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3.はじめまして、こんにちは


「ヤマト様、こちらのお部屋です。」


松太郎さんが指を指す方向を見ると、そこだけ障子が張り替えられ綺麗になっていた。

ただ、中が見えないのがこれ程までに恐ろしかった事があるだろうか。

…確実に、この中の人々は怒っている。1人じゃない、複数、それも何人もいる。分かってはいたけれど、障子の前から分かるその感情。前までそんなスピリチュアルなこと少しも分からなかったのに、それが分かるのは、1年の研修の賜物じゃないだろうか。


わたしは、松太郎さんを床にそっと降ろして障子の前に膝をつき、頭を下げる。土下座の体制だ。松太郎さんはびっくりしたように声を荒げるけど、聞こえないふりをする。



「本日より、この寮、小隊に配属致しました使役者にございます。1年前、使役者適性があると診断された、ひよっこもひよっこ、卵と言っていただいても構いません。そのような者が、百戦練磨の皆様の使役者として配属されること、大変にお怒りかとは思いますが、どうかご挨拶をさせては頂けないでしょうか?」



礼をしたまま、なるべく聞こえやすいように大きな声を出す。…障子は、彼らが開けるまで開けてはいけない。

きっと、そんな気がする。

頭を下げて返答を待っていれば、一拍置いて男の人の声が聞こえた。



「政府が寄越してきたからどんな者かと思えば。…まだ、話が出来るもののようだ。使役者よ、お前は我らになにを望む?夜伽か?演舞と言う名の殺し合いか?


我々はもうお前を主人として認識するよう働きかけられている。お前の命なら命すら差し出すだろう。


我らに、なにを望む?」



彼は誰だか私にはわからない。


けど、彼もとても怒っていて、私なんかを信用していないことは空気でわかる。

わたしは少し顔を上げた。松太郎さんがあまりにも隣でお顔をお上げください!!ヤマトさま!!ときゃんきゃんなくもので、仕方がなく。…


「お国からの指令は、戦争にて敵を殲滅すること。こちらの小隊は諜報暗殺がお得意と聞いております、…ですが、猶予はございます。

此度ご迷惑をお掛けしたのは政府、日本国の不徳の致すところです。ですので、私のできる範囲での成果…他小隊への生命エネルギー供給などをこなせば、数ヶ月は任務を免除して頂けるそうです。」

「それは、政府の命だろう」

「はい、そうです」

「お前は、我らに、なにを望む?」


…この小隊を運営するにあたって、

やりたいこと。

一つだけ心当たりがあった。



「………んーーーー。個人面談させてください。」


「……………は?」

「いや、正直申し上げますと、わたし人の不幸ってとても苦手なんです。悲しいこととか、辛いこととかとっても苦手で。

幸せそうな人を見ていると、わたしは幸せになれます。


ただ、人に造られた身ではありながら、皆さん自我があると聞いていて、個人個人の性格がある、と聞いています。

私が一概にどうぞご自由に!ってしてあげたいところなんですけど、そうもいかない場合があるやもしれません。


だって戦争へ参加したい方は居ないかもしれない。

日がな一日お茶飲んでお菓子食べて、のんびりしたい方もいるかもしれない。

どこか行きたいところがあるのかもしれない。

なにかしたい事があるかもしれない。なにか欲しいものがあるのかもしれない。


とりあえず、私の出来る範囲で、一人一人の願いを叶えて差し上げたい。これがわたしの願いですかねえ?


あ、あとはこのお屋敷のお掃除をさせて欲しいです。」


一気に捲し立てるようにペラペラと喋る。


障子の向こうからは、なにも感じない。

怒っているのか、悲しんでいるのかさえわからなくなってしまった。無言。無音。そんな時間が少しだけ経った後、ばんっ!!と障子が一気に開く。

随分とたっぷりとした長い黒髪。金色の切長な瞳に首元にはファーの様な黒いもふもふ。濃紺の着流を着て、その美貌を存分に披露する、耳は大きな黒い犬?の様な耳に、フワフワの大きな黒い尻尾。それに相対する真っ白な肌は陶器の様に美しい。

…そこに居たのは、とんでもないイケメンだった。



「ああ、これはいい。今一度ひどい使役者が来たら追い返してやろうと思ったが、新しい使役者はとても清い匂いを持っているのう。


俺の名は橘花、タチバナにハナ、でキッカという。なに、正体はただのニホンオオカミだ。これから、よろしく頼むぞ?使役者どの。」



私の頬に触れる指はなんだか優しくて、私の存在を確かめるかのようにペタペタとキッカさんは私の体を触る。

…ちょっとばかし、くすぐったい。けど獣人間の皆さんの、謂わばナワバリに入るんだ。ボディチェックは必須なんだろうと我慢する。主に頬や髪を触られるがなんか仕込んでると思われているのだろうか?流石に頬に仕込むのはハムスターくらいな気もするのだが。



「橘花!!そんな簡単に信用していいのかよ!?コイツは、アイツと同じ人間だぞ!?」


キッカさんのボディチェックにより後方チェックを怠っていた。キッカさんの後ろを見れば、沢山の獣人間の皆さん。

皆さんどこか汚れていて、血が滲み出ているのがわかるほどの怪我をしている人さえいる。恨めしそうにわたしを見る人、怯えた目でわたしを見る人、怒ったようにわたしを見る人、なんだか話しかけたそうにわたしを見る人。そして、なにも見えていない人。様々な獣人間の皆様の視線を浴びる。

ペタペタと触ってくるキッカさんだけが何故かニコニコと嬉しそうだ。


わたしを恨めしそうに大きな声を張り上げる白い髪の毛の大きな猫耳?の様な耳をした方は、随分と沢山の包帯をしている。と、言うことはどこかしらを怪我をしていると言うことだ。

…治癒、したいなぁ。しちゃだめかなぁ。


「サゾウよ、それは〝個人面談〟とやらで見極めればよいのではないか?俺は、触れて、話して、この人間が気に入った。それだけの話だ


因みに使役者よ、俺は、日がな一日温かい茶を飲み、茶菓子を食べ、眠りたい時に眠り、偶に漫画なるものを読んで、ゆっくりと過ごしたいものなのだが、可能か?」


「なるほど。お茶は煎茶がよろしいですか?それともほうじ茶?麦茶?お茶菓子の種類なんかも、考えていて下さいね。…漫画、は、お好みがあるとは思うのですが…個人面談の際に聞いて行きますので」



のほほん、としているが床は血だらけ障子の奥も血だらけ外は穢れが立ち込め緑のない環境である。


キッカさんの願いはキチンとこっそり用意しておいたノートに書き留めた。

…それを見て更に睨む獣人間の皆様。

とりあえず、皆さん敵意があるのは分かったので、個人面談をさせてください。








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