表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カナタのステラ  作者: 我龍天捿
17/40

第16話 鋼鉄の意思

 メモリア山のクラース村から城塞都市プラーガへやってきたステラたち。

 領主エクエスと会談してステラの姓をさずかる手続きを終え、証書の発行まで自由時間になった。

 ステラがナキ・クリスと共に街の北の軍事教練を見に行くと、将軍ヤマダから兵の自主鍛錬への協力を求められたのだった。


 呼吸を止めてたっぷり1秒。凪いだ心音が昼下がりの風と重なる。

 左手の弓をかかげ、右手の矢をつがえる。拡げた視野の中心に的を置くように、数ミリの身じろぎ。

 そして矢を引き、弓を絞った。


 ステラは城塞都市プラーガの軍事教練場にいた。

 周りには将軍ヤマダと、新兵のコルヌ、そして数名の弓兵。

 彼らは射撃訓練の的へ向け弓を向けるステラを間近で観察していた。


 時が止まったかのような集中に息を飲み、メモリア川の流れのように止まらず淀まない所作に胸を打たれた。

 そうして放たれる矢が、風を切って的の中心にあたると、溜め息のような歓声がもれた。


 ステラはステラで、貸しだされた教練用の弓が軽く緩く、普段のものとの違いに慎重になっていた。

 それでも20メートル先の的に当てられて、ホッと胸を撫でおろす。


「凄いです!」


飛び上がる新兵コルヌ。その素直な称賛にステラは照れる。


「いやいや。せっかく機会をもらったのに、外したらどうしようかと緊張してしまって……」


クラース村では50メートル先の獲物も1撃で仕留める日々を送っていたけど、人に見られながらというのは初めてだ。

 弓も初めて触る物だから、この結果は上々だろう。


「いや、大したものです。道具はそれぞれ微妙な差があり、射撃など繊細な動作にはそれが大きく影響します」


「ええ、その中で、最初のひと矢で命中させるのは、並大抵ではありません」


オーディエンスの弓兵たちも、口々にステラをたたえる。

 しかし当のステラは、彼らの心に「年齢の割に」という色眼鏡がかかっているのを感じていたし、せっかくなら何か彼らのためになるものも残したかった。


「ステラさん、どうやったらそんなに上手くなるんですか?」


そんな集団の中にあって、純粋に、自分より上の実力を持つ者としてステラを見る、新兵のコルヌがぐいっと迫る。

 遊んでほしくて人に飛びつく大型犬みたいだな、とステラは思った。


「ひとことで言ったら練習あるのみなんですけど……」


多くの人に使い古されているだろう言葉が出ると、弓兵の何人かはフン、と鼻で笑った。

 ステラはそれに気付きつつも、別段リアクションせず話を続ける。


「大事なのは、実力のちょっと上を積み重ねることです」


ステラはそう言って、矢を2本持つ。


「いざというときに100%の力を出すには、普段は120%の力を出せるようにしておかねばなりません」


この言葉は、前世で好きだったスポーツ選手の受け売りだけど。


「私は狩人なので、1本の矢を強く精確に射ることが必要です」


そうして再び弓を構える。矢の1本をつがえ、もう1本は予備として右手の小指で握った。


「そして、いつ、いかなる状況でも、100%の矢を放てるよう、狩りの場では遭遇しない動作も練習します」


そう言うと、0.4秒ほど、くっと息を止め、矢を放った。そして即座に2本めも放つ。


 矢は新たな的へ飛んだ。

 1本目がその真ん中へ当たり、2本目も間髪入れず同じところへ。


──パキュッ!


