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どん底だらけの俺の世界に自称魔法少女がやってきた。  作者: 夏嶋咲衣


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2/21

1.失礼すぎるだろ

足を止めてくださりありがとうございます!

「キミ、幸薄そうな顔だね」


 古びたバス停。

 停留所名を記した鉄のプレートを支えるのは、これまた同じく鉄でできたポール。ところどころ錆びているので、年代を感じさせている。時刻表付きの標識しかない、簡易な作りも一因だと思う。ベンチや日光を避ける屋根もないので、使う人は少ない。


 俺の通う高校に近いので下校時はこの寂れた市営のバスにお世話になっているのだ。

 生徒があまりつかわないのも俺には嬉しい。



 俺を見上げながら小首を傾げるからチョコレートブラウンのボブヘアーがさらさらと弾む。

 とんでもなく失礼な台詞を初対面の俺に投げかけたのは、所謂美少女と言ってもいいルックスの持ち主。

 冬へと足を踏み入れ始めた空は茜色。光を反射して彼女の顔を空自身と同じように染めていた。 

 

「聞いてる?」


 小さな手を俺の前にもってきて、ひらひらさせる。


 関わらないほうがいい。


 こういう無神経な奴は苦手だ。

 

 ろくな事にはならない。


 過去の経験から反射的に気がついてない振りをした。



「ねぇ、聞こえてるんでしょ?」


 はあ。と彼女は大きくため息を付くと、また俺に話しかけてきた。


「無視しなくてもいいでしょ。キミだってバス待ってるんだよね?」


 彼女はバスの時刻表を確認した後、自分の腕に視線をかえ今の時間を確認しているようだ。


「え~っと、次のバスまで正確に到着しても3分。でも、いつも遅れて来るから12…15分はここで待つの。だから…」


 この目の前の女子高生はブレザーの裾をいじいじと落ち着かなくさわりながら、「だから…」を何度も繰り返している。


 俺は苛立ちを抑えきれず、


「だから、なんですか?」


 彼女はガバっと俯いていた頭を上げ、何故かきらきらした瞳で俺を見た。


「やっと、話してくれた!」

「は?」

「さっきから話しかけてるのに無視するんだもん。」


 俺はちらっと彼女に視線を向ける。


「何か用ですか?」

「…特に用があるわけではないけど。君、昨日春下駅の近くにいたよね?」

「…」


 グイッと俺の腕をひっぱり、距離感がバグっているんじゃないかと思うほど顔を寄せてきた。

 親しくもない奴にパーソナルスペースが侵されると身構えてしまうのはよくある話だと思う。


「私も昨日春下駅にいたの!君、缶拾ってくれたでしょ?」


 昨日の…春下駅って…。


「すみません。憶えてません」


 「え?」と驚いたように彼女の唇から溢れた言葉に、少し罪悪感が湧いたが、気が付かない振りをした。関わらないとさっき決めたのだ。

 

「本当に?…私に見覚えもない?」

「申し訳ないけど」


 彼女から視線を反らし暫くは地面を見つめていたが、妙に気になりちらっと彼女を見た。


 驚いた…。


 さっきまでのグイグイときていた彼女の雰囲気は一転して、何故か瞳に溢れそうな程に涙を溜めている。


 まるで俺が虐めているみたいじゃないか。

 

 はぁ。と俺は大きくため息を付くと、


「キツイ言い方になったのはすみません」

「こちらこそごめんね。陽向君が忘れちゃったのは仕方ないよ」


 陽向君?


