表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カナタのステラ  作者: 我龍天捿
32/40

第31話 爆心地にて

 クラース村を襲った魔獣との戦いを終え、城塞都市プラーガで療養していたステラのもとへ謎の襲撃者が現れる。

 褐色肌のクリスの助けもありその襲撃者を下したステラは、ナキも狙われていることを知る。

 街の中心に立つ城の塔から手がかりを探していると、街のはずれのほうにある建物が、大きな爆発を起こしたのだった。


 その朝のナキは、ここ数日と変わらず過ごしていた。


 ステラの入る病室の、ベッドの脇に置かれたイスで目を覚ます。

 彼の眠るベッドへ投げ出した上半身を起こして窓を開ける。

 朝の空気をめいっぱい吸い込んで、少しずつ明るくなっていく彼の顔を眺める。

 いつもはステラの方がずっと早起きだから、いけないと思いつつ、貴重な寝顔を見れて胸がほくほくする。


 ほどなくしてステラも目覚める。


「おはよう。今日も早いね」


「おはよう。もっと寝ててもいいのに」


 そんな、たわいもない言葉が交わされるとき、はちみつが流れるみたいにゆっくり時間を感じるのに、気づいたらものすごく経っていて。

 だから近ごろ、ナキは時間を盗む泥棒さんがいるんじゃないかと思い始めた。


 体調を聞いて、いいよ、と答えをもらう。何度聞いてもステラの答えはその3文字だから、顔色や答えるまでの考える様子を見て、ナキなりに診断する。

 今日はホントに良さそうで、どこまで体が動かせるか、試してみたそうだった。


 それから朝食を取りに行く。

 病院とお役所を兼ねたお城との間に食堂があって、入院患者はそこでご飯がもらえる。

 ステラが偉い人と話すときはヒマになるから、お世話になる分お皿洗いや薪割りを手伝ったら、ナキの分もおまけしてくれるようになった。

 ここ数日、あまりお腹が減らないのだけど、ステラと一緒だとついついペロリと食べてしまう。


 その食堂で、朝食のテイクアウトを受け取った後のことだ。


「お嬢ちゃん。ちょっといいかな?」


 朝イチの食事にありつこうと列をつくる、早番警備の兵隊さんたち。

 その隣で、列に並ぶでもなく、がっしりした体の男がナキに声をかけた。


「……おじさん誰?」


 ふわりとしたローブに身を包んだ男にナキは問う。

 男の顔は、前日おこなわれた長老と狩人のお葬式で見たのを覚えている。

 故人の顔を見るでもなく、花を捧げるわけでもなく、ただ遠巻きに式を眺めている人が何人かいたから、ナキは不思議に思っていた。

 この人は、その不思議な人の1人だ。お葬式のときには軍服らしい服を着ていたから、今日もローブの下はそうなんじゃないか、とも予想する。


「ああ、私はラケルタ。そこの病院の警護をしている者だ」


そう言って、ローブの男はニコリとほほ笑み、握手しようと手を差し出した。


「んん?そうなの?」


 病院に最低限の警備がついているのは知っていて、ナキはその全員と知り合っていた。

 でも、このラケルタと名乗った男はいなかったはず。

 それに、お葬式で見た軍服に、警備を任されているはずのプラーガ領の印が入っていなかったように思う。


「ああ。そうなんだ。それで君について来てほしい所があるんだが……」


ナキが何やら考えている様子を見て、ラケルタは手を引っ込めた。


「え。今?」


 伸ばされていた手の袖口から、やっぱり軍服とがちゃがちゃした装備品が見えていた。

 それはいいとしても、今はステラに朝ご飯を持っていく最中で、寄り道している暇はない。


「朝ご飯の後ならいいので、ちょっと待っていてもらえませんか?」



そう言って、ナキはすったかたったと病室へ走りだす。


「ステラくんの──」


ラケルタは咄嗟にそう言った。ナキの足がピタリと止まる。


「──病室を動かすことになったんだ。だから、そこへ一緒に来てほしい」


 ナキは振り向き、張り詰めた顔のラケルタを見ながら、ステラやクリスとの話を思いだす。


 ステラが言っていたことは。

 怪しい人について行かない。

 全力で逃げる。

 大きい声を出す。

 周りの人に助けを求める。


 クリスが言っていたことは。

 自分の意見をはっきり言う。

 自分のやることをやり切る。

 邪魔するやつは躱すか殺す。


 ナキは軽く息を吸って、ラケルタの目を見ながらお返事した。


「い!や!」


 元気よく声を出し、ナキは病院の入口へ走る。

 入ろうかというところで、柱の陰からラケルタと同じローブの人が5人も現れた。


「イヤーッ!!」


止まりきれないナキは、大きな声で拒絶しながら、1番近くにいたローブの男に回し蹴りを打ち込んだ。


「ぐわっ!?」


へその上にクリーンヒットされた男は、肝臓と胆のうと胃袋をメチャクチャに揺らされながら、5メートルあまり宙を舞って壁に叩きつけられた。


「がぼっ……ごぼっ……」


胃の中身を廊下にぶち撒けながら、ぴくぴくと痙攣したその男は、それきり動かなくなる。


「やだぁ!」


男への回し蹴りをブレーキ兼方向転換に使ったナキは、元来た道へ戻る。


「そら。来なさい。いい子だから」


追ってきていたラケルタが、両手を広げてナキへ迫る。


「いい子なのは同感だけど、おたく何者?」


「ウチのアイドル、どこへ連れてくって?事務所|(司令部会議室)に話通してくれない?」


