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灰のマリコさん  作者: 我堂 由果
42/65

42.これしかない

 京一郎が興味を持ったのは二ページ目だと思った。そのまま観察していると、二ページ目を向いた京一郎の顔は、何十秒が経過しようと動くことはなかった。そして京一郎の両手は開かれたアルバムの右ページ端と左ページ端に添えられたままで、次のページを開こうともしなかった。


 あのページのどこかにマリコさんがいる?


 早苗は写真を一枚一枚思い浮かべる。二ページ目は小学生の京一郎の写真だ。

 早苗は一枚目の大人の女性と男の子は郁と京一郎だと思っていた。女性の方が実は郁ではなかったのだろうか。

 二枚目は一人残らず男の子だった。これはマリコとは関係ないだろう。

 三枚目の中、マリコでありうるのは、大人の女性と京一郎の同級生とみられる女の子。大人の女性は先生かと思っていた。先生ではないのだろうか。それとも小学生の女の子の方?


 可能性としては三人の女性の誰かがマリコだ。


 一枚目の大人の女性が一ページ目の少女の成長した姿だろうかと考える。一ページ目の二枚の写真の少女二人は年齢が近い写真だからか、両方の顔は面影があると感じられ同一人物と判断した。しかし少女と大人の写真となると、同一人物かちょっとわからない。早苗は顔からではなく京一郎の保管していた写真ということで、一ページ目の少女と二ページ目の一枚目の写真の女性は郁だと判断していた。


 そこまで考えて早苗はハッとなって、『あ』と声を出しそうになってしまい、両手で口を覆って隠した。随分と長い時間、用事を何もせずに、京一郎を熱心に観察してしまった。京一郎は気づいていないようだが、このまま離れた場所からじっと見ている早苗は、廊下から見たら変な人だと思い、ベッドサイドから京一郎の横に移動した。


「懐かしいですか?」


 当たり障りのない質問。京一郎はなんと答えるだろうか。


「マリコさんだけね」


 京一郎は答えると少しだけ顔をアルバムに近づけた。早苗は京一郎の顔がどの写真に近づいたのか目で追う。早苗も気になり、少しだけ顔がアルバムに近づいてしまった。それに気づいた早苗は慌てて顔を遠ざける。


 もしかしてあの写真? あれって……


 京一郎が顔を近づけてまで見ているのは、二ページ目三枚目の写真であった。教室で撮られたらしき、大人の女性、男の子二人、女の子一人が写った写真。あの中にマリコがいる。大人の女性の方か、女の子の方か。

 写真が小さいので、写真全体に顔が近づいているように見えて、京一郎の目がどの人物を凝視しているのか早苗は特定できない。


 まず大人の女性の方から考えてみる。もし彼女が小学校の先生だとしたら。いくら京一郎が成長して社会的地位が高くなったからといって、幼い頃世話になった先生を『さん』づけで呼ぶだろうか。それは大変失礼なことだし、京一郎がそんなことをするようには見えない。とすると女の子の方がマリコだろうか。幼馴染や同級生なら、『マリコちゃん』や呼び捨て、または苗字で呼びそうだが。京一郎はこの少女をのちにでも、例えば大人になってからも付き合いがあって、『マリコさん』と呼んでいたのだろうか。でも京一郎のことは『京ちゃん』と呼べというし、マリコが敬語で話のを不自然と言わない。なんだかすっきりしない。

 少女は小柄でおかっぱ頭、目鼻立ちのはっきりした将来美人になりそうな、かわらしい顔の子。性格も穏やかで優しければ、京一郎が好きになってもおかしくはないのだが。


「他にも何か持ってきて欲しい物はありますか?」


 早苗は尋ねてみた。京一郎にとって早苗はマリコなのだから、写真のどの人物がマリコなのか早苗はわかっていなければおかしい。でも早苗はマリコではないから、どの人物を自分として認識しなければならないのかわからない。アルバムについて、写真について、いつ怒り出すかわからない京一郎に下手なことは聞けない。だからアルバムに関してではない質問をした。

 マリコの手掛かりになる物が他にも院長室にあるかもしれない。それを取ってくるように京一郎が早苗に頼んでくれるのを少しだけ期待して。


「いや、いいよ。マリコさんはもうこれしかないんだ」


 これしかない。それではもう院長室には、アルバム以外マリコの手掛かりはないということか。誰かに見られる、京弥に見つかる、そんな危険を冒してまで色々と物色していた早苗の努力は意味がなかったのか。


「そうですか。何かあったら言ってくださいね」


 周囲の人たちに聞いて回ったのも無駄な時間。院長室の私物を掘り返したのも無駄な時間。自分はつくづく報われない人間だなと思う。いや、頭が悪いだけか。頭が悪いから報われるような行動が思いつかないのだ。

 早苗は荷物を置いた椅子の前に移動するとコートを羽織って、バッグを持った。


「捨てられた」

「え?」


 京一郎の呟くような声が聞こえた。一瞬聞き間違いかと思ったが、確かに京一郎は『捨てられた』と言った。早苗は、背を向けている京一郎の後頭部をじっと見る。


「京ちゃん?」


 早苗は続きの言葉が聞きたくて、マリコのように呼びかける。しかし京一郎は、それ以上は何も言わない。京一郎の背後にいる早苗の方に、僅かでも顔を向けようとしなかった。


「捨てられた?」


 早苗は思い切って尋ねてみる。しかし京一郎は何も言わないし動かない。これ以上刺激するのも怖い。早苗は諦めた。


「また明日来ますね」


 ただそれだけ言って病室を出た。何かが頭の奥に引っかかっていた。


読んでくださってありがとうございました<(__)>

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