0052話 道具の継承
アイリスとミコトはハンフリーから出た思いがけない名前に興奮を隠せなかった。
「鉄蠍の生息場所を知ってるの?」
ハンフリーは鼻息荒く身を乗り出してくるミコトに若干驚きつつ続ける。
「あ、ああ…昔、クエストを受けたことがあってね…随分前だが、生息場所なんて早々変わるもんじゃないだろうから、まだそこに居ると思う」
言いながらハンフリーはアイリスからペンを受け取ると紙に印をつけた。
「このあたりだ…街道から1日半ほど進んだところだ」
「ということは…」
アイリスが王都から生息場所まで矢印をつける。
「街道を半日くらい、そこから1日半…併せて2日、往復で4日だね」
「そうだね…で、これがさっきハンフリーが教えてくれたオアシス!」
ハンフリーが頷く。
「街道を出て半日くらいのところだ、王都を出て1日でオアシスに着く計算になる」
アイリスはしばし考える。
「往復で4日で、宿泊はオアシスで2泊、鉄蠍の近くで1泊から2泊、かな」
「え、鉄蠍の近くで1泊って?」
アイリスの計算が分からなかったミコトが疑問を投げかける。
「いや、いい判断だ、話しぶりから鉄蠍が標的だと思うがあれは強敵だ」
ハンフリーは水を一口飲んでから続ける。
「砂漠を歩いてそのまま突撃など体力的にも難しい、また戦って勝ったあとも消耗したままオアシスまで戻るのも危険だろう」
「そっか~、行ってそのまますぐ倒せるなんてことはないってことだね」
ハンフリーの補足にミコトも納得したようだ。
「資金的にはつらいところだけど準備を怠ると後が大変そう…」
「砂漠を行くのか…」
ハンフリーは少し考える様子を見せる。
「ちょっと待っててくれ」
そういうとハンフリーはギルドのカウンターでなにやら話しをした後、奥へ消えていく。
「ごめんね、サイカ、足止めしちゃって」
ここまで話しに入れず、ただ座っていたサイカに声をかけるアイリス。
「全然大丈夫です、でも少し驚きました」
「驚いたって何が?」
「村で別れてから少ししか経っていないのにアイリスさんもミコトさんもすっかり冒険者だったんで…」
「あたしは元々冒険者だったけどね」
ミコトの言葉にサイカは慌てて言葉をつなぐ。
「ああ、ごめんなさい、そんなつもりじゃなくて」
「いいって、分かってるよサイカ、アイリスたちとパーティ組んでちょっとだけど、いい絆を感じてるんだ」
「ミコト…」
「あっ、私が感じたのもきっとそういう部分でのことだと思います」
「だよね、だよね!」
その時、ハンフリーがギルドの奥から戻ってくる。
両手で抱えるほどの箱を持っていた。
「ギルドに預けていたのを引き取ってきた、これを使うといい」
ハンフリーが持ってきたのは砂漠でも使える野営道具だった。
「これって?」
「ああ、オレが昔使っていた道具だ、砂漠でも使えるテント、火種、魔法水筒なんかが入っている」
「魔法水筒?」
ハンフリーは箱から筒状になったものを取り出す。
「こいつは砂漠や洞窟探索には欠かせない、魔法で圧縮された疑似空間があり、大量の水を持ち運びできるんだ」
「すごい!」
続いてハンフリーは小さく折りたたまれた布を取り出す。
「これはテントだ、いまは折りたたんである…内側に魔法布が張ってあるので少し魔力を流せば防寒もできる」
「へぇ…」
「ただ、あまり大きくない…2人が限界だと思う…でこっちは火種だな」
それは珍しくはないただの火打石だ。
こうして見せてくれた道具を箱に再度しまうとハンフリーはアイリスとミコトに手渡そうとする。
「こんな大事なものもらえないよ!」
「いいんだ、オレはもう冒険者を引退する身…もうこの道具を使うことはないからな」
ハンフリーはその道具を愛おしそうに見つめながら言う。
「それにチーム:龍翔<ドラゴニア>の皆に使ってもらえるなら、こんなに嬉しいことはないよ」
「ありがとう、ハンフリーさん…とても助かります」
こうしてハンフリーの冒険者時代の道具を引き継いだアイリスとミコト。
レムの収納魔法にそれをしまうと、ギルドで手続するハンフリーとサイカと別れる。
そして、2人は薬を入手するために瑠璃の店に向かうのだった。




