尋ねた。


「え?あ…あ、そうです」


 真は川口の方を見て、


「だってさ。もっと話したいなら、教室で話すといいよ」


 俯きがちな朝日を川口は気にして、


「ま、そうだね。りん、教室行こ!」

「うん。あの、あやや、少し待ってください」


 朝日は小股で俺に近付き、周囲を気にしながらボソボソと話す。


「陽向くん、放課後二人で話せないかな?」

「…いいよ」

「良かった。じゃあ、図書館前の公園で待ってる。それと、今日は絶対に中庭に行かないで」

「朝日、中庭って」


 くるっと背中を向けて早歩きで行きかけたが、もう一度俺を見て真剣な声で念を押す。


「約束して…。絶対に中庭に行かないで…」

「は?」


 いつもなら『何いってんの』くらいで、聞き入れないけれど、今の朝日の言葉は無下にしてはいけない気がする。

 不思議と。

 俺は少し戸惑いながらも頷いていた。


「…分かったよ」


 満足そうな顔で笑うと朝日は川口に声を掛けて二人で小さく手を振ると、隣のクラスの靴箱に行ってしまった。

 その後ろ姿を何故だがぼんやりと見てしまったんだ。


「デートの約束?」

「そんなんじゃねえよ」

「ふ~ん。…今日はきむ達と昼ご飯食べる?」


 こめかみの辺りをぽりぽり掻きながら、肯定的な言葉が欲しくて真に思わず愚痴ってしまう。


「いや、急に前みたいな感じは迷惑じゃないか?」

「本気で言ってる?昨日みんなに謝ってたじゃないか。僕達が根に持つほど嫌な奴だって思ってるんだ」


 ふいっとソッポを向いた真に正直慌てて、


「いや、そうじゃなくて。なんつーか、拒否されるのが怖くてさ」

「ヘタレ。そう言われたくないなら、試してみなよ」


 二回目ではみんなに謝罪する前に殺されてしまった。

 今回は後悔なんてしたくない!


 …そう思っていたから昨日謝ったのに、度胸がない俺は迷って二の足を踏んでいた。

 俺の性格をよく知っている真の作戦勝ちである。





 こうして、俺は真の挑発に乗って昼ご飯を一緒に食べる事になったんだ。


 時刻は12時40分。


 俺たちの1の1のクラス。

 川口を含む6人は幼稚園からの幼馴染みだ。

 小学校時代は別のクラスになったりした事もあったけど、何故か自然と行動を共にしていた。

 俺が中学3年生で、距離を置くまではだ。

 今日は朝日と一緒に食べる事になっていた隣のクラスの川口は次回の約束をした。


 そして、5つの机をくっつけてランチタイムが始まったわけだが…。


「陽向、今日は唐揚げか?」


 俺の唐揚げオンリーの弁当に箸を伸ばし、唐揚げを一つ強奪していくきむ。


「本当、なんで男子ってガッツリ茶色弁が好きなの!?」


 色とりどりの小さい可愛い弁当をフォークで突きながら、静香が呆れたようにため息をついた。


「茶色のオカズがやっばり美味しいんだよ。常識だろ?」

「は?野菜も食べなさいよ!ほら、ブロッコリー」

「静香、ブロッコリーはちゃんと食べなさい。大きくなれないぞ」


 静香の双子の兄 秋人が自分の分のブロッコリーを静香の弁当箱に投げ入れた。


「え~っ。秋人がお腹の中で私の分の栄養持ってったんだよ!え~ん」


 きむは静香をビシッと指差して、


「秋人騙されるな!涙なんか1ミリも出てないぞ!」

「理解している」


 中学二年の頃と変わらないテンションだな。


 きむと静香が言い合い、秋人が静香をたしなめる。

 それを優しく見守る真。

 変わらない風景がこんなにも幸せだったんだ。

 テレビの仕事があまりなくなってからは、卑屈になり大切な友達も遠ざけた。

 一回目の世界でやってしまった事をやり直そうとした直後に二回目は終わった。

 そして、今回も間違った選択をした過去は変えられなかったけど、やり直す事ができた。


 俺は失敗した過去をやり直す為に繰り返しているのかもしれない。


 この時はまだ、そう思っていたんだ…。

最後までお付き合いくださりありがとうございます!ポチッとしてくださると励みになります(ꈍᴗꈍ)

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