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どん底だらけの俺の世界に自称魔法少女がやってきた。  作者: 夏嶋咲衣


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21/21

20.ファンファーレの後

第一部、終了です。

【パンパカパーン パンパンパン パンパカパーン!】


 朝日が作ってくれた俺達二人だけの空間にファンファーレが鳴り響いた。


「おぉっ!」

「陽向くん、やったね!」


 両掌を俺に向けてにっこり笑う。


 俺はその手に自分の掌を軽くあてハイタッチをした。


 あの後楽屋に戻った俺は朝日にコマンドを開いてもらい、緊急クエストの犯人名に【岸川春美】の名前を入力した。


 そして、数秒後あのファンファーレが鳴り響いたんだ。


【緊急クエスト 犯人を探せ


 クリアーおめでとうございます!

 賞品として、新しい技が使える様になりました!】


「新しい技?」


 朝日は画面をスワイプさせそれぞれのステータスを空間に映し出し、俺に見せてくれた。


 えっと……。


朝日りん

レベル 15

属性  魔法少女

技   空間制御、人物ストーリー


立花陽向

レベル 15

属性  ???

技   先読み予告



「朝日、俺の技に【先読み予告】って書いてある!」


 朝日はコマンドををじっと見て、


「私は人物ストーリー……。これってどうやって使うのかな?えっと……人物ストーリーをプッシュすると目の前の人物の過去が見られる……」


 朝日は小首を傾げて考え込んでいる。


「使ってみないとわからないかもな」

「そうだね」


 朝日のは何となく予想がつくが、俺の【先読み予告】って何だ?


 まぁ。

 今は考えても仕方ないか。

 それよりも、優先しなければいけない事がある。


 このドラマの今後だ。

 橋本くんに怪我を負わせた人物が関係者にいた。

 直接手をくだしたりはしていなくても、広瀬が岸川春美さんを誘導していった事は間違いないだろう。


 広瀬も降板かもな……。


「朝日」

「ん?」

「これからどうなるんだろうな」


 朝日は意外にもあっけらかんとした顔で言葉を紡ぎ出す。


「なるようにしかならないんじゃないかな。ドラマは勿論大事だけど、私は陽向くんが死なない事が最優先だもん」

「まぁ、俺もそうだけど」

「あ、陽向くん。誰か来たみたい」


 ん?

 俺には朝日が遮断した空間に居ると外の音は聞こえない。

 でも、遮断した本人には聞こえてるんだな。


「解除」


 朝日は小さく呟くといつも通りに指をパチンッと鳴らした。


「は~い。どうぞ」

「失礼します。お疲れ様」


 色々合ったからだと思う。疲労を隠しきれない町田さんの顔は少し血の気が引いてる様に見える。


「お疲れ様です。タイムスケジュールの確認ですか?」


 町田さんは手を前に組んで、やや気まずそうに俺に話し始めた。


「陽向くん、監督の意向で今日は撮影中止になりました」

「あ……岸川春美さんの件ですよね」


 町田さんは頷き、


「うん。広瀬くんへの対応も考えなくちゃいけないかもしれないから、今日は一旦中止になったんだ」

「……広瀬くんは、仕方ないですね」

「……まぁ、色々とね……」


 『難しいね』とボソボソと語った町田さんだったが、


「じゃあ、申し訳ありませんが、また連絡します」


 町田さんは扉を開けて出ていった。


「朝日、今日は解散だ」

「うん」


 大きく伸びをして、俺達は楽屋を出る準備をし始めたんだ。






**********



「お疲れ様!菅原です。今時間大丈夫?」


 あれから数日後、広瀬の降板に伴い山野和也を俺が演る事になったと、マネージャーの菅原さんから電話があった。


「はい。分かりました」

「役者変更で撮影スケジュールもきちきちだから、ハードにはなるみたいだな。まぁ、よろしく!それと、劇団『翔鳥』のオーディション参加決まった」 

「わっ、頑張ります!えっと……オーディション日程は決まってるんですか?」


 菅原さんは言いにくそうに、


「今日の17時だ。間に合うか?」


 今日か……授業後直に向かえば余裕を持って着く筈だ。


「大丈夫です!」


 電話を切ると直にメールで詳細が届いた。


 さっと目を通したが、時間は大丈夫。本番も『輝く』の撮影も終わった後だし、問題はない。

 ただ、決まった場合の稽古は更にハードになりそうだ……。


 だけど、


 嬉しい!


 劇団『翔鳥』は川西さんの劇団の名前。


 はは、本当に川西さんが呼んでくれた。

 社交辞令が多いこの業界で本心で俺と演りたいと言ってくれた事が嬉しくて仕方ない。


 俺は思わずスマホを握り締めたまま、ニヤニヤしてしまった。


「陽向、顔やばくなってるよ」


 いつの間にか隣に座っていたのは、辰己真だ。

 慌てて廊下の隅に行って電話に出たから、誰か近付いている事に気が付かず油断してしまった。


 俺はわざとらしくキリッとして、


「やばくない」

「はいはい」


 可笑しそうに笑う真だったが、心なしか少し元気がないように見える。


「何かあった?」

「え?」


 驚いた様に目を見開き俺を見た真だったが、ふーと小さいため息を付き、


「陽向はよく見てるな」


 と呟いた。


「どうした?」

「いや、好きって言ってくれた女の子がね」

「また、悪口言いまわってるのか?」


 真は無言で頷いた。


「しょうもねえ奴だな。気にすんなって言っても気にしちゃうのが真だよな。……でもな、真は少しも悪くないよ」


 俺は元気づける為に真の背中をバシーンと叩いた。


「いったー!」

「ごめん、ごめん!」


 真は背中を擦りながら、


「陽向は何か良い事でもあった?」

「実はさ、俳優の川西さんが舞台誘ってくれたんだ。あ、でも、まだ確定とかではなくて、オーディション参加出来る事になったって事なんだけど。撮影の時にさ、また俺と芝居したいって言ってくれたんだけど、まさかこんなにすぐに話があるなんて思わなかったから浮かれてた!」

