10.代役
いつもありがとうございます!少し掲載遅れるかもしれません(ᗒᗩᗕ)
雲一つない快晴だ。
和也の心が開放された象徴のシーン。
このドラマ『輝く』のタイトル通りに、それぞれの世代のメインが光となる。
「おはよう!陽向くん」
背中にボディバッグを背負った朝日がニコッと微笑んだ。
「おはよう」
「今日は撮影日和だね〜」
俺はもう一度空を見上げる。
眩しすぎる日差しに目を細め、
「ああ」
「陽向くん、今日も千歳と一緒だから気をつけてね」
俺は小さく頷くと、周囲を見回し誰もいない事を確認した。
「朝日こそ気をつけろよ。あと、絶対に自分が俺を守らないとなんて思わなくていい」
朝日は怒ったように俺を睨み、直ぐに目をそらした。
「いや」
「朝日」
「約束出来ない。私がここにいる意味なくなっちゃうよ」
「女の子に守られるとかカッコ悪いじゃん」
朝日は俺の前にビシッと人差し指を指して、
「陽向くんはマンボウなんだよ」
「は?」
「陽向くん、マンボウ知らないの?」
「いや、知ってるけど」
良かったと頷く朝日は言葉を続ける。
「だっだら、マンボウがストレスとかに弱いって知ってるかな?」
「詳しくは知らないけど、何となくは知ってるよ。例えば、水中の泡が目に入ったストレスで死ぬ。前のウミガメとぶつかる予感がしたストレスで死ぬ。近くに居た仲間が死亡したショックで死ぬ。とかだろ?」
「そう!今陽向くんはその最弱かもしれない、マンボウみたいなものなんだよ。いつ死んでもおかしくないから、気をつけないとダメなの」
真顔で心配そうにしているので、どうやら冗談ではないみたいだ。
俺はぽりぽりとこめかみ辺りをかき、
「心配してくれてる事は分かった。だけど、俺だって朝日を危険には晒したくないんだよ。それも分って。それに、今回は朝日が俺を助けてくれる。前よりは俺にも防御力があるってこと」
「うん。私頑張る」
朝日は胸の前でぐっと握り拳を作った。
気合いが感じられるが、そんなに意気込まなくてもいいのにな。
「さて、楽屋入りするか」
「はい!」
局の正面玄関の右側にある警備員室の窓口で受付を済ませる必要があるが、3ヶ月程撮影でこのスタジオを訪れる予定なので、町田さんが入館証の発行を申請してくれている。
「おはようございます。立花陽向とマネージャーの朝日りんですが、町田さんから入館証の申請があると思いますので、確認をお願いします」
「おはようございます。…立花陽向さんと朝日りんさんですね。伺っております。こちらに、お名前のご記入をお願いします」
二十代くらいの警備員さんが、ボールペンと書類を出し、記入箇所を示してくれる。
俺と朝日は言われた通りに記入し、入館証を作成してもらい首から下げた。
このスタジオに入る時はパスを見せれば、訪問書に名前などを毎回記入しなくてもいい。
「ありがとうございます」
俺達はお礼を行って、第1スタジオの方へと向かい始める。
足早に歩く俺の後ろに小走り気味でついてくる朝日。
「あ、ごめん。歩くの早かった?」
少しスピードを緩めて朝日の歩幅に合わせると、俺を見上げで柔らかい笑みを浮かべた。
不思議と心臓の辺りがくすぐったくなる。
何だよこれは…。
「陽向くん?」
「何でもないよ」
今の顔を朝日に見られたくない。
「あら、陽向くん早いのね」
なるべくなら会いたくない相手の声は、瞬時に俺の背中を凍えさせるのには十分だった。
振り向くとマネージャーを1人連れた千歳が、ラフなワンピース姿で立っていた。
通路の横が千歳の楽屋のようで、タイミング悪くそうそうに会ってしまったようだ。
千歳の顔を見ると、まるで深い海で足を引っ張られ、沈められる様に不安で息苦しくなる。
それに…千歳の身体には依然と同じ蛇が絡み付いていた。その目は毒々しい赤さを帯びていて、捉えられた獲物を狙うそれだった。
「おはようございます。僕の入りは6時ですよ。千歳さんこそ早いんじゃないですか?」
「他の登場人物の芝居を見る事が重要だと思ってるの。今回は特に要のシーンでしょう?」
おっとりとした口調だが、端々に棘を含ませているんだ。きっと…。
「そうですね。とても責任を感じてますよ」
「変な事言うわね。陽向くんは偽物でしょ」
「は?」
千歳は心底可笑しそうに笑いを滲ませる。
「海から奪った」
わざと相手を刺激するような言い回しは変わらない。
感情的にさせて、自分のペースに持って行こうとしているんだと今なら分かる。
「冗談だとしても笑えないですよ。僕は広瀬くんを助けたつもりですから」
「あなたが海を助ける?」
「そうですよ。本来ならスケジュールを開けるべきは広瀬くんとその事務所です。僕は管理の出来てないマネージャーを助けたと思いませんか?」
千歳はぎりっと奥歯を噛み締めたが、すぐにいつもの表情に戻った。
「そうね。うちの社員の失態をフォローしてくれて感謝だわ。でも、余計な事はしないでね」
「余計な事?」
千歳は唇の端だけで笑う。
「ええ。あなたは代役なんだから、海の演技そのままでいい。海を越えようとする必要はないの。人の役で評価を期待するなんて馬鹿げてるものね」
あぁ。
今回も目を付けられちゃうな。
いや、昨日の時点で付けられていたんだ。
「千歳さんがそれを言うんですね」
「は?」
千歳は目を細め、俺を射抜く様に見た。
「何が言いたいの?」
俺はにこやかに笑い、
「わからなければいいんです」
この笑顔はあなたに教わったモノですよね?
