0039話 情報屋
「なんだって?」
バァンとテーブルを叩くガイル。
しかし、それを見ても目の前の男は少しも動じない。
「いやならいいんだぜ」
「ちっ、足元見やがって…」
ガイルは脅しが通用しないことを悟るとさっさと引き下がった。
「もう少しなんとかなりませんか?」
「お嬢ちゃんの頼みでもこれは聞けない、こっちも商売なんでね」
俺たちは瑠璃の店を出た後、ギルド近くの情報屋の所に来ていた。
最初に情報屋についていたミコトの暗い顔を見て、なんとなく察しはついた。
当然だが情報屋の情報は高い。
それはそうだろう。
様々な危険を冒して入手した情報もあるはずだ。そう簡単に安い金額で開示できるはずもない。
「呪術師なんて危ない商売、大っぴらにやってるやつはいねぇ、だからその居場所の情報は高いんだ」
「まぁ、分かる話だな」
情報屋が求めている情報料は30万イエル。
金貨にすると3枚が必要だ。
俺たちの手持ちの資金は9万イエル。
金貨にすると1枚にも満たない。
ようするに金が足りないのだ。
「でも、30万イエルはいくらなんでも高すぎない?」
ミコトはまだ喰い下がっている。
「ダメだ、この情報はきっちり30万イエルもらうぞ」
「仕方ないな…」
「どうするの?、リュウ」
「金がないなら稼ぐしかない、俺たちは冒険者だしな」
ガイルがニヤリと笑う。
「へっ、そうだな、冒険者の原点に立ち戻るか」
「そうだね」
「ああ、それでいいか?、アイリス」
「うん…あ、あの、私のためにごめんね、みんな」
「それは言いっこなしだよ、アイリス」
「そうだぜ、アイリス、俺たちはもうパーティなんだ、一人の問題は全員の問題だ」
ガイルやミコトがそう言ってくれるのは素直に嬉しい。
「よし、じゃぁ、チーム:龍翔<ドラゴニア>の最初のクエストと行こうか」
俺たちは情報屋を出て、ギルドの受付カウンターへ向かった。
「あらぁ、チーム:龍翔<ドラゴニア>の皆さんじゃないですかぁ?、さっそくクエストですかぁ?」
ナタリーが聞いてくる。
「そうだな、俺たちの最初のクエストを探している」
「そうですねぇ、皆さんはパーティを組まれてからの実績がまだぁ無いのでぇ、そんなに難しいクエストは受けられませんよぉ」
「そうか…困ったな」
ナタリーからクエストの内容を見せてもらったが、今の俺たちが受けられるクエストは弱い魔獣討伐ばかりだった。
これでは日数がかかる割に、実入りは少ない。
情報屋に払う情報料を手に入れるまでに時間がかかりすぎる。
「どうする?、リュウ」
ガイルも思案顔だ。
「本来であれば少しずつクエストをクリアしていくんだが、それだと時間がかかりすぎる」
「だよなぁ」
その時、不意に声をかけられる。
「もし…」
綺麗な執事服を着た老齢の男性だ。
おそらくどこかの身分が高いものに仕えている執事だろう。
「…どちら様で?」
王都に入る際の横入りのことがまだ頭にあるのだろう。
ガイルが嫌そうに応対した。
「これは失礼を致しました。私はエリーン伯爵に仕えるものでございます」
やはり貴族の使いのようだ。
「冒険者の皆様にご依頼したいクエストがございます、つきましては私の主人の屋敷までご足労願えませんか?」
「俺たちに?、まだ何の実績もないチームだが?」
「勝手ながら受付嬢とのやり取りを聞かせていただきました。失礼ながら急ぎ資金が必要なご様子」
俺は頷くだけにして相手の出方を見る。
「私どもとしましても、ツテのある冒険者がクエスト中でして、どなたにお願いすればいいか困っておりましたところでして」
「で、俺たちの状況を見てお恵みをくれるってか?」
ガイルは言葉に棘を含めて返す。
「気分を害されましたなら申し訳ございません」
一旦、深々と頭を下げるエリーン家の執事。
「しかしながらお