「やったじゃん! 陽向、凄いね!」


 人の喜びも自分の事の様に喜んでくれる。


「ありがとう。頑張るよ」

「うん」


 俺が辛い時も見守ってくれた真。

 だから、俺も真が辛い時は助けたい。

 よっぽどじゃないと何も言わない奴だから、俺が見守るんだ。


「真も何かあったら絶対話してくれよ」


 俺の言葉に真は笑って頷いたんだ。





 授業後、朝日と一緒にバス停に向かっていると、図書館前のイチョウ並木で声を掛けられた。


「岸川さん……」

「この度は春美と広瀬が申し訳ありませんでした!」


 夏美さんは深々と頭を下げた。


「頭を上げて下さい!」


 ゆっくりと頭を上げて俺と朝日を見た夏美さんは、何か吹っ切れた様に爽やかな表情だった。


「今日はどうしても謝罪とお礼が言いたくて、不躾にもこんな風に待ち伏せして申し訳ありません」

「お礼? 俺たち、お礼を言われる事は何もしてないですよ」

「これ、」


 夏美さんが小さな巾着を取り出し中の物を俺たちに見せる。

 

「これは、あのピアスですか?」


 夏美さんはこくりと小さく頷いた。


「拾ってくれてありがとう。私達にとって宝物なんです」

「宝物?」

「えぇ。本当にありがとう。そして、もう事務所から伺ってるとは思いますが、広瀬海は降板いたします。こちらの方もご迷惑お掛けしますがよろしくお願いいたします。……本当に申し訳ありませんでした!」


 夏美さんはもう一度深々と頭を下げると、駅の方へ向かって歩き始めた。俺達は夏美さんの姿が見えなくなるまで二人共何も話す事もなくただ立っていた。


「陽向くん、昨日新しく使える様になった機能使ってもいいかなぁ?」

「あぁ」


 朝日はいつもの様に空間を遮断すると、


「新機能ストーリー」


 空間にでかいスクリーンが浮かび上がってきたと思うと、さっきまでそこにいた夏美さんの子供の頃が映し出された。


 よく似た女の子が2人。この子達はきっと、夏美さんと春美さんだ……。 


 2人はたくさんの子供達と一緒にどうやら、施設らしき所で暮らしている。


 大人の虐待や子供のイジメ……笑顔を失った2人、彼女達を守る様に庇っていたのは、いつも同じ15歳くらいの少女。

 

 ……この少女は千歳夏菜子……?


 年月が過ぎたのだろう、次のシーンは18歳くらいになった2人。その2人を連れて施設を出る千歳夏菜子。


 千歳の顔が大きく映され、唇で言葉を読み取る事が出来た。


『迎えにきたよ』


 音声は無いが、夏美さんと春美さんは千歳に抱きつき泣いていた。

 

 そして、またシーンが変わり、千歳からピアスが2人にプレゼントされた。


 中身はルビーのピアスとサファイアのピアス。

 2人は一つずつ交換して着ける事にしたんだ。

 それが、あのピアスだったんだ。


「宝物……」


 朝日がぽつりと呟く。


「2人にとっては存在を認められた証だったのかもな……」

「うん……」

「だからと言って、春美さんがやった事は許されるわけじゃない。だけど……いつか幸せになって欲しいと思うのは偽善者かな」

「陽向くんらしい!」


 朝日はにっこり笑って指を鳴らした。


「さぁ、オーディション行こう」

「うん!」


 春美さんにとって千歳は自分たちを暗闇から助けてくれた女神のような存在だった。


 だけど、すべての女神が幸せを運ぶとは限らない。


 嫉妬深く、邪悪なモノだっているんだ。

 

 人を惹きつける存在。


 魅了された人間は天に登れるのか、闇に堕ちるのか……。


「朝日くん、バス来てる!」

「やばっ」


 慌ててバスに乗り、20分程で到着したビルの2階に劇団『翔鳥』がある。


 今日はオーディションという事で、幅広い年齢層の男女であまり大きくない待合室は犇めき合っていた。入口の横にホワイトボード。

 

 ホワイトボードには『触れられない2人』オーディションと書かれている。


「スッゴイ人だね」


 後ろから声が聞こえ振り向くと、派手なピンク色の髪の如月大地(きさらぎ だいち)がいる。


 如月はにっと俺に笑い、


「また、陽向と一緒か。楽しくなりそう」


 と、俺の肩に手を回してくる。


「やめろ。ま、俺も同感」


 如月と役を競い合うのか。

 これは難関になりそうだな……。



 11月18日 やり直し人生三回目 

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