表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
どん底だらけの俺の世界に自称魔法少女がやってきた。  作者: 夏嶋咲衣


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/21

12.得をするのは?

 朝日と相談し、町田さんや白川さんの犯行時刻の動向を整理しようという事になった。

 

 スタジオ前に戻ると先程と同じ様に、町田さん、君島さん、白川さんが話しこんでいる。


 君島さんが俺に気が付き、


「あれ?陽向くん」

「監督にはまだ伝えてませんか?」


 君島さんは撮影中のランプが点灯している扉上を指差して、俺に答えてくれた。


「なんだか時間が掛かってるみたいで、誰も出てこないのよ」

「…そうですか」

「同じ衣装がないか今スタイリストさんが聞いてくれてはいるんだけど、早朝だし難しいかもしれないですね」


 町田は溜め息を付きながら、何度もスマホを確認している。


 ただ今の時刻は6時45分くらいだ。

 まだ、寝ている人もいるだろう。


「連絡を待つしかないですね。…ところで、町田さんと白川さんはやっていた仕事の続きは大丈夫ですか?」


 流石に露骨には聞けない。

 ふんわりと言葉を濁し、続きを心配しているように聞いてみる。


「あ~、ロケ車にカメラマンと荷物積んでいただけだから、こちら優先で大丈夫ですよ。白川は大丈夫?」

「はい…。私もロケ弁の最終確認の電話していただけなので、大丈夫です」


 それから俺達は重苦しい空気の中で話す事なく、撮影中のランプが消えるのを待っていた。


「あ…」


 白川さんの声につられるようにランプを見ると消灯し、ドアーのすぐ近くで何人かが話す声が聞こえてきた。

 ゆっくりと開いたドアー。

 

「あら、皆さんお揃いですか?」


 この緊迫した場面に似つかわしくない千歳の声が廊下に響いた。


 その後ろにはスタジオ撮影チームと監督が一緒にいる。


「監督!」


「町田、まだ向かってなかったのか?…なんだ、何かあったのか?」


 青ざめた町田さんや俺達の雰囲気を見て、監督は何かを察したようだ。


「監督、和也の衣装が二着共に使えません…」

「え?どうして…」


 町田さんは申し訳なさそうに、ペンキがつけられたシャツとビリビリに引き裂かれた予備を見せた。


「誰かが故意にやったというわけか…」


 白川さんが深く頭を下げ、涙声で謝罪をした。


「申し訳ありません!私がもっとしっかりしていたら避けられました!」

「責任の追求はまた後だ。今はこの後の事を考えないといけない。町田、スタイリストさんはどこに行ってる?」


 町田さんは監督に近付き、


「衣装提供の会社さんのお店に電話して、同じシャツがないか確認中です。ただ、早朝でまだ担当者さんと連絡が取れてなくて…」


 監督は顎に手をあて考え込んだ。


「別の日にしたらいいんじゃないですか?」


 にっこりと微笑みながら、千歳は良い案を思い付いたと言わんばかりに手を合わせた。


「陽向くんでケチが付いてるんですし、海のスケジュールに合わせて私の様にスタジオ撮りにしたらいいんじゃないですか?」


 千歳は監督に威圧的な態度で思い通りにしようとしているんだ。

 だが、その提案に監督が首を縦に振る事はなかった。


「それは、お断りします」


 千歳は頬を引き攣らせながら尋ねる。


「何といいました?」

「お断りすると言ったんですよ。千歳さん、キャストの部分でこちらは随分妥協したつもりです。ドラマの中身にまで口を出すのは筋違いではないですか?」


 千歳は少し上がり気味の目尻をさらに上げて、監督を睨みつける。


「…覚悟はできてるんですよね?」


 気に入らないモノは排除する。

 今まで千歳がやってきた事だ。

 彼女は自分の意にそぐわないモノは許さないんだ。

 

「おいおい、こんな所で何揉めてるんだ?」


 軽めなアルトが後ろから響いた。

 声の主は千歳の相手役のイケメン人気俳優の小西翔太さんだ。

 彼は激怒している千歳の両肩をポンポンと叩き、


「千歳ちゃーん、美人がそんな顔しないよ。スマイル。スマイル」


 と、笑って見せる。


「小西さん、すみません」


 町田さんが小西さんに近付き頭を下げるが、彼はそれを制止し、『ドンマイ』と言いながら、キョロキョロと周りを見渡した。


「お、いたいた。岸川ちゃん、千歳ちゃんの楽屋開けてよ。監督、ちょっとクールダウンしてきますわ」


 岸川さんは慌てて左ポケットから鍵を取り出すと、鍵を開けた。


「ほら、千歳ちゃん、ゆっくり休んで休んで」


 小西さんは千歳の腕を引き一緒に楽屋に入って行った。


「監督…」

「大丈夫だ。今はこの後の衣装を解決する事が大事だろ?」


 監督の一言で重苦しくなっていた現場の空気は、目標を一つに向けて前向きになろうとしていた。

 しかし、スタイリストの多田さんからの着信が、俺達の不安を掻き立てる。


「多田さん、お疲れ様。はい…あ…はい…わかりました。監督に相談して折り返します」


 町田さんは電話を切り、監督に向き直るが強張った表情がもう結論を知らせていた。


「後日なら大丈夫ですが、今日は在庫がないそうです」

「後日…」


 後日なら俺ではなく海の空いているスケジュールでやればいいと言った、千歳の思惑通りに事が運ばれる可能性が出てくる。

 いや、確実にそうなるだろう。

 千歳なら裏でスポンサーに手を回して、自分の意見を通すに違いない。

 

