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カナタのステラ  作者: 我龍天捿
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第18話 魔術学校

 メモリア山のふもとにあるクラース村から、城塞都市プラーガを経由して王都プラエタリアへやって来たステラたち。

 クリスの案内で下町の花屋に下宿して、ステラは魔術学校を見て回るのだった。


 王都プラエタリアに到着した翌日から、ステラは白ヒゲの老人リベールに連れられて魔術学校をめぐった。

 ナキも一緒についてきたけど、褐色肌のクリスは用事があるとかで別行動だった。

「まあアタシの仕事は王都までの案内だしィ?晩飯出してくれんなら良い店の紹介はすっけどな!」

そんなふうに言って、ひらひらと手を振ったのだった。



 王都の魔術学校は4つ。

 1番古く、由緒あると言われているのが、都の中心プラエタリア城の城壁内にある、王立学校。

 次に古く、在籍する学生数が1番多いのが、城の周りの高級ベッドタウンに立つ都立魔術学校。

 その外の一般市民が暮らす街に立つ、都立学校の魔術科。

 最後に、王都の郊外に立つ、教会と一体化した寄宿学校。この4つだ。


 これらをめぐるにあたって、老人リベールの案内でステラたちは都を回った。


 王都プラエタリアはくっきりとした階層がある。

 中心のプラエタリア城はもちろん、その周囲のベッドタウンも高い壁に囲まれていて、中へ入るには身分証や通行証が必要だ。

 すると、壁の中は貴族や、貴族を相手に商売をする人ばかりで、優雅でおだやかな時間が流れている。


 そんな中にある王立学校は、貴族の跡継ぎが集まり学ぶ場で、日本でいう大学の付属校をさらにお堅くした雰囲気だった。

 カリキュラムも、歴史や経済や科学技術、そして哲学などのマクロな学問が多く、将来国や家を運営する人のための学校である。

魔術はそうした、運営に役立つ技術のひとつとして教えられているようだった。


 そうした魔術への触れ方は、ステラにとってピタリとはまるものだったけれど、いかんせんお堅すぎる。

 物を食べるにも廊下を歩くにもマナーを気にしなければならないのは、これまでの生活とかけ離れすぎていて、上手くやれる自信が湧かない。


 プラエタリア城の周りの高級ベッドタウンに立つ、都立魔術学校は、魔術師を育成する学校だった。

 一般的な教養も学べるけれど、日本で言う農業高校とか商業高校とか工業高校みたいな感じだ。

 入学前に魔術のあらましを知っている子が入学し、自分の腕を磨いていく。

 生徒は貴族の子と一般市民の子が3:7くらいで混ざっている。

 また、自分の腕をマイペースに磨く子と、上の立場を目指してガツガツ挑む子とで雰囲気が二極化していた。


 魔術の腕を磨きたいわけじゃないステラは、ここはパス。


 ベッドタウンを囲む壁の外側は、日本の江戸時代の城下町とか、剣と魔法のRPGで見る街の雰囲気と似た様子だった。

 人々が自分と家族の生活を盛りたてる活気があり、すこし乱暴で、でも笑顔がある。


 その中に、生活に必要な最低限の知識を教える都立学校がいくつかあり、その中でも魔術を教われる1校が都の西の方にあった。

 生徒はみんな一般市民だけれど、小さい子からお爺ちゃんまで色んな人がいて、授業を受けて満足したら卒業前に辞めていく人も多い。


 授業の方向性も、学校の雰囲気も、財布にやさしい学費もステラの好みに入ったのだけど、ネックなのは立地だった。

 今拠点にしているのは王都の北東部で、この学校が立つのは王都の西。直線で30キロ弱、実際に通うなら都をぐるりと回って50キロメートルほどの道のりになる。


 最後に見た寄宿学校は、王都の南東のはずれにある。

 街の喧騒からやや離れ、周囲は森。敷地内に教会と寄宿舎と小さな図書館もある。

 カリキュラムは広く浅く、その中で気になったものを生徒が自分で研究するスタイルだそう。

 寄宿舎、つまりは寮が敷地内にあるため、自分の腕を磨くのに没頭できるというわけだ。

 家で手に負えないとして送り込まれた貴族の子や、遠方から来て住む家のない子なども身を寄せている。



 4日をかけてそうした学校を見て回った後のこと。

 寄宿学校が拠点の花屋から近かったこともあり、ステラたちは花屋のアモールと、褐色肌のクリスと夕食に出た。


 選んだ店は近くの焼肉店だ。

 ただ、日本式の焼肉ではなく、南米のシュラスコに近い。

 かたまり肉の串焼きをカウンターで購入し、それぞれの席で切り分けて食べる。

 初めて見たステラは、それで火が通るのかと心配したのだけど、食べてみればいい塩梅だ。

 直火に当たる表面はカリカリ・パリパリで香ばしく、中の方はミディアム。

 直径2センチほどの、刺突剣かと思うような鉄串が、内側から熱を通していて、どこもおいしい。


 褐色肌のクリスが、慣れた感じで注文し、指の間に鉄串を挟んで8本ほどを持ってきた。

 そのすこし後ろから、片手に1本ずつ持ったナキが、フフン♪と自慢げについてくる。


「おう、で?ステラはドコにするか決めたのか?」


鉄串の先をテーブルにつけ、切り分ける用のナイフの峰で肉が外れるよう押しながら、褐色肌のクリスは言う。


「ここの近くの寄宿学校がいいかなと思ってるんですよね」


クリスの動きを予想していたステラは、彼女の押す肉の下に大皿を挿しこみながら答える。


「あら、いいのぉ?王立とかじゃなくて」


花屋のアモールが、からかうような目つきで少年を見る。


「いやあ、やってることは面白いなって思ったんですが、ちょっと僕にはお堅すぎて……」


ステラはワケを話しながら、クリスが外した肉を切り分けていく。

(5等分って難しいな。どうやったら上手くいく?)