「なんで俺の名前知ってるの?」

「へ?」


 彼女は驚いたように声を上げた。


「だって陽向君は、あの、勇者未来探偵の立花陽向君だよ?私の年で知らない子なんていないよ」


 興奮気味な彼女とは対象的に俺の心はすっと冷めていくのを感じる。

 

 子役の陽向君。


 自分自身が超えられなかった壁にぶち当たったようで、モヤモヤとする。


「よくわかったね。だって俺、随分テレビ出てないし、普段はこんなだし」

「私には分かるよ。勇者未来は私のヒーローだから。私も人助けがしたいんだ」



 真っ直ぐな目で見つめる彼女には勿論悪意はない。ただ、俺のコンプレックスをどストレートに刺したにすぎない。


「あ、そう」


 彼女は一度ギュッと目を閉じ、決意したような顔で俺に向き合う。


「それに『ぷるるる』


 アナログな機械音。俺のスマホの着信音が彼女の言葉を遮ったのとほぼ同じくらいに、いつも遅れてくるバスが到着したアナウンスを告げた。


 はっと我に返った様な顔をして俺に軽く微笑むと、バスのステップを足早に登り座席に座り、俺へと顔を向ける。


「またね」

 

 彼女の唇が音もなく動いたのを俺は何故かぼんやりと見ていたんだ。

 





 結果だけをいうと、昨日のオーディションは合格だった。

 

 そりゃそうだ。

 未来を知っていたから、クライアントが望む物を提示した俺は正にぴったりだったんだから。

 

「陽向、スケジュールとおおまかな台本はメールでおくるけど、台本はまた取りにきてくれ」

「わかりました」

「陽向さ」


 何故か菅原マネージャーは不思議そうに、


「なんか、芝居変えた?」

「え?」

「別人みたいだと町田さんが言ってたよ」


 町田さんとは昨日の制作会社のディレクターさんだ。


「そうですか?」

「ああ。なんか別人みたいだって」


 一瞬ドキッとした。

 正直、電話で良かった。

 菅原マネージャーは鋭いから、直接会えば今の俺を疑ったかもしれない。別に未来から来た俺だから立花陽向ではあるが、ずるをしたようで失望されたくないと思ってしまう。


 まぁ、未来から来たという時点で他人には荒唐無稽な話なんだろう。


「役者ですから、演じる人物が変われば演じ方も変わりますよ」


 菅原マネージャーはまだなにかごにょごにょ言っていたが、


「これからも、頑張ります。では、近いうちに台本取りに事務所へ伺いますね」

「了解。お疲れ様」

「はい。お疲れ様でした」


 スマホの通話が切れた音がした。俺はスマホをベッドに起き、勉強机の引き出しから青いレザーの手帳を取り出し、ページを開いた。

高校の入学祝いに祖父がくれたボールペンで、いつもの様に日付と天気を記入する。



 11月7日晴れ 


 今日は昨日のオーディションの結果が菅原マネージャーからあった。

 合格だった!

 この好機をバネにして、立花陽向は元人気子役を返上する。


 撮影の日は後日知らされるが、雨だと思うから帰りに困らないように、着替えを用意。

 衣装は自分準備で薄いエメラルドグリーンが好感触。



 ここまで書いてこんなにも深く書くと疑われるかもと一抹の不安が過ったが、誰かに見せる訳ではないから自分への覚え書きとして、このまま消さないでいようと思った。


 あ、そうそう。

 忘れてはいけない出来事を閉じかけた今日の日記に足す。


 「幸薄そう」と出会って2度目らしい女性に言われた。

 失礼な奴だ。

 ほぼ初対面の相手にそんな事言う奴を初めて見た。

 いや、親しくてもなかなか言わないだろ。

 まぁ、友達なわけではないので近づかなければ問題ないよな。


 俺は再度日記を閉じ、ベッドへと仰向けで倒れ込んだ。


 あ~!


 ザワザワとした気持ち悪さみたいなものが消えずに、時折不快な波が襲うのは、自分自身が本当の気持ちを理解できてないからなのか、アイツに言われた言葉に繊細過ぎる程反応してしまってるのか、思い出しては苛立つ。



 2度目に与えられた今の俺。


 絶対失敗しない。



 やり直し人生 2日目。



 


  

 

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