0075話 闇の手
「カルロス様…その話をどこで?」
「ほほっ…わしとてこの国の宰相だった身、蛇の道は蛇じゃな」
それだけ言うとカルロスはいつもの酒を頼んだ。
店主は黙って酒を用意する。
「今夜まで時間をください」
それだけ言うと店の奥に引っ込んだ。
暫く酒を飲んでいたカルロスはチップを含めた酒代をカウンターに置いて店を後にする。
その後も市場を見て回り、暫くして護衛の騎士が待つ市場の入り口に戻った。
「ほれ、お前さんたちの好きそうな串肉があったので買ってきたぞ」
カルロスは護衛騎士に食べ物を渡す。
「おおっ、ありがとうございます」
「熱いうちに喰うのがよかろうて」
カルロスに勧められるまま肉を口にする騎士たち。
その後、カルロスは自分の屋敷へと戻る。
入浴を済ませ、夕食を取り、本を読みながら夜までの時間を過ごす。
メイドや執事も下がらせ、たった一人になった部屋でカルロスは待っていた。
夜も深くなったころ、その待ち人はやってくる。
影が動くような錯覚を覚えるほど全く音をたてずに、そのものはそこにいた。
「誰かおるのか?」
「…」
「わしこの屋敷の主カルロスじゃ、そなたは誰じゃ?」
「…闇の手のものです」
「おう、来てくれたか、わしが依頼主のカルロスじゃ」
影は微動だにせず、言葉は発する。
「ご依頼内容をお伺いしたく存じます」
「おう、そうじゃな…依頼の内容はある人物およびその人物が関係する人物を含めた調査じゃ」
「すこし範囲が広すぎるかと存じます」
「ふむ、調査対象人物はシューレッダ・エリーン伯爵、周囲の人物はすべて調査対象じゃな」
「調査対象は貴族ですか」
「そうじゃ、やれるか?」
「報酬次第となります」
「貴族相手でもえらい自信じゃのう」
「調査は我々が一番得意としている任務ですので」
そこまで言うと影は話しを止めた。
後は察しろということかもしれない。
「調査する内容じゃが、エリーン伯は最新駆け出しの冒険者にある魔獣の素材を収集させるクエストを依頼している」
「…」
「あんたらに頼みたいのはその調査じゃ、報酬は1日10万イエルでどうじゃ、2日ほどで結果報告が欲しい」
「承知しました、引き受けましょう」
それだけ言うと影はふっと消える。
「そう、さすがじゃの、何も見えんかったわい」
ラウルから依頼されたのはエリーン伯爵がなぜ魔獣の素材を欲しがっているのかということの調査だった。
理由が分かれば対処の方法も分かるだろう。
相手は貴族。
「さてさて、どうなることやら」
カルロスは年甲斐もなくワクワクしている自分に驚いていた。
そのリュウという男。我らが盟主。
そしてその仲間たちの中に自分がいる。
それは引退してから日々何も刺激なく過ごしてきたカルロスに取っては、、何にも代えられない体験だった。




