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逃亡列車

作者: 柘榴

俺は追われている。そう、組織の金を持ち逃げしたからだ。そして、その組織の追手はこの列車に乗り込んでいる。風貌はいかつく、黒のロングコートと、黒のハンチング帽を被った40にいくかいかないかぐらいの中年の小太りの男だ。そして、その男は拳銃を持っていることも俺は知っている。命が危ない。それは間違いない。


追われる身の俺の恰好としては、紺のスーツと組織の金が入ったスーツケース、そして生まれつきの金の頭髪。見つかりやすい、と言えば見つかりやすい。武器は小さなサバイバルナイフのみ。これも組織から逃げ出すとき、とっさに自分のデスクから持ち出したものだ。


しかし、俺には絶対見つからない自信があった。それは、自分が今いる場所が列車の一番後ろの運搬用の家畜の荷台にいたからだ。


普通の客は一度列車から降りない限り入ることが出来ない。そして、列車は猛スピードで走っている。


一応俺のゴールとしては、次の都市部の停車駅まで見つからずに行き着くことである。何せ、人が多いので紛れてしまえば、もう相手も捕まえるのが不可能だからだ。


しっかし、この家畜小屋、豚が異臭を放っていて、決して居心地が良いとはいえない。しかし、今はがまんが肝心だ。無論、次の駅に着けば、このスーツケースの大金、五千万ドルは俺のものだからだ。


しかし、俺の完全犯罪を脅かすアナウンスが聞こえてきた。


〝現在、この列車内に窃盗犯が紛れ込んでいる、との情報がアトキンソン社の経理係と名乗る男性からもたらされました。犯人は今のところ見つかっていませんが、お客様各位が無理に捕まえようとすると、犯人が逆上して強行に出るとも限りませんので、それらしき人物が見つかっても、くれぐれも大声などは上げず、すみやかに係の者に申し出てください。もし、通常車両で見つからない場合は係員が最後尾の家畜用の荷台も調べる意向でございます。弊社としてはお客様の安全が何より大切なのは言うまでもありません。どうかパニックにならず、くれぐれも落ち着いて行動してください。以上です〟


これはまいったな。係員がこの豚箱を確認しに来る?予想外だ。どうする?このままここに居ても、捕まるのは時間の問題…。どうする…?


そうだ、列車の上の屋根に逃げよう。それしかない。


そうして俺は、一度家畜小屋から走行中の列車の横側の外に出た。


フン、警備員はまだ注視していない。今がチャンスだ!俺は列車の横側に張り付いて、なんとか手と足を列車に引っ掛けて、列車の上へよじ登った。


ふうぅ~、これで安心。俺は一息ついた。


しかし、


「想定内だな」


嫌な声が聞こえた。


「お前の行動なんてたかが知れてんだ」


アトキンソン社経理係、いかつい顔で全身黒のアリアスが待っていた。


彼は家畜小屋の荷台の屋根の上ににがっぷり仁王立ちしており、満面の、(それも嫌な)笑顔で俺を見つめていた。


俺は一応スジを通す人間なので、決闘の前になぜ俺がこんな犯罪を犯したのかを宣言しようと思った。


「お前は俺がただの犯罪者だと思うのか?」


経理係のアリアスは、へへん、と鼻で笑いながら


「思うね。会社の金を盗む。犯罪以外の何物でもない。小学生でも分かることだ」


俺は切り札を出した。


「その会社の金がなにか汚い方法でこっそりお前が稼いだものだとしたら?」


アリアスは明らかに動揺していた。


「なっ!?お前、どこからその情報を…っ」


「アリアス、お前は麻薬の取引を会社の裏でひそかに進めていたな。探偵を雇って調べてある。お前は会社の営業で稼いだ金だとアトキンソン社に報告しながら実は犯罪で金を稼いでいた。犯罪者はどっちかな?」


「だが、どんな汚い金で、俺に非があろうとも、それを盗んで私腹を肥やそうとしたお前もまた犯罪者だろ!………そうだ!山分けしよう!お互いの犯罪をもみ消すかたちで。」


俺は平然として―


「俺は犯罪者になってもいいと思っている。意外か?この金は慈善団体に寄付するつもりでいる。恵まれない子供たちにな。俺は孤児院育ちだからそんな境遇の子供たちの気持ちが痛いほど分かるんだ。そして、そんな金を山分けしようなんて言い出すお前はここで倒しておかなければいけない。」


アリアスはチッと舌打ちをして―


「どうやらどうしても独占するつもりらしいな。その金を!いいだろう。決闘しようじゃないか、この列車の家畜小屋の上で」


アリアスは拳銃を構えた。


俺は真っ先に小さなサバイバルナイフを惜しげもなくアリアスの顔面にぶん投げた―


〝この隙しかない!〟


そして、アリアスがひるんで、一瞬しどろもどろになったところを、一気に距離を詰めて、アリアスの銃を持つ手に蹴りを入れて、銃を地面にはじき落とした。


サバイバルナイフはアリアスの帽子に突き刺さっていたようで、アリアスの顔面、頭部に負傷は無かった。


しかし、そこからアリアスも早かった。


自分の安全を知ると、一目散にはじき落とされた拳銃を取り戻しにかかった。


俺が早いか―、アリアスが早いか―


………


アリアスが早かった―――


そして、拳銃を先に手にしたアリアスは、先程とはまた違った意味で嫌な笑顔をニンマリとつくり、


「ジ・エンドだ」


「待て、アリアス!後ろ!後ろをみろ!危ないぞ!!死ぬぞ!!!」


アリアスはもう勝ったも同然の顔で


「そんなこけおどしに引っかかるとでも?安らかに死ね」


「本当だ!トンネルが!アタマぶつけたら死ぬぞ!」


アリアスは不憫そうな顔をして―


「そこまでくると悲しいもんだなあ、命乞いも」


―――ドゴォォォン―――


アリアスの首が吹っ飛んだ。


そう、アリアスの後ろには、本当にトンネルが迫っていたのだ。


「ご愁傷様」


そしてその後、アリアスの罪が明るみになり、俺は情状酌量となり、例の金は、俺の願い通り、全国の恵まれない子供たちのもとへと還元された。


俺は何から逃げていたのか…。欲望か、それとも…


THE END



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