 横目でちらっと監督に視線を向けたが、俺と同じ事を考えているようで、悔しそうに歯を食いしばっていた。


「朝日、ちょっと来て」


 朝日を手招きして小声で尋ねた。


「クエストが成功すれば、俺の未来は良い方に向かうのか?」

「…悪くはならないと言った方がいいかな。一つのクエストが致命傷になる事もあるけど、道を変えるだけって事もあるよ」


 致命傷になる事もあるけど、道を変えるだけって事もある…。

 それは、クエストをクリアーか時間オーバーになってみないと多分分からないんだろう。


 犯人を探せ…。


 俺と朝日は千歳が犯人だと決めつけている。

 だが、はっきりと根拠はなく、断定出来るわけがない。

 犯人が千歳であるという保証もない…。


 もし…千歳が犯人でなければ、今のままの捜査ではクエストの成功は不可能だ。

 先入観から犯人を1人に絞り、行動するのは危険だよな。


「朝日、和也の衣装は何故ダメにされたんだろう?」


 朝日は不思議そうは顔で、


「え?陽向くんを降ろさせたいからじゃないのかな?」

「どうして?」

「広瀬くんに続けさせたいから」

「このシーンを俺がやったって、広瀬が和也である事は変わらないはずだよな?」 


 朝日は顎に手を当てて考える素振りをする。


「確かにそうだよね。このシーンを陽向くんがやったとしても、本来の和也が広瀬くんである事は変わらない。本当にそう…。事実を変えることはないならどうしてこんなことをしたの…?」

「他に理由があるんだとしたら、そもそもの考え方が間違っているのかもしれない。朝日今回の件で誰が得する?」

「あの人じゃないの…?」


 俺は無言で首を振る。


「一見特をするように見えるかもしれないけど、イメージを悪くしているだけにしか俺には見えないんだよ」

「確かにここにいるスタッフには良い印象持たれないよね」

「そうなんだよな」

「良いイメージは感じないわよね」


 突然加わった第三者の声に俺も朝日もビックリしてしまい一瞬フリーズするが、固まったままの朝日を横目にして俺は営業スマイルを作った。


「君島さん、どこから聞いてたんですか?」


 俺の営業スマイルに対抗してか君島さんもにっこり笑いこそこそと小声で答えた。


「千歳さんのイメージが今回で悪くなるって話かな」


 正確に言えば前からあまり良くはないイメージがさらに悪くなると言いたい。

 まぁ、わざわざ言わないけれど。


「秘密でお願いしますね」


 君島は手でOKマークを作って頷く。


「でも、本当に困ったわね。千歳さんが絡んでたとしたって」


 俺は慌てて顔の前で×を作り顔を横に振る。

 君島さんははっとした顔をして、ペコリと頭を下げた。


「衣装がダメなんじゃ撮影できないものね」


 衣装がダメ。

 衣装がダメ…?


 いや、衣装はある。

 ただ、赤いペンキが付いているだけだ。


 俺ははっとして声を上げた。


「町田さん、赤いペンキありませんか?」


 不思議そうな顔で町田さんは俺を見るが、質問には答えてくれる。


「え?直ぐにはわからないけど、近くに工務店ならあるよ」

「だったら、準備して下さい!」

「陽向どういう事だ!?」


 監督の問い掛けに俺は自分の考えを慎重に言葉にした。


「少しの汚れなら、違和感が起きるかもしれません。逆にこの汚れたシャツに更にペンキを付けて意図的に見せることは出来ませんか?」

「意図的か…。和也は心に傷を負っていてその痛みを克服するまでが輝くのテーマだ。血で汚れたシャツを脱ぎ捨てる…」


 監督は力強い目で俺を見て、


「陽向、上半身脱いで貰うことなるが大丈夫か?」

「勿論です!」


 監督は白川さんを呼び、


「白川、赤いペンキ買ってこい」

「は、はい!」


 白川さんに指示を出し、ホームセンターで一缶赤いペンキを買いに行かせた。


「千歳、お前を納得させてやるさ」


 ふっと笑い俺に視線を向け、


「陽向の快進撃みせてやれ」


 そう言って俺の肩を叩いたんだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