どんな時にも仮面を被り、自分の本心を相手に見せない。
千歳はただ無言で俺を見ていたが、
「わからないわね。岸川、喉が乾いたわ」
「はい!お水すぐにお持ちします!」
「よろしく。じゃあ、陽向くんまた後で」
岸川さんが左ポケットから楽屋の鍵を出し、右手に持ち変え扉を開けると俺の返事も聞かず自分の楽屋へと戻って行った。
はぁ。
思わず漏れた溜め息で、体の緊張が解けていくのを感じ、自分が緊張していた事を知る。
ふと気がつくと朝日も同じ様に顔を強張らせて、縋るように俺のシャツの裾を掴んでいた。
「大丈夫か?」
「あ…大丈夫」
朝日は慌ててシャツから手を離し、
「挨拶しに行こう」
「そうだな」
今日はまだ始まったばかりだ。
千歳の事は気にはなるが、今は和也のシーンに集中する事を考えよう。
廊下の突き当りに俺達の目指していた第1スタジオがある。
撮影開始前なので、スタジオの扉は開いているが、照明がまだ照らされていないスタジオは薄暗く、町田さんを探すのに手間取った。
「町田さん、おはようございます!」
スタジオの椅子に座りセットを眺めていた町田さんに声をかけた。
「陽向くん、朝日さん、おはようございます。今日は本当にありがとう!」
「とんでもないです。よろしくお願いします。今日のタイムテーブル確認してもよろしいですか?」
町田さんはポケットの入れていたペンライトを取り出し、スケジュールを確認。
「まず陽向くんにはヘアーメイクをメイク室で、してもらいたい。その間に陽向くんの楽屋に衣装を運ぶから。そして、着替えまで済んだら第二チームで昨日の場所に移動して撮影開始」
「わかりました!」
町田さんはキョロキョロと周りを見渡し、
「白川!ちょっと来て」
名前を呼ばれた白川さんは返事をしながら、小走りで俺達の所へきた。
「何ですか?」
「立花くんと朝日さんを楽屋に案内して。荷物置いたら、メイク室にもよろしく」
「わかりました。ADの白川です。よろしくお願いします。立花さん、こちらにお願いします」
町田さんに軽く頭を下げ、俺達は白川さんの後に付いて行くとスタジオから少し離れた楽屋まで案内された。
少し大きめの部屋だが、何人かで使うタイプのようで鏡がいくつか壁に付いている。
「今日は和也の弟役の橋本浩二さんと相部屋です。荷物を置いていただいたら、メイク室に行きましょう。貴重品はこちらのロッカーにお願いします」
駅にあるような普通のタイプのロッカーに財布をしまい、鍵は取り敢えず朝日に渡した。
「朝日、これよろしく」
「はい。私は菅原さんに入りの電話してくる」
「了解。電話終わったらここで待ってて」
メイクをして今から俺は和也になるんだ。
「はい。完成。陽向くん、本当に大きくなったわね」
親戚のおばちゃんのように話すのは、ヘアーメイクの君島ちささんだ。
ちささんはヘアーメイク歴10年の局担当の人で、未来探偵の時にお世話になっていた。
「君島さん、親戚のおばちゃんみたいですよ」
「まだ三十代におばちゃんは失礼じゃない」
君島さんは明るく温和な性格で子役達にも人気がある。
「そういえば、今日は広瀬くんの代役なの?」
「はい。昨日雨が降っちゃって、撮影出来なくなったんですよ。広瀬くんはスケジュール詰まってるので、代わりに俺が演る事になりました」
君島さんは頭を横に傾け、
「私、台本読んだ時にね、正直、和也は陽向くんの役だと思ったのよね。だけど、広瀬くんで驚いたんだけど、千歳さんに主演変わったって聞いて『あぁ』って」
君島さんは喋り過ぎちゃったという顔をして、
「内緒ね」
と手を顔の前に持ってきて、お願いのポーズをした。
「勿論。そうやって言って貰えて嬉しいです」
「ふふ。さて、後ろ姿を和也っぽくしないとね。メイクは軽めに塗るわね」
君島さんがコットンにたっぷり化粧水を含ませ、俺の顔に貼り付ける。
昨日の撮影時の広瀬のバックショットを確認しながら、和也の後ろ姿に近づける為に髪をブローして形作っていった。
仕上げにかかろうとした時に、激しく扉のノックが響いたんだ。
「きゃ」
君島さんは小さく悲鳴を上げて、俺の肩に手を置いた。
「大丈夫ですか?」
「ごめんね。びっくりしただけよ。は~い」
君島さんが返事をする。
「陽向くん!」
扉を開けると青ざめた朝日の顔が飛び込んでくる。
「どうした?」
朝日は泣きそうな顔でハンガーに掛かったままのグリーンのシャツを渡した。
本来無いはずの真っ赤な液体が掛かったのか、所々赤く滲んでいる。
「酷い…。町田さんに連絡しなくちゃ」
スマホで町田さんに連絡している君島さんを見つめながら、俺は思考を巡らせていた。
これは…昔見た液体じゃないか?
あの時は俺じゃなく朝日が狙われた。
未遂だったけど、あの日のやり口ととても似ている…。
誰かが妨害しているのか?
「陽向くん、これって…」
「朝日、決めつけはよくない。まだ誰かに言うなよ」
朝日は無言で頷く。
これは終わりの始まりかもしれない…。
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