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2.猫さんナビゲーター



「初めまして、ヤマト様!本日からサポートとして担当させて頂きます、わたくしネコ、と申します!精一杯務めさせて頂きますので何卒宜しくお願い致します…!」

「そんなに畏まらないで下さい、ネコ…さん?何もわからない私ですが、これからご指導頂けたらと思います。こちらこそよろしくお願い致しますね」


真っ白なモフモフとした小さな身体にすらりと長い尻尾。赤いしめ縄を首にかけ、金色の鈴がまん丸と輝く。

紛れもなく彼は猫型人造獣で、丁寧な言葉遣いで頭を下げる彼にわたしもしゃがみ、同じ様に礼をする。触らずともわかる、小さく震える小さな彼の生い立ちを聞いたのはほんの昨日のことだった。


このネコさんは、以前の使役者さんから酷い虐待にあっていたらしい。

使役者には一匹、姿形は違えど優秀なナビゲーター役の獣が側仕えとして派遣される。

彼も所謂人造獣人間叛逆問題の被害者で、前任の使役者さんが摘発された時に見つかったボロボロのネコさん。

真っ暗な厨房の小さな小さな人が入れるくらいの地下室に、縄でぐるぐる巻きにされて、声も出せないように、本来ならば謀反を企てた獣人間用のお札を貼られて閉じ込められていたのを発見され、一度政府で修理と治療を受け、今この場に立っている。と担当さんは言っていた。


そんな仕打ちを受けて尚、使役者のサポート役という自分の役目を全うしようとするこの小さな狐さんは、なんて恰好良いんだろうと。わたしは話を聞いた時に彼を小さく尊敬していた。


「ネコさん。貴方お名前がネコさんなのですか?」

「えっ…あ、わたくし個体名、というものを未だいただいておらず…。ヤマト様が呼んで下さるのであればどの様に呼んでいただいても構いませんよ!」


ワタワタと慌てる様に彼は少し頬を染めた。猫なので表情がない。なんてもう古い昔話である。なんだか可愛いその様子にふふっとつい微笑んでしまう。


んー、でも、ネコさん。とお呼びするのはなんだか物悲しい気もする。

そうだ。


「それでは、これからおめでたいことがこれから沢山あります様にと願いを込めまして、松太郎さんなんて如何でしょう。松竹梅の1番上です。」

「…な、なんと!それは嬉しゅうございます!!まつたろう…わたくし今後、松太郎を名乗らせて頂きますね!!」


ピコピコと耳を嬉しそうに揺らしながら彼、もとい、松太郎をさんは嬉しそうだ。


「松太郎さん。もし良ければ、私に抱かれて屋敷へと向かいませんか?」

「えっ!…そ、そのような恐れ多いこと…」

「穢れが酷いこの場所の地面は、小さなあなたには辛いでしょう?幸い、どうやらわたしは生命エネルギー…浄化の力は強いようです。触れていれば、少しは楽になるのではないでしょうか?」


「そ、それはそうなのですが、松太郎めといえど体重はございます。ヤマト様に松太郎を持たせるなど…」



うふふよいしょー、と、アワアワしている松太郎さんを問答無用で抱っこする。嫌がっているようなら止めようと思ったが、どうやらそうでもないらしいので遠慮はしない。このくらいで体重を気にするだなんて乙女さんだろうか。私重いからいいよぉ!なんて少女漫画ですら最近見ない展開だ。


やまとさまっ!と焦っていた松太郎さんも、わたしが降ろす気は無いと分かったのか落ち着いたように身を任せた。

うんうんいいことだ。初対面の女に抱かれるなんて嫌だろうけど我慢して頂きたい。


松太郎さんの頭をナデナデしつつ歩みを進めると見えてきたのはとんでもなくおっまえんちーおっばけやーしきー!と近所の少年に言われても仕方がないような出で立ちのボロボロな日本家屋だった。禍々しい、真っ黒い何かが家全体を覆っている。鼻を掠める匂いにはなにか良くないものも混じっているような気さえする。

樹木は枯れ、花も雑草も生えないこの地は、本当に傷付いた獣人間達が住んでいるのだろうか。




「さて、松太郎さん。なんだかお眠りになりそうなところ申し訳ないのですが、わたしはどちらに向かえばよろしいのでしょう?


目の前はたしかにわたしが想像していたよりお化け屋敷なのですが…こちらは入っても?」


「ッハ!し、しつれい致しました!ヤマト様の生命エネルギーとにおいがあまりにも心地良く…

こちらが、ヤマト様の受け持って頂く人造獣人間の寮になります。人造獣人間様方は本日使役者様が着任されるのをご存知で、広間にてお集まりとのことですのでそちらでご挨拶をお願い致します!

この屋敷自体、前任者の穢れ…負の生命エネルギーやら術がまだ残っているために、未だにこのような有り様ではございますが、ヤマト様がこれから生活をしていくにつれて浄化されていく、とのことでございます!」



だから諦めないでね?辞めないでね?と目で訴える松太郎さんの頭を再度撫でる。

なるほど、担当さんが言っていたのはこういうことか。


涙ながらに担当さんが教えてくれたのを思い出す。

基本的に使役する人造獣人間達は一個の小隊として寮にて管理される。

それは臭いが混ざらないように地域毎に存在していて、引き継ぎの場合は匂い、生命エネルギーを政府が浄化してから使役者に譲渡するのが普通らしい。

でも今回のわたしの引き継ぐこの屋敷は、前任者の霊力、生命エネルギー、匂いの数値が高かったために浄化しきれない、と匙を投げられ解体寸前となった小隊である。と。だが獣人間達の経験や戦地での成果も高く、殺処分するにはもったいないんだ。と。ただ、なまじ知能が高いせいで何もを受けてもらえない。八方塞がり。

そこに、わたしを見つけた政府の役人が、SSランクの匂いと浄化ならなんとかなるんじゃね?とこの寮に放り投げた。と。


…果たしてわたしに本当にそんな力があるのかは甚だ疑問ではあるが、やってみないことには始まらない。意を決して、松太郎さんの案内でお家に入っていくと禍々しさと血生臭さがどんどんと増していく。

前任者はどんな仕打ちをしていたんだろうか。とにかくお掃除がしたい。床にはべったりと誰のか分からない血が染み込み、変色している。壁も何かの傷跡でボロボロだ。障子も破けていないところがない。…政府の方は、本当にここに立ち入ったのかなぁ。





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