1.人造獣とは?
黒服さんに連れられてやってきた政府の施設で、寮に入寮した後は、紺色の袴と白無地の巫女服を着て、人造人間の基礎知識やこれまでの歴史、人造獣の扱い方や両方の治療、治癒の仕方や自分自身の生命エネルギー?とやらの注ぎ方(これらを定期的に注ぐことによって彼等の病気や傷は癒える…らしい。仕組みは今だに私自身わかっていない。研究者の方は小難しく説明を繰り返したけれど理解はできなかった)
沢山のその知識や技術、テスト前日の学生のように詰め込まれたそれは、最早付け焼き刃でしかないんじゃないか?と疑問を持ちたくなるくらい身についていないのが分かった。
結局、たったの1年で諸々の研修を終え、国家資格である“人造獣人間管理者”の資格、及び“国家人造獣人間使役者”になったのであった。
ー“人造獣人間”“人造獣”
この国では年に一回の血液検査義務があり、その存在は周知の事実でありながら概要は国家機密であった。中々知ることのなかったそれらの沢山の知識を得ていく中で、それが私たちの生活に必要不可欠なまでに広まったのは、明らかに人間のエゴである、と確信をした。
名前の通り、人間によって作られた彼ら、彼女らは獣と人間のDNAを混ぜて作られた人間の事だ。
彼等は人間よりも遥かに頑丈で、そしてなによりも戦争兵器としての使用用途が高い。
肉食獣との混血であれば鋭い牙は人間の肉を食いちぎり、臓物を引き摺り出すことも厭わない。
草食獣との混血であれば素早く隠密に長け、他国への諜報員として。
その他の、あまり役割を果たせない、所謂“出来損ない”と呼ばれる人造獣は人間と同じ扱いではあるが見た目が獣の一部を持って生まれてしまっているため、それこそ国にとって必要不可欠である廃棄物清掃や肉体労働といった事業に当たっている。
その他にも小型獣で人間の言葉が話せるペットとしての研究の活用もされており、それらの普及があって、だからこそ我が国では周知の事実であるわけだ。
初期には凶暴な人造獣が多く生まれ、人間に従わない度に廃棄されてきた彼等はどんどんと改良化され、今は“人間に従う”という足枷のような遺伝子を組み込まれて造られている。
そして“人造人間使役者”という役職に就くことのできる人間は、その彼等の複雑に組み込まれたDNAに対して“従う”DNAを持つ人間のことである。
ゾッとするような事であるが、無理矢理に作り出された彼等の人間に従うという鍵は“人間の匂い”であるのだ。“人間に従う”本能は“使役者”のDNAの匂いが濃ければ濃いほど従う。というのが研究で分かって以降、この国は総力を上げて全国民のDNAを調べ上げる年に一回の国民の義務を作り出した。
『なぜここまで匂いの強い人間が検査をパスしてきたのか…』
『今後の検査を見直さなければなりませんね』
ボソボソとそんな声が聞こえる中で、頭や体にいろいろな器具を付けられた私は、いつから彼等が生まれて、私はこれから何処の管理に付くのだろうとぼうっと考える。
…戦争担当だったら嫌だなあ。他国との戦争で命を落とした使役者のニュースなんて毎日のように見るし。出来れば平和な“出来損ない”担当だったらいいのだけれど。全然“出来損ない”で構わない。命の危険がないところがいいなあ。
そう、この役職。それこそ生まれ持った才能であるが故、この国で生きていく以上、逃げられもしないのだ。
ーーー特SSランク
その結果に目をひん剥いて絶望したのはこの施設に入り更なる精密検査を受けた結果が出た二ヶ月後のことだった。
この結果はかなりの珍しさらしく、政府も検討をするとのことで私は放置されながらも先程の供給や治癒の仕方(対象と自分自身を機械で繋げ、生命エネルギーを送り込むのだがこれがまたゾワゾワと気持ちが悪い)やらなにやらを覚え、
そうして担当が決まらずに1週間前。政府の役人であるわたしの担当者さんとのミーティングで更なる事実を告げられた。
「使役者による、人造獣人間虐待問題というのが今現在、政府の中でとても問題視されています」
「…と、いいますと?」
大量のマニュアルに目を通しながら、担当さんの言葉に耳を貸す。今度のテストに向けて、暗記テキストを完成させなければならないとのことなので、躍起になっていた。
「研修でもお話致しましたが、昨今の使役者不足により、今回のように突然政府からの通達を受け、使役者になるという方も少なくありません。
使役者になれば、多くは家族や友人、恋人との面会は国にとっての成果を出さない限り原則として禁じられます。
…まあ、そのストレスといいますか…人造獣人間や人造獣は怪我をしても、切断などしていなければ使役者による供給治癒で綺麗に治ります。
傷を放置しても1ヶ月ほどなら食事も取らなくても死にませんし、夜伽を命じれば主人の命令、という形で従わざるを得ません。
死というものは恐怖ではないのです。…それで、ですね。」
「それは、人造獣人間の方々に酷いことをしている、鬼畜のような使役者がいる、という認識でよろしいですか?」
「その通りです。…そして、その使役者を摘発したとしても、使役者減らすわけにはいかないのですし、そもそも国家でお金をかけて人造獣人間は製造されているので、使役者を変えての引き継ぎ、という形を取るわけなのですが…」
「虐げられた方たちがいうことを聞かない、と」
「その通りです。…更には、今回貴女のようにSSランクの方が見つかったとなりますと、その、本来なら新しいそれこそまだ誰にも管理をされていない人造獣人間を当てる事がいいとなっていたんですが、政府の上の方の方の指示がですね……」
「その方達の引き継ぎをして欲しい、という指示なんですね。わかりました。」
「その通りです。…お嫌なのは重々…って、え?」
俯いていた担当さんは、顔を上げてまじまじとわたしを見やる。わたしはテキストに向けていた目線を担当さんに向けて、笑った。
「担当さんとは一年ほどのお付き合いですが、それでもこうしてお知り合いになれたのはなにか御縁があっての事だと思います。
わたしが断ったら、担当さんのお立場が危うくなるのであれば、お受けしてわたしが頑張ってみるのがお互いにとって一番ではないでしょうか?」
それに、担当さんはこれからもわたしの担当でいてくれるんですものね?と付け加えれば、彼女は目を潤ませ震えた声でごめんなさい、力足らずで、ごめんなさい。と二回謝った。
私だってそろそろ諦めがついている。どうせ戦争へ参加しなければならない。命をかけなければならない。
国外逃亡なんて出来るほど、私は行動力も頭脳もお金も持ち合わせていなかったし。なによりも事勿れ主義者であった。
「今回、貴女が担当する事になったのはーーーーー」
そして、現在に戻る。