そんなふうに考えながらナイフを入れるステラ。

 しかし正面のクリスは豪快に串を引き抜いて、目分量でザッザッとカットしていく。

 明らかに大きさは偏るのだけど、それを好みや胃ぶくろの大きさに合わせて分けていった。


「ま、アタシぁよく分かんねーけど。じゃあステラはコッチ住むのか?」


その手があったか、と負けた気持ちのステラへ向けて、そんなこと知りもしないクリスは肉を渡す。


「入学できそうなら、そうですね」


おずおずと受け取りながらステラはうなずく。


「おん?リベールは村へ戻るんだよな?」


量は少ないけれど良い部位を、クリスは老人へ渡す。


「そうじゃの。部屋が明後日までじゃから、その次の朝には出発じゃ」


白ヒゲの老人がそう言ったとたん、ステラはお腹と胸の間がきゅっとなった。久しぶりの、寂しい、という想いだった。


「じゃあナキは?」


クリスの切れ長の目が黒髪の少女へ向けられる。


 ナキは、もうわけも知らずにステラの後を追う幼い子ではなかった。

 ステラが魔術学校をめぐり、教師から説明を受けるのを後ろで聞いてもいた。

 分からないことはリベールに聞いていたし、ステラが大切な決断を下そうとしているのは分かっていた。

 だから、クリスのこの問いが、自分とステラの間のすき間に突き刺さったのも分かった。


 コトリ、とナキは両手をテーブルに置く。

 そして誰かが何かを言う前に、隣のステラに笑いかけた。


「ナキ、待てるよ。ステラが戻ってくるまで、どこでも」


 一生懸命に口の端を上げているけれど、かすかに震えてしまっている。

 金色のきれいな瞳はいびつになって、うるうると揺らいでいく。


「じゃあ、そういうわけなんで……」


 ステラはナキの言葉と視線を受け止めて、彼女の頭に手を置いた。

 そしてこの先を想い、出そうになった小さな溜め息を吹き飛ばすように、不敵に笑った。


「ナキは、一緒にいてもらおうかなと思います」


 ほっほ、と白ヒゲの老人リベールは声を上げた。

 褐色肌のクリスは猛獣が牙を剥くみたいに、ニィイッと口を吊り上げる。

 花屋のアモールは目を見開いた後、さすがアンタらの目に適うだけあるねぇ、とつぶやいた。

 ステラの1番近くにいたナキだけが、その少年狩人が何を言ったのか理解できず、その金の目を月のように丸くしていた。


「よォく言ったぜステラ!!!」


褐色肌のクリスは、ズドンと音を立ててテーブルに乗り上げ、勝ち誇るようにこぶしを振り上げた。


「ふふ。でも見直したわぁ。それじゃあ、新しいお部屋、探しておくわね」


ガタガタと揺らされるテーブルを、ステラと一緒に対角線で押さえながら、花屋のアモールが言う。


「えっ……え?」


声の主へ向け、視線をあっちこっちへ動かしたナキが再びステラを見る。


「え。何?どういうこと?」


 細い瞳をした大きな金の目。

 それをたっぷり1秒見つめてから、ステラは口を開く。


「『待てる』んであって『待ちたい』んじゃないんでしょ?みんなが最大限やりたいことをできるように、俺はしたいなって」


言いながら、ステラはナキが持ちっぱなしになっていた串を取り上げ、お肉を外す。


「それは、一緒がいい、けど……」


クラース村や王都までの道中は、手伝いや物々交換で晩ご飯にありつけた。

 けれどここプラエタリアでは、お金がなければ飢えてしまう。

 ナキはお金を得るすべを知らず、この都で無力感と出会っていた。


「お金は極力自分でなんとかするんで、どの辺が住みやすいとか、教えてもらえると嬉しいです」


そんな少女の心を知ってか知らずか、ステラはサラリと言う。

 前世でいくつもの職場で働いた記憶や、山のふもとのクラース村で1番の猟師として生きた自負があるからだ。


「お願いします」


手に持っていた物を置いて頭を下げる。


「いいわぁ。この辺には顔が利くし、良さそうなところ、紹介してあげましょ」


花屋のアモールがそう言うと、ステラは再び頭を下げる。


「ありがとうございます!……じゃあ、あとは頑張って入学しないとですね」


