夢現
お久しぶりです。リハビリに書いたものですので拙い文となっていますが、ご一読頂ければ幸いです。
日中とは打って変わって心地よい風が頬を撫でる午後八時半。僕はアパートのベランダで、ラムネ瓶を右手に一人夜空を眺めていた。
「な~にしてるの」
ガラガラと音を立てながら、“彼女”が網戸を開けてベランダに出て来た。“彼女”は薄花色のサンダルを履き、ショートパンツに白のタンクトップと如何にも涼し気な恰好をしている。“彼女”は僕の右隣に立ち、悪戯っぽい笑みを僕に向けたその直後、右手に持つ瓶をひったくって残り少ないそれを呷った。
「あっ」
「ん~……少なっ!」
“彼女”は不満そうに空瓶を見つめるが、すぐに僕の方を向いて今度は無邪気に笑いかける。後ろに束ねた長い黒髪、眩し気な小麦色の肌、そして太陽の様に輝くその笑顔……僕は見惚れていた。
※ ※ ※
夜風が一瞬、僕を吹き付ける。“彼女”はいなかった。あるのは空のラムネ瓶と、支柱の刺さった少し大きめの植木鉢だけだった。
「……そろそろ寝ようかな」
瓶を拾って部屋に戻り寝支度を調える。明日は休みだけどいつもより早く寝よう……もしかしたら会えるかもしれない、それが儚いものであったとしても。
※ ※ ※
カーテンの隙間からこぼれる日の光によって僕の意識は現実へと引き戻される。ゆっくりと瞼を開いた僕は覚束ない意識の中で必死に何かを思い出そうとする。……ダメだ、何も思い出せない。己の記憶力の無さを恨むも、不思議と、思い出せなくても心地が良かった。
座ったまま大きな欠伸をしてから、朝食を作る為に立ち上がる。
ベランダには、白と青の朝顔が仲良く、隣り合って咲いていた。