0053話 小さい影
瑠璃の店までの道中、アイリスとミコトはウィンドウショッピングに余念がなかった。
「見て見てミコト、あんなに可愛いワンピースがあるよ」
「こっちもだよ、このカバン、おしゃれだね~」
冒険者をしているが年頃の女の子。
服やカバンといった服飾品には目がなかった。
ただし、自分たちで買えるものでないことも理解している。
駆け出し冒険者が、仕事に必要なこと以外でお金を使えるようになるのは、もっとランクが上がってからだ。
「はぁぁ、いいわ…」
「はぁぁ、いいね…」
ただし、窓から見るだけならタダである。
こんな時、お目付け役をするのはレムの役目だが、肝心のレムはというと。。。
「アイリスサマ、ミコトサマ、コチラニモステキナドレスガッ!」
一緒になってはしゃいでいた。レムも女の子(?)ということだ。
「やっぱり王都はすごいね、ルイムの町ではこんなにたくさんの店はなかったよ」
「そりゃ、町の大きさも人の数も違うもん」
「ガンプクデス…」
三人は会話が終わると、再び窓の向こうの煌びやかな服飾品に目を奪われていた。
店から店へと、窓を除きながら移動するアイリスとミコトとレム。
それでも目的の瑠璃の店へ近づいていてはいたのだった。
その時、アイリスは視界の端に黒い小さな影を捉える。
「んっ?」
それは小さな小さな影…のように見えた黒猫だった。
「どうしたの?」
蹲まり丸くなっているその黒猫は、小刻みに震えている。
「大変!」
アイリスは思わず、その黒猫を抱きかかえる。
周囲を見回すが、飼い主らしき人物の姿は見当たらない。
「猫?、どうしたのアイリス」
「この子が震えてて…どうしよう、ミコト」
「うーん、猫の医者は知らないしな…」
「アイリスサマ、クリスヤノルリサマニミテモラッテハ?」
アイリスの顔がぱっと明るくなる。
「そうね、ここから近いし、行ってみましょう!」
アイリスたちは急ぎ、瑠璃の店に向かった。
慌てて店の中に入る3人。
「はいはい~、お客様ですか?」
カウンターの下から声が聞こえる。
「ようこそ、瑠璃の薬屋へ、ご用件はなんですか?」
「あの、瑠璃さん」
「おや、アイリスじゃないか、どうしたんだい?」
「実は…」
アイリスは黒猫を連れてきている理由を話す。
「うーん…猫に効く薬はさすがにうちにもないなぁ…ちょっと診せてみて」
瑠璃はそういうと黒猫をアイリスから受け取る。
ゆっくりとカウンターに寝かせると、黒猫の背中や首筋を一通り撫でてみる。
「うーん…」
瑠璃はしばらく黒猫を撫でている。
「どうですか?」
アイリスは声をかける。
それでも瑠璃は目をつぶったまま撫でている。
「ねぇ、どうなの?」
しびれを切らしたミコトも声をかける。
が、瑠璃はまだ撫でるのをやめない。
「うーん、大丈夫じゃないかな、心配はいらないよ」
瑠璃は黒猫の喉元を最後に一撫ですると、アイリスに言う。
「大丈夫ってどういうことですか?」
「ただの食べすぎだろう、お腹がパンパンだよ」
そういうと瑠璃は小さい皿に水を入れて黒猫の前に置いた。
ゆっくりした動作でそれをピチャピチャと舐める黒猫。
「にゃー」
「ほんとだ、少し元気になった!」
アイリスとミコトは安心した表情を見せる。
「どっかで餌を見つけて食べ過ぎたんだろう…喉に詰まってしんどかったんじゃないかな」
「よかったぁ…」
アイリスが黒猫を撫でる。
「にゃー(助かったよ)」
「…」
「…」
「…」
アイリスとミコトと瑠璃は顔を見合わせる。
レムはフヨフヨと浮いたまま黒猫を見ている。
「…アイリス、何か言った?」
「ミコトこそ…それとも瑠璃さん?」
「瑠璃は何も言っとらん」
「…レムモデス」
「にゃー(助かったよ、お嬢さん方)」
「「「猫が喋ってる!(?)」」」