聞きなれない音を立て、1本目の矢が裂ける。

 的に刺さった後、2本目の矢がその矢筈|(シャフトの後ろの端で、弓の弦にかける部分)へ当たったのだ。

 そのままシャフトが裂け、羽根が散り、いびつにえぐれた1本目と隣へ密着して、2本目の矢も刺さる。


 観衆はどよめいた。継ぎ矢を見るのが初めてだったからだ。

 自分の放った矢に当てるそれは、弓の名手の逸話としてよく耳にするものだけれど、実際に見る機会はそう無い。

 野球の完全試合とか、サッカーのハットトリックや、SASUKEの完全制覇のようなもの。しかも今回は、息もつかぬ連射での達成だ。


「あぁ……きれいに真っ二つにしたかったんですが、すこしズレちゃいましたね」


ステラはすこし不満だった。

 1射で獲物を仕留めるなら、首の動脈へ当てねばならない。

 だから数ミリのズレは、上下なら許せるのだけれど、今回は左へのズレだ。

 これではよけいに苦しませてしまうし、そうなると毛皮や肉の質も落ちる。


「こんなふうに、いろんなことに挑戦して、120%の日々を積み重ねるのが大事だと思います」


そうして解説を終え振り向くと、誰からともなくパチパチと拍手が始まり、歓声がステラを包んだ。


「と、いうわけだ!いやぁ、ありがとうございますステラ殿。みな!礼!」


「「「「ありがとうございました!!」」」」


将軍ヤマダの掛け声で、兵たちは声をそろえて頭を下げた。


「いやあ、連射とか初めてだったんですが、上手くいってよかったです」


ステラは照れて頭をかく。


「初めてだったんですか!?」


駆けよってきたコルヌが驚く。


「いつもは森の中で過ごしてたので、外すと流れ矢で誰かにケガをさせる恐れがあったんです。だから距離を伸ばしたり、射撃とは別に体力づくりをしたり……なので、こういうことはなかなか」


せっかくなら、走りながらの1人流鏑馬やぶさめとか、ダッシュ後の息切れ状態での射撃も試しておきたいな、なんてステラは思った。


 将軍ヤマダに許可を取り、新兵や弓兵らと一緒にステラは射撃のトレーニングをした。

 何人もの仲間と走るのは久しぶり……前世も含めて30年以上ぶりで、互いのリスペクトがある中ではこんなにも楽しいのかと、目から鱗が落ちる気分だ。


 そうして緊張もほぐれると、自然と視野も広くなる。

 他のエリアで動き回るナキやクリスを、ステラの目がとらえ始めた。



 そも、小1時間ほど前の話だ。

 遠方から軍の教練を眺めていたステラたち3人は、将軍ヤマダに声をかけられ、新兵たちの自主鍛錬に参加するよう頼まれた。

 もとは、腕利きの戦士としても有名な、褐色肌のクリスへの願いだった。

 よくあることのようで、クリスも快諾。オマケに

「アタシから1本取ったら今晩お酌してやるよ」

なんて煽ったもんで、新兵たちは大盛り上がり。

 木剣や木槍での組手で順番待ちの列が作られた。


 ただ、実力の差は歴然だった。

 まず、切っ先の速度が明らかに違う。

 新兵がひと振りする間に、褐色肌のクリスは3~5振り。

 しかもその全てが重く、胸当てや胴当てなど防具の上から叩いたにもかかわらず、新兵は吹き飛び、痛みに悶絶するのだった。


 そうして無傷の10人抜きが成されたころ、クリス参戦の噂を聞きつけたらしい若手~中堅の兵士が参戦。

 そうした彼らに対し、クリスが蹴りや投げを混ぜ始め、それを見た新兵たちは、クリスが新兵用に教練で習う基本技だけで相手をしていたことを悟るのだった。


 その差を思い知ってなお、果敢に挑む男たちを、クリスは喜んで迎え入れ、またたく間に吹き飛ばした。

 ただ、半分くらいは心を折られ、剣技槍技の組手から離脱した。


 ステラだって痛いのは嫌だし、やるなら勝ちの目のある戦いをしたい。

 そんなふうに共感しているところへ、新兵のコルヌが走法の質問に来たのだった。


 ステラは聞かれたことに答えながら、教練場の障害走コースを走る。

 正直、城門を出てからこれをやりたくてたまらなかった。

 見事に再現されたSASUKEのコース。

 それを見んがために転職をし、死の間際に挑戦したかったと願ったものが、本家でなく再現だとしても目の前にある。

 ここで挑まねば男がすたるというものだ。


 コースは木製で、再現しきれないエリアもあったけれど、走るステラは楽しかった。

 生まれて1番、いや、前世も含めて1番楽しい時間かもしれない。

 5段跳びを軽快に越え、回転する足場を渡り、抜群のボディバランスを見せつける。

 正確な踏み切りできれいなジャンプを見せ、ノーミスで反りたつ壁を超えたころには、ギャラリーができ始めた。

 異様な速さで壁を登り、揺れる振り子をかわし、ギロチンのような壁を頭の上まで持ち上げると、歓声が上がった。

 そして上半身を乳酸地獄に陥れるぶら下がりエリアへ進み、ついにクリフハンガーで力尽きると、溜め息と拍手と手荒な歓迎に包まれたのだった。


 思いもよらなかったのはその後のこと。

 例によってステラと同じことをしたい少女が

「ナキも!」

と参戦を表明。

 圧倒的な身体能力を見せつけたのだ。


 自分の身長ほども離れた飛び石を軽快に越え、バランス感覚が必要なエリアで1度は脱落したものの、すぐに学習してリベンジ。

 踏み切り台を利用してのジャンプは見たことないほど跳ぶし、4メートルの反りたつ壁なんて身長の3倍もあるのに1発成功した。


 バランスやタイミングを取るなど、技術の必要な動きは練習が必要そうだけど、走る力、跳ぶ力は、間違いなくステラより上だった。


(女性初のFINAL Stageあるでコレ……)