ホッとした表情を見せるステラに、ナキは久しぶりにたまらなくなって、座ったまま飛びついたのだった。



 翌日、さっそくステラは寄宿学校で入学試験を受け、午後には合格が言い渡された。

 試験は知識、読解、計算の3科目で、読解と計算はほぼ満点。

 知識はこの国や都市についての分野はほぼ0点、自然に関する分野はほぼ満点と、採点する教師も笑ってしまうピーキーぶりだった。


 夕方には、花屋のアモールの紹介で新たな下宿先を見に行った。

 花屋から10分、学校まで20分ほどの立地で、喧騒からすこし離れている。

 小さな戸建てで、すぐそばに大家の壮年夫婦が住んでいた。

 若者と呼ぶにも若すぎる2人の入居に、嫌な顔をされるだろうなと身構えていたステラだったけど、思いのほかの歓迎ムードで拍子抜けしてしまった。

 聞けば、この夏から兵役に出る息子が帰ってくるまで、どう管理しようか困っていたらしい。

 家賃もたいへんリーズナブルで、めぐり逢いの幸運に感謝しながらステラは契約書にサインした。



 そうしてまた夜が明け、王都滞在7日目を迎える。


 翌朝には老人リベールがクラース村への帰路につき、その送迎でクリスも20日あまり都を空ける。

 そんな日の朝、リベールは白ヒゲを撫でながらステラに尋ねた。


「のう。見せたいものがあるんじゃが、城の方まで行く気はあるかの?」


ナキも一緒でいいのなら断る理由はない。

 ステラがうなずくと、リベールが呼んだほろ馬車に乗り込んで、3人で揺られることとなった。


 白ヒゲの老人リベールがステラたちを連れてきたのは、プラエタリア城の一角に広々とスペースを取られた、魔術研究所だった。

 千人ほどが働いていると見られる研究所の入口で、リベールが書状を見せる。

 案内人と監視員を兼ねた職員が4人つき、ステラたち3人を囲む。


「今日、わしが見せたいのはな、わしが村へ戻ると見せてやれなくなる、魔女の手じゃ」


 城門にしろこの研究所にしろ、リベールがなぜそんな簡単に通行許可の書状を手に入れられるのかステラは気になっていた。

 しかし老人リベールのその言葉と、研究所の最奥と思われる巨大な扉が開かれると、ナキと一緒に目を見開くしかなくなったのだった。


 『魔女の手』と呼ばれたそれは、巨大な魔石のかたまりだった。しかしただの石でなく、木のような形をしている。

 2メートル四方の台座から生えているみたいに、直径1.5メートルほどの幹が伸びる。

 それが地上2メートルほどで5つに分かれ、それぞれの枝が天を目指そうとしていた。

 全高は5メートルほど。

 そしてその全てが緑色の透き通った魔石でできている。


「デカい……」

「すごい……」


思わず息を飲む少年少女。


 少しして息のしかたを思い出したステラは、目がチカチカするような、視界の違和感を覚えた。

 離れて見たら確かに人の左腕にも見える形のその魔石が、脈動して大きくなっているような気がする。


「成長してる……?」


つぶやいたステラに、白ヒゲの老人リベールはそっとうなずいた。


「そうじゃ。表面の魔石が成長するからの、それを削ったり砕いたりして採取しているんじゃ」


見ていると、職員がはしごを持ってやってきて、手の爪を切るみたいに、先端を割って採取していく。

 粉末になったものも余さず回収して、資源として使うようだ。


「これが王都プラエタリアの、魔術に使う魔石の源じゃ」


白ヒゲの老人リベールは、切なそうに目を細めた。


「さて。わしの見せたかったものはこれだけじゃ」


言葉の外に、そろそろ帰るぞ、をにじませたリベール。

 ステラも満足し、ナキの手を引こうとしたとき、彼女が震えているのに気付いた。


「……ナキ?」


手を取り、呼びかけ、彼女の見つめる先を見る。


 それは魔石『魔女の手』の根元、台座の上。

 エメラルドグリーンの幹が透けた奥。

 どす黒い血のような色に染まった小さな物体を、ステラの目もとらえた。


「あれは……手?」


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