 そのラケルタの背後から、食堂で朝食にありついていた若いプラーガ兵が声をかけた。

 2人ともヤマダ将軍の部下で、前にナキがプラーガへ来たときから仲良くなっていたのだった。


「アーラ!オロル!」


 ナキは跳ねるように、歳の離れた友達の名前を呼ぶ。


 黒髪の少女を追っていたローブの男ラケルタは、観念したように溜め息をついた。

 そして次の瞬間、振り向きざまに裏拳を振り抜いて、若いプラーガ兵アーラの脳を揺らす。


「はァ?」


 崩れ落ちる同僚を見て、即座にバックステップするプラーガ兵オロル。

 しかし襲撃者ラケルタの方が上手だった。

 ひと足で距離を詰め、アッパー一撃であごを撃ち抜き、またたく間に兵士2人を沈黙させた。


「さあ。来てもらうよ」


 道ばたにくずおれる2人に目もくれず、フードの男ラケルタはナキへ向きなおり、その手首を掴んだ。

 ナキは理解した。これが、ステラが逃げろと言った怪しい人なんだ、と。


 手を引かれ、それまで大事に抱えていた朝食のバスケットが落ちる。

 慌てて空いてる方の手で掴もうとすると、ラケルタがそれを払いのけた。


「勝手に動くな!次は手足を折るぞ」


 地面に転がったバスケットから、ガラガラと音がなる。

 ふかふかのパンが、シャキシャキの野菜が、パリパリのベーコンが、ぐしゃぐしゃになる。

 朝は冷えるから、ってポットに入れてもらった、ショウガの利いたスープが、ひたひたと地面に吸われていく。


 ナキは初めて怒った。怒って、言うこと聞いてやるもんか!と思って立ち止まる。


「おい。聞いてたか?」


「やれるもんならやってみなさい」


 ナキは、自分の手を掴んでいるラケルタの右手を掴み返し、逆上がりの要領で全体重をかけ、両足で敵の脇の下を蹴り飛ばした。


──ゴキゴキゴキッ


 呆然としてしまっていた、待ち伏せ組の4人にもはっきり聞こえる嫌な音。

 直後にラケルタの苦痛に耐えるうめき声が通りに響く。


「うぐぅぅぅぅ……!!」


大男の肩と肘を同時に外して、くるんと着地したナキは、ステラとクリスの教えに従う。


「絶対あなたの言うこと聞かないから!」


 そして全速力で駆けだした。


 行くアテの無い逃走。

 ステラの病室へ行くのは難しいし、クラース村の人は巻き込みたくない。

 もう少し時間が経ってたら、バッチリ揃ったヤマダ将軍の隊を頼れそうだけど。

 そんなことを考えながらスピードを上げる。


 追いかけてくるのは、自分で肩と肘をはめたラケルタ。

 右手の関節をぱんぱんに腫れさせて、脂汗をかきながら走っている。

 そして1本隣の路地を走ってついてくるのが1人と、少し離れた屋根の上を移動しながら見張っているのが1人。


 上から見られてたら、建物に入らないと逃げきれないな、と思ったナキは、スピードを上げ一直線。

 そのまま街を囲む石壁までやってくると、踏み切り、壁を蹴り、シュパパッと登っていく。

 地上5メートルほどの窓に手をかけると、追いかける不審者たちが呆然と見上げる中、顔見知りのいる城壁へ入ろうとする。


 そのときだ。

 ラケルタの左手が赤く光ると、ナキの貼りついていた城壁の石がさらさらと砂になっていく。

 慌てて両手足をつっぱっても、その周りもまた砂になる。魔術で壁が壊されているのだ。


 落ちるナキを、追手の1人がキャッチしようと下へ回る。

 やなこった!と流星キックを首に入れるのだけど、そいつは鎖骨を折られながらナキの足を掴んだ。


 宙ぶらりんの逆さ吊りにされたナキは、嫌だ嫌だと叫びながら手足をぶんぶん振り回す。

 けれどもそばに立ったラケルタに、光る手を顔へ向けられると、意識がぼうっとして保てなくなってしまった。


 ローブ姿の男たちは、気を失ったナキを抱えて、自分たちの拠点へ移動したのだった。



 ナキが目を覚ますと、そこは知らない建物の中だった。

 倉庫みたいに広々としているけれど、いくつもの棚が並び、険しい顔をした男たちが本や魔石を持って動き回っている。

 中には見たことのある顔もいて、それはほとんどが、長老のお葬式に来て何もせずにいた人だった。


 そんな倉庫の奥で、ナキは十字架に手足をくくりつけられていた。大の字と言うか、十の字みたいな感じ。

 口にはさるぐつわを噛まされ、もごもごとうめく以外に声は出せない。

 手足を縛るベルトは分厚くて、ちょっと千切れそうになかった。


「目覚めたようです。ラケルタ隊長」


もぞもぞと動くナキを見て、そばの机で書類にペンを走らせていた男が言う。


「チッ……予定より早いな。凶暴だから気をつけろよ」


忌々しそうに黒髪の少女を見ながら、ラケルタは指示を下した。


「やれ」


 部下たちはうなずいて、それぞれにアイテムを持ちナキへ近寄る。

 ある者はナキの左前腕へ紐を巻き、血の流れを止める。

 ある者はナイフでナキの左手甲を切り、ぱっくりと開いて血をぬぐう。

 そしてある者は、緑色の魔石のかけらを、その傷口に押し込んだ。


「んんんんぅー!!」


 嫌がって暴れるナキは、とっさに魔術を行使する。

 加減する余裕もなく、自分ごと大きな爆発で吹き飛ばそうとした。


 そしてナキの体と、押し当てられた魔石が輝く。


 耳をつんざく轟音と、辺り一面を吹き飛ばす爆風が、金の目をした少女を中心に巻き起こったのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