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神念  作者: 三屋城 衣智子


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中編

 夜通しネットに執心し寝るのも遅かったため昼になってから起きだした彼は、自室から出ると階下へ降りる。そこに台所から声がかかった。


「あら孝也おはよう、ちょっと母さんパートに行ってくるから、お使い頼める?」

「うっせーなババァ、今それどころじゃ」


 お使い、という子供の仕事のような言い方をされ孝也はキレかけた。だが母親の方が一枚上手らしい。


「お夕飯、納豆ご飯だけでよかったら、しなくていいのよ。どう?」

「……チッ! 出かけるついでにやってきてやるよ、メモあんのかよ」

「ダイニングテーブルに置いてあるわ。よろしくね、行ってきます」


 孝也の言論を鮮やかに封じ込めると、起きた孝也とは入れ違いにして、母親は家から職場へとたったか向かって行く。その背中を、送り出す言葉を発しもせずなんとなしに見送ると、彼はダイニングテーブルに置かれた食事を椅子に座って食べ始めた。片膝を椅子の上で立てて食べる様子は、五十という年齢にしてはどこか頼りない。

 彼は食べ終わると食器もそのままに自室へと篭る。パソコンの電源を付け、昨日掲載した作品がどれだけ読んでもらえたかチェックをした。すると、昨日ポイントを投げた作品の著者からポイントが入っていた。

『まるで映画のようでした』

 感想も書かれており、その文言からちゃんと読んでもらえたという手応えを得る。孝也は興奮した。


「やっぱ俺の作品面白いんじゃねーか!」


 彼は、通用すると思ったようだった。自分の作品は世に出るに相応しい、と。

 すぐさま追加で方方へ簡単なコメントとポイントを送った。兎にも角にもまずは読んでもらう導線だと考えた彼は、手当たり次第にそれを行う。

 そうして一通り満足するまでやりきると、パソコンの電源を落として流木拾いとお使いへと向かったのだった。


 ※ ※ ※


「……卵はある、豆腐……チッ、買い忘れたか。ま、いーだろ」


 お使いをし終わり、流木は成果物なしで腐して帰ってきた孝也は、生鮮品を買ったので渋々と冷蔵庫へ買ったものを片付けた。そのついでにおやつを物色すると自室へと引き上げる。

 ひとしきり甘味を味わった後、彼はふと昨日の行いの結果が気になってパソコンの電源をつけた。するとどうだろうか、自分の作品がそのサイトのトップに出ているではないか。

 トップに出る、とはどういうことか。小説投稿サイトにはおおよそサイトのトップページにランキングというものがある。これは人気の作品をより多くの読者へと届けるための仕様のようだ。その枠は非常に少なく、皆熾烈を極めてその椅子を奪取せんとしているらしい。

 孝也は興奮した。


「やっぱりだ! 読んだら俺の作品の良さはわかるんだよ!!」


 どんなもんだざまぁみろ。彼は口元で小さくつぶやくと、しっかりと腰を据えるために学習机の椅子に腰を下ろす。そして結果を堂々、SNSへ写真と共に報告した。


 インターネット某所

 @kotobagami:文芸だろ! へと投稿してすぐ日間一位取りました! これで胸を張って文芸を書いている、読んでもらえる作品だ、と言えます。応援ありがとうございます。

 @gakusei:おめでとうございます。

 @shakaijin:おめでとうございます。

 @katuotokonbu:一位すごいですね! 今度読んでみます。


 孝也は胸のすく思いだった。最大手のサイトではきっと人が多すぎて埋もれてしまっただけだったのだ、そう思った。


「読みもせずに俺の作品を埋もれさせやがって、あんなサイト潰してやる!!」


 それからの彼はそれこそ何かが乗り移ったかのようだった。毎日一話投稿しては、読まずに他の作者へ課金したポイントを投げる。この頃になると、もうコメントさえつけるのを煩わしいと感じていたから、するのをやめていた。せずとも読んでもらえている。ページビューの数字がそれを物語っていた。更新するごとに、数が増えているのだ。初期投資は済んだ、彼はそう考えているらしかった。

 同時に、最大手のサイトを潰すために不満と仲間を増やすべく、SNSでの活動を細やかに行い始めた。


 インターネット某所

 @kotobagami:文芸だろ! へと投稿して日間一位取った作品です! 『この世界に花散る』という文芸大作です。

 @shake:面白そうですね、読んでみようと思います。

 @umeboshi:読みました! 漫画を読んでいるようでした。

 @takana:一位すごいですね! 今度読んでみます。

 @gyuniku:応援ありがとうございます、今度読んでみますね。


大分仲間が増えてきたと感じた孝也は、ある時もう少し踏み込んだものの見方を投稿した。


 @kotobagami:今時のウェブ小説は言葉の簡略化が進みすぎています。もっと重厚な文芸のような作品がもっと読まれるべきです!

 @shake:その通りですね!

 @umeboshi:その通りです。

 @takana:そうかもしれませんね。

 @gyuniku:応援ありがとうございます、そうかもしれませんね!


 これまでの成果か自身に賛同する者は意外と多く、孝也はほくそ笑んでいた。カップラーメンを啜りながら、彼は次に何を言おうかと考えを巡らせる。


 インターネット某所

 @kotobagami:「小説だぜ!」は一握りの人だけがグループを形成してランキングを占有しています。それに比べると「文芸だろ!」は公平に誰にでもチャンスがあります。この自由な気風がもっとウェブ全体に広まらないかと、最近よく考えます。

 @dhi-kei:応援ありがとうございます! ほんとそうですよね。

 @shachiku:お応援ありがとうございました。私もそう考えます。

 @shake:その通りですね。

 @umeboshi:その通りです。

 @takana:そうかもしれませんね。

 @gyuniku:応援ありがとうございます、そうかもしれませんよね。


 SNSで自身の言説が共有されるのは、実に気持ちの良いものらしかった。孝也はたまに、その考えが広まるのを眺めては酒をひねった。


「孝也? お夕飯できたわよ」

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