0087話 決着?
「がぁぁっ!」
「落ちますよ、ガイル!」
獣心化したミコト(獣)によって弾き飛ばされたガイルとラウル。
自然落下する中、ガイルは右腕を左肩の方にあげ上半身をねじり、右腕を振って身体を反転させる。
「オーガ流剣術奥義:地走り」
ガイルの剣技で地面がめくれ上がり、衝撃波が上がる。
それが空気のクッションとなるラウルも何とか地面に降り立った。
「おい、大丈夫か!」
俺はガイルとラウルに声をかける。
「オレたちは大丈夫だ、ただミコトが…」
「ミコトがどうした!」
俺は思わず声を荒げてしまう。
「落ちついてください、リュウ、ミコトは無事です、ただ少し心を開放したというか…」
「へっ、ミコトのやつ獣心化したみたいだ」
ミコトが隠していた能力まで使って戦った。
あの時、ミコトを追いかけたのはそれほどの手練れだったのだろう。
しかし獣心化したミコトが負けるとは思えない。
ラウルもミコトは無事だと言っている。
「ガォォッ!!!!!」
その時、一匹の豹が雄たけびと共に舞い降りてくる。
「ミコト!」
俺は思わず声をかける。
獣心化したミコトは理性を失う。
そういう風に聞いている。
だから使わない。
そう言っていたが、今回は獣心化を使わないと勝てない、死んでしまうと考えたのだろう。
そこはミコトを責められない。
だが、理性を失ったミコト(獣)は目の前のものに襲い掛かってしまう。
獣心化が解けるのを自然に待つしかないとも聞いている。
要は俺たちでミコト(獣)の相手をして獣心化が解けるまで時間を稼ぐしかないということだ。
だが、俺はミコトを傷つけられない。
「ガォォッ!」
ミコト(獣)は一番近くに立っている俺をターゲットに定めたようだ。
「へっ、こうなったら避けて避けて避けまくって時間を稼ぐしかないぜ」
「…」
俺は刀を鞘にしまう。
そしてそのままミコト(獣)に近づく。
「ミコト、俺だ、リュウだ、分かるか?」
「グゥゥッ!!」
ミコト(獣)は警戒の唸り声をあげる。
低く構えいつでも俺に飛び掛かれる体勢をとっている。
「安心しろ、ミコト」
数メートルの距離まで近づいたその時。
「ガァァッ!!!!!」
「ぐっ!」
凄まじい勢いで俺の右肩に喰いつくミコト(獣)。
「リュウ!」
ガイルの声が聞こえる。見えないが俺を助けるために剣を構えているのが気配で分かる。
俺は左手を上げてそれを制する。
「大丈夫だ…リュウだ…怖がらなくていい」
俺は左手でミコト(獣)の頭をそっと撫でる。
「グゥゥ…」
暫くそうやって頭を撫でていると、次第にミコト(獣)の嚙んでいる力が弱まっていく。
そしてミコト(獣)が眩い光に包まれる。
光が収まったとき、ミコトはいつものミコトの姿に戻っていた。
「…リュウ」
俺はミコトを抱えていた。
獣心化した際に体格にも変化があったためか、ミコトの元々着ていた衣服もボロボロになっていた。
俺は自分の上着をミコトにかけてやる。
「ああ、ここにいる、安心していいぞ」
「うん…ありがと」
それだけ言うとミコトは意識を失う。
獣心化は心体ともにダメージが大きいのだろう。
「へっ、無茶するぜ」
「ええ、しかしさすがはリュウです、やはり私たちの王は彼しかいない。」
あとはアイリスだ。俺はミコトをガイルに預け、アイリスを探しに行こうとした。
その時。
庭に跳びおりてくる刺客の一人。
部屋でアイリスと対峙していた刺客だ。
だが、両手に怪我をし、もう戦える状態でないのは明らかだった。
「ちっ、なんてこったい、全員負けたのか」
俺は部屋のテラスを見上げる。
「リュウ!」
「アイリス!、無事だったか」
「怪我はしたけど大丈夫!、そこのイヴを捕まえて!」
アイリスの無事も確認できた。
これで敵側は全滅。
今のところ意識を保っているのは、イヴと呼ばれた目の前の女だけだ。
「ハイル、あんた何してるんだい!」
「ああ、僕は組織を抜けることにした、今はラルガンス様の一番弟子だ」
何でもないことのように答えるハイル。
「へっ、どういうことだ?」
イヴだけでなく、ガイルとラウルも不思議そうな顔をしている。
「まぁ、いろいろあってね…詳しいことは戦いが終わった後に説明するが、ともかくハイルは敵じゃない」
「にゃー(屋敷の敵さんは捕縛したぜ)」
「ジョセフサマニキョウリョクシテモライマシタ」
ラルガンスの指示だろうか。
レムとさんじゅーろーはアイリス、ガイルとラウル、ミコトが倒した敵をすべて捕縛にいっていたようだ。
「さて、どうする、あとはお前だけだ」
俺はイヴに声をかける。
「くっ!」
ラルガンスにハイル、俺とガイルにラウルに囲まれ、イヴは逃げ道がない状態だった。
「大人しく投降しろ、命までは取らないと約束しよう」
「ふん、こっちもプロなんでね、死ぬのが怖いわけじゃないよ」
「へっ、ジャァ、オレたち全員を相手に戦うのか?」
「すでに戦える状態ではなさそうですけどね」
ガイルとラウルが剣を構える。
ラウルの屋敷の遥か遠く。
王都ウエストタウンの更に端にある城壁の上に一つの影があった。
「…全滅か…思ったよりやる」
それだけ呟くとその影は首からかけている時計を見る。
「…時間だ」




