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灰のマリコさん  作者: 我堂 由果
30/65

30.古い写真

 木曜日。第三回侵入日。

 早苗は何食わぬ顔で院長室の鍵を回した。


『前の院長先生のお使いですか。大変ですね』


 よりによって先程このフロアの廊下で事務長とすれ違った。何か話をしたそうだったが、早苗は凄く疚しいし時間が惜しいし。適当に挨拶をして会釈をして逃げた。冬だというのに、相手の名残惜しそうな視線に冷や汗が出そうである。前回と違い今日は出だしから運が悪い。


 いつも通りに院長室の収納の扉を開けると、ざっと中を見まわした。京一郎の義務教育時代の卒業アルバムなんてものは見当たらない。高校大学の卒業アルバムと共に並べられていない。京一郎の子ども時代、昭和中期には卒業アルバムなんて洒落た物はなかったのか。持ってはいたがなくしたのか。自宅の方においてあるのか。でも自宅になんてあったら真っ先に弥栄子が処分しそうだと思い、早苗はクスリと笑った。そしてあるとしたらやはり院長室だなと思った。


 例の重たい段ボール箱も気合を入れて引っ張り出す。中を漁ったが小中時代の卒業アルバムはなかった。卒業文集なんて物も早苗の世代は作ったなと思い、それも探す。でもなかった。

 とにかく小中学校関連の物はこの収納にはない。今日も無様に空振りかと思ったが、普通のアルバムなら何冊か卒業アルバムと共に並べられていた。早苗は向かって一番左端にある赤い布表紙のアルバムを手に取った。年代順に並べられていると思ったので、子供時代のアルバムは左か右かどちらかの端っこだろうと予想したのだ。

 ソファに腰かけて膝の上にのせたアルバムのページを捲る。一ページ目を見た瞬間、早苗は予想外の中身に眩暈がした。





 あなたはだあれ?


 一ページ目の左上の写真、多分このアルバムの一番初めとなる写真を見て、早苗は最初にその言葉が浮かんだ。

 真っ先に目に飛び込んできたその写真は、三、四歳のおかっぱ頭の女の子の写真。何かのお祝いらしく、かわいらしい花柄の着物を着ていた。その隣の写真は学生服、学帽、マントといった、戦前の書生さんのような服装の青年。どちらの写真も白黒写真で紙が黄色く変色している。端が破れていて画像も傷だらけで、戦前か戦中に撮られた写真と思われた。

 次の段には左側に両親と兄弟四人が写る白黒家族写真。兄弟は中学生くらいの男の子二人と小学校高学年くらいの男の子一人、それからその三人の妹らしき十歳くらいの女の子。

 その写真の右隣には軍服を着た男性の白黒写真が貼られている。どちらも上の段二枚の写真と同じ傷んだ状態で、見るからに古い。一ページ目の写真はその四枚だけだ。少女も男性も確信はできないが、上下の写真の顔を見比べると、面影があると言えばある。縦並び二枚は同一人物が写る写真かもしれない。


 とするとこれは、京一郎の一世代前の親族たちの写真ではと思われた。このメインで写っている少女と男性が、京一郎の両親のような気がした。戦争で焼けてしまったり歳月の経過で紛失してしまったり。でもこの四枚だけ京一郎はなんとか手に入れて、この時代まで保管したのだろう。

 京一郎の父親ではと思って観察してみると、この写真の男性と京一郎は似ている気がする。この男性が京一郎の父親で間違いないだろうと思った。早苗は、この学生さんイケメンだなモテただろうな、と考えながらページを捲った。


 二ページ目の写真も全て白黒で、貼られているのは三枚。しかし一ページ目の写真ほど劣化が激しくないので、一ページ目よりも新しい写真であろうと思われた。一ページ目が京一郎の両親の写真、この三枚が子どもの頃の京一郎の写真と考えて間違いないだろう。


 二ページ目一枚目は、小学生の男の子とその母親らしき女性が並ぶ写真であった。白黒なので色まではわからないが、男の子は半袖シャツと半ズボンを身に着けていて、坊主頭。母親は半袖ブラウスにスカートと、二人は日常の姿に見える。

 当時はカメラを持っている人は少なかったのではないか、偶々持っている人が近くにいて好意で撮ってくれた写真ではないか、と思われた。


 一枚目の隣に貼られた二枚目の写真は、小学校三年生くらいの男の子五人が、横一列に並んでいる写真だ。子供たちの手前に木製の机、背後が大きな窓で、学校の教室の一部に見える。これは小学校で撮影された写真のような気がした。カメラを持っている先生がいたのか、学校の訪問者の中にカメラを持っている人がいて撮ってくれたのか。これも偶々誰かの好意のお陰で、京一郎が手に入れた写真なのだろう。向かって左から二番目の、小柄で痩せた男の子が京一郎ではないかと、早苗は緊張したような面持ちで並ぶ子どもたちの顔を見比べて判断した。


 三枚目は、一枚目と二枚目の真下に一枚だけ、ページのど真ん中に貼られていた。これも小学校の中ではと思われる。成人女性と、小学校高学年と思われる――二枚目の写真よりも子供たちが大きく見えるので――男の子二人と女の子一人の合計四人が並んで写っている。成人女性の隣にいるのが、顔から京一郎ではと思われた。四人の背景には壁に沢山の絵が貼られていた。これもカメラを持っている誰かが撮ってくれたのだろう。


 そして三ページ目。そこには大判サイズの集合写真が上下に一枚ずつ、計二枚貼られていた。どこか雑然とした雰囲気の写真だが、どこでなんの時に撮られた写真か説明が書いてない。そこに写る学生たちの体のサイズやあどけなさから、中学校の上が入学式、下が卒業式の写真ではと判断した。次のページを捲る。そこにも二枚の集合写真。こちらは高校だろうか。こちらも何も説明がないので、入学式と卒業式かなと推察するしかない。


 その隣のページは、私服の若者たちが少人数で写る写真が沢山貼られている。試しに数ページをめくってページ毎にざっと写真を見ると、若者たちの様々なシチュエーションの写真が何ページにもわたってびっしりと貼られていた。このページ辺りから、写真の量が急激に増えているのがありありとわかる。京一郎が大学生になり、時代的にもカメラを購入できる者が増え、日常写真を頻繁に撮る機会も増えてきたのだろう。



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