0074話 カルロスの散策
王都ルーラーン。
リュウたちチーム:龍翔<ドラゴニア>が鉄蠍討伐に出発した日、カルロスはある場所へ向かっていた。
元宰相としていまでも騎士団の護衛が付く身であり、友人として訪れたラウル邸以外の場所に出向くのは久しぶりだった。
「宰相さま」
「元じゃよ」
いまも王都の住民に声をかけられるカルロス。
カルロスが推し進めた奴隷制度の撤廃は様々な影響を及ぼした。
貴族などの特権階級からは反発されることは予測していたが、実際には王都の住民からの反発された。
平民が増えることによっての弊害、仕事が減る、住む場所が減る、食料が減るといった問題。
そして一番は「自分たちより下の存在がいなくなること」への恐怖だろうとカルロスは考えていた。
つらい状況でも自分よりもっと悪い状況のものがいる、あいつらよりはマシだ、と思うことで乗り越えてきたこともあったのだろう。
貴族は結局金で解決をすればよく、余計な出費があるぶんの文句は言うが、そこまでだった。
半面、平民側の反発は根強く、結局自分だけでは解決できなかった。
王からの勅命であること、さらには国教であるハウラル教教皇が奴隷制度撤廃に賛同する声明をだしたことでようやく収まったほどだ。
それからしばらくしてカルロスは混乱の責任を取る形で宰相を辞任し、その後は政治顧問として国に仕え、いまは隠居の身となっている。
そんなカルロスが今いる場所は元奴隷の血筋のものが多い市場である。
ここではカルロスは正に救世主であった。
そしてこの市場ではカルロスは護衛をつけていない。
状況が分かっている騎士たちもここでは護衛が必要ないと命令されているのだろう。
市場の入り口で待機をするのがいつもの姿だった。
カルロスは市場の屋台で一つ二つ物を買うと、その後、市場の中にある酒場に入った。
「おおっ、カルロス様!、ようこそ!」
酒場の店主が気軽に声をかけてくる。
「久しぶりじゃのぅ、元気にしとるか?」
「ええ、もちろんです」
店主は自分の太鼓腹を叩き、笑いながら言う。
「ほほっ、店に客はおらんようじゃが、その腹なら大丈夫そうじゃのぅ…」
カルロスはカウンターに腰を下ろす。
すれに老齢のカルロスにはつらいが、この店はそもそもカウンターしかないのだから仕方がない。
「どうします?いつものやつで?」
店主はいつもの酒を進めてくる。
しかし、カルロスの用事は別にあった。
「そうじゃのぅ…今日はアレをもらおうかの」
「アレと申しますと…?」
店主が笑顔をやめる。
「アレじゃよ」
「…」
「…闇の手じゃ」
カルロスは店主の眼を見ながら言う。
それは老齢のカルロスには似つかわしくないほどの鋭い眼光だった。




