0056話 黒猫
「な、なんで猫が喋ってるの!」
ミコトが驚きの声を上げる。
「え、え、え、っ?」
「話す、というより頭に直接声が響く感じだな」
アイリスは驚き、取り乱している。
反対に瑠璃は冷静に状況を分析していた。
「ね、ねぇ、黒猫さん(?)、これあたながしているの?」
ミコトが自分の頭を指さしながら、恐る恐る尋ねる。
ぐーっとノビをしていた黒猫はミコトの方を見ながら人鳴きする。
「にゃー(その通りだよ、豹人のお嬢さん)」
「やっぱりそうなんだ!」
「にゃー(驚かせてしまったら申し訳ない)」
黒猫はペロペロと肉球をひと舐めしてなら再度鳴く。
「にゃー(助けれくれたお礼をしたかっただけなんだよ)」
瑠璃は黒猫をじっと見ている。
「にゃー(私の顔に何かついているかい、可愛いお嬢さん)」
「うーん、お主はなんじゃ、魔獣の類か?」
黒猫はペロペロと毛繕いをしてから鳴く。
「にゃー(何と言われたも私は私だ、こういう存在だとしかいいようがないよ)」
それから暫く3人から質問攻めを受ける黒猫。
そして、ゆっくりながらも段々と分かってきた。
「…あなたの名前は?」
アイリスの質問だ。
「にゃー(吾輩は猫だ、名はまだない…というのは嘘で前のご主人からは【さんじゅーろー】と呼ばれていたよ)」
「猫さんは…」
「にゃー(私はさんじゅーろーだ、そう呼んでくれたまえ)」
「ああ、ごめん」
ミコトは頭をポリポリ掻きながら言い換える。
「さんじゅーろーさんはどこから来たの?」
「にゃー(うむ、私はもっと南の島に住んでおったのじゃが…)」
「南の島というと…グレイスフル諸島か?」
瑠璃が質問する。
「にゃー(物知りだね、可愛いお嬢さん、そうそのグレイスフル諸島の一つ、マズラミ島だよ)」
「で、そこからなんで王都に?」
ミコトが最初の質問に話しを戻す。
「にゃー(海賊の襲撃があってね…住んでた町は燃やされ、飼い主を亡くしたんだよ)」
「ひどい…」
アイリスが同情の声を上げる。
「にゃー(ありがとう、優しいお嬢さん…で、その混乱の最中に船に逃げ込んだんだが、それが町を襲った海賊の船でね)」
「それでそれで?」
ミコトが先を促す。
「にゃー(今から話すよ、元気なお嬢さん…最初はうまく隠れてたんだが、運悪く見つかってね、海に放り出されて流れ着いたのがこの国の港町ポートタウン)」
「そこから王都まで流れてきたってことかい」
瑠璃が最期を引き取る。
「にゃー(そういいうことだよ、腹が減って死にかけてた時にたまたま見つけた餌を食いすぎて、また死にかけてたってわけだよ)」
「そりゃ、大変だったのう…」
瑠璃も同情を見せる。
「で、で、この頭に直接響く声は何?魔法とか?」
ミコトが次の質問に移る。
「にゃー(そりゃ知らん、私もこんなことができるなんて知らんかったしな)」
「えっ、そうなの?」
アイリスが疑問の声を上げる。
「にゃー(私は前からこうやって思いを伝えてはおったよ、だが前のご主人や島の住人とは会話にはならんかったしな)」
「ということは私たちがさんじゅーろーさんの鳴き声を、私たちが分かる言葉にしているってこと?」
「えー、でもなんであたしたちがそんな事できるんだろ?」
「…瑠璃にも分からんな…」
「そうね、確かに考えても分からないかも」
「で、さんじゅーろーとやらはこれからどうするつもりだい?」
瑠璃が問いかける。
「にゃー(既に行く宛のない身…どっかで私を飼ってくれるような人はご存じないかな?)」
「瑠璃の店は薬屋だから動物はちょっとなぁ…」
「ジーナさんは?」
「ジーナ様は既に鳥を飼われておる…一緒に猫は難しいだろう」
「じゃぁさ、あたしたちがさんじゅーろーさんを飼うのはどう?」
ミコトが提案する。
「私たちが?、冒険者だし、危険なんじゃ…」
「冒険ならさんじゅーろーさんもしているし、それに動物を飼ってる冒険者も多いよ」
「テイマーとかでしょ…でも、さんじゅーろーさんは言葉も分かるし、危険度は少ないか…」
「そう、ここであったのも何かの縁だし、リュウやガイルに聞いてみようよ」
「そっか、そうだよね、私たちと一緒に来るのはどう?さんじゅーろーさん?」
「にゃー(私に異論はないよ、お嬢さん方、冒険者ってのもいいね、楽しみだよ)」
「瑠璃さんもそれでいい?」
瑠璃は小さく息を吐く。
「アイリスやミコトがそれでいいなら私はいいよ」
「じゃぁ、リュウとガイルにさんじゅーろーさんを紹介しよう!」
ミコトがさんじゅーろーを抱きかかえる。
「にゃー(私のことはさんじゅーろーでいいよ、ご主人様方)」
「私たちのこともミコト、そしてこっちはアイリスでいいよ」
「にゃー(分かったよ、お嬢さん…じゃなくて、ミコト、アイリス)」
アイリスは新たに仲間になったさんじゅーろーとミコトのやり取りを微笑ましく見ていた。
今後、生物学者のアスカにさんじゅーろーのことを聞いてみてもいいかな、などと考えていたのだった。
アイリスの背後にすいっとレムが近づく。
「あれ、どうしたの?レム、そういえば静かだったね」
「…アイリスサマ、レムモカワリナクアイリスサマニオツカエシマス…」
アイリスはレムをそっと抱き寄せる。
「分かってるよ、よろしくね、レム」
その後、瑠璃の店で薬を購入し、アイリスはレムを、ミコトはさんじゅーろーを抱きかかえて宿屋へ戻っていくのだった。