ステラは親バカなのだろうか、ナキの動きにワクワクと胸を高鳴らせたのだった。


 ナキはナキで、エリア突破ごとにステラが笑顔で手を振るのに気を良くしたし、少しずつ(と本人は感じているけど実際は爆速で)できることが増えるのを楽しく思っていた。


 プラーガ軍の中にもSASUKEスピリットを持った人はいるようで、将来が有望すぎるナキの動きを見て、アドバイスをする人も現れた。

 中でもスキンヘッドのおじさんが親身に教えてくれていて、ステラはそれをほほ笑ましく眺めていたのだった。


 そしてそんなステラのもとへ、新兵コルヌが将軍ヤマダを連れてやって来た。

 そろいの黒タンクトップが親子のように見える。

 そこでコルヌから、もっといろいろ教えてほしい、との話があり、ステラにとって自信のある弓射の場へ移ったのだった。



 やれること、やりたいことのほとんどが済んだステラは、ナキとクリスの方を見る。

 黒髪の少女ナキはステラが脱落したエリアで壁にぶら下がりながら、キャッキャと喜びの声を上げ、ぶらぶらと体を揺らしていた。

 褐色肌の戦士クリスは、死体の山、もとい、力尽きてへばり込んだ戦士たちに囲まれながら、なお木製の槍を構える。

 一時は30人ほどが並んだ挑戦者の列も5人ほどに縮み、何度やられても立ち上がる根性の持ち主のみが、やられては並び直す状況になっていた。


 ナキもクリスもイキイキした顔をしていて、ワガママで一緒に来てもらったけどよかったな、なんて思っていたステラの隣へ、将軍ヤマダが歩いてきた。

 他の兵は、訓練で使った弓矢を片付けたり、他の訓練へ移ったりしている。


「いかがでしたか。我がプラーガの軍は」


将軍ヤマダは、白い歯と浅黒の肌を光らせながら、ステラに水筒を渡す。


「規律も、モチベーションも、素晴らしいと思います」


ステラは答えながら水筒を受け取り、頭を下げた。


「ところでヤマダさん、聞きたいのですが、あの障害走コースで1番好きなのはどのエリアですか?」


水筒の麦茶をもらいながら、ステラはヤマダの目を見た。


「最後のパイプスライダーですかね。心技体の全てが揃わなければ、きれいな着地ができません。ステラ殿は?」


将軍ヤマダも、自分の麦茶をあおる。


「僕は反りたつ壁ですね。あれを目の前にしたとき、憧れの場所に立っているんだって感覚がして……とても良かったです」


自分の好みを紹介すると、ステラはヤマダの目を見る。珍しい黒い目。

 クラース村では、泉に映った自分かまれにしか目を見開かない長老くらいしかいなかった黒い目。

 他の村人はみな青い目をしていた。

「すいません。つかぬことをうかがいますが……ヤマダ将軍。あなた、転生していませんか?」


問われた将軍はうなずく。


「そう言うステラ殿も。同じではありませんか?」


ニッと端を上げた口から、白い歯がキラリと覗いた。


 将軍ヤマダは、北関東で20代後半に死んだらしい。

 SASUKEへの出場を夢見てのトレーニング中、荷物を載せた軽トラを押している最中に前へ飛び出してきた小学生をかばい、自分も飛び出して死亡。

 気付いたらこの世界の、城塞都市プラーガに転生していて、街の中でフリーランニングして遊んでいるところを軍にスカウトされた。

 現代日本の知識をいかした提案と、持ち前のストイックさで出世し、今では街と国の防衛を任される責任者だ。


 自分なんて名もなき男たちの1人に過ぎませんよ、と謙遜する将軍に、ステラの好感度はうなぎ上りだ。

 自らを奮い立たせるために憧れの人の名を借りる、その自信の無さも、自信をつけるためのストイックな日々も、その末に多くの弟子に慕われているのも。


 いつしか2人は、何十年ぶりの現代日本トークに花を咲かせ、生来の友のように語らうのだった。



 刻限を知らせる鐘が鳴る。


 ステラはすっかり仲良くなった将軍ヤマダに頭を下げ、ナキのもとへ向かった。ステラの姿を見て駆けよったその女の子は、がばりと抱きついてニコニコの顔を上げる。


「楽しかった?」


ステラはナキを受け止めて、その頭を撫でる。


「うん!楽しかった!」


 ナキを見てくれたスキンヘッドのおじさんに礼を言い、2人は手を繋いでクリスを回収する。


 ステラに声をかけられた褐色肌のクリスは、最後の相手、若いが新兵ではないエネルギッシュな男に対し、開戦直後に木槍を投げ込んでK.O.し、じゃあなと兵らへ手を振った。


 そうして3人はいくつもの視線を送られながら、城壁の門をくぐったのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