0042話 生物学者
「あのー、すみません」
アイリスが声をかける。
「…」
しかし返事がない。
「あ、あのー」
「…」
再び返事がない。
「あっ、無視か?」
「しっ、聞こえていない感じだよ」
「そうだな」
目的の人物はずっと目の前の魔獣の死骸を調べている。
ブツブツと何か言いながら、周りのことは全く目に入っていない
「アイリス、暫く待とうか」
俺の言葉を受けて、アイリスも声をかけるのを諦めて少し離れたところで様子を見る。
30分ほど時間が経っただろうか。
「長いねー」
ミコトが退屈そうな声を漏らす。
「ワタクシガヨウスヲミテキマス」
レムがフヨフヨ浮きながら様子を見に行く。
スッとその人物の前方に回り込んだレム。
「…!」
ブツブツ言っていたその人物はレムの影に気付いたのだろう。
ふっと顔を上げる。
「な、なんだっ、君は!」
「オドロカセテシマッタノデアレバ…」
レムが全てを言い切る前に、その人物はレムを掴んだ。
「え、えっ、なんだ?君は?、生き物か?…」
摩ったり、裏返したり、レムは好き放題やられている。
「アワワ…タ、タスケテクダサイ…」
「あ、あの!」
アイリスが駆け寄って声をかける。
「えっ?」
その声に反応して、こちらを見たレムを掴んでいる人物。
「わぁぁっ!、な、なんだ、君たちは!」
ようやく俺たちのことを認識したようだった。
とりあえずレムを返してもらい俺たちはここに来た理由をアスカに話した。
「いやぁ、すまない、研究対象が目の前にあるとつい集中してしまってね」
「いえ、こちらこそ邪魔してすみません」
「いや、いいんだ、私は王都で生物学者をしているアスカというものだ、見ての通りハーフエルフだ」
「どうも、俺たちはチーム:龍翔<ドラゴニア>で、俺はリーダーのリュウ」
「ガイルだ」
「ミコトだよ」
「アイリスです」
「ご丁寧にどうも、で、風狼だっけ?」
アスカの問いにアイリスが代表して答える。
「はい、クエストで風狼の牙を探しています、でも平原が広くて見つけられなくて」
「だろうね、ムデノ平原は広いからね」
「はい、それでたまたま見かけたアスカさんが何か知ってたら、教えてほしいと思いまして…」
「そういうことか…うん、まぁ、風狼の生息地なら知ってる、私は風狼の巣と呼んでいる」
「本当ですか!」
「ああ、こう見えても私は長い寿命の殆どを平原の生物の研究にあててきたからね」
「あ、あの…それで」
「ああ、もちろん教えるとも、ただし条件がある」
「条件?」
アスカはアイリスの背中越し様子を伺っているレムをチラリと見る。
レムはアスカの視線を感じ、さっとアイリスの背中に隠れる。
「あー、レムを調べさせるとかそういうのはちょっと…」
「ああ、大丈夫、レムというのか、その子は…」
「はい、ゴーレムのレムです」
「レムを調べるのはいいよ…まだ」
まだ、というのが引っかかるが。
「牙を入手したいということは風狼を倒すんだろ、君たちは」
「ああ、そういうことになるな」
俺が答える。
「ならば、私も同行させてほしい、そして牙以外の遺体を含めた風狼を譲ってほしい」
「なるほど…研究か…」
「その通り、風狼を調べられるチャンスなんて滅多にない、これを逃す手はないのでね」
「ミコト…ほかの素材は諦めてくれな」
「うう、仕方ないよね」
「牙はいくつ必要なんだ?」
「5組ですね」
「では、風狼の遺体が5体できるな、私に提供するのは1体で構わない」
「やった、じゃぁ、残りの素材はあたしが刈り取っちゃうよ」
「ああ、何体も貰っても調べきる前に腐ってしまうしな」
「よし、話しはついたようだな、早速出発しようぜ」
今までずっと黙っていたガイル。
交渉事には口を挟まないと決めているのだろう。
「そうだな、アスカさんもそれでいいですか?」
「構わない、それと私のことはアスカでいい」
「分かった、では早速だけど案内を頼むよ、アスカ」
アスカの案内に従い、俺たちは風狼の巣へと向かった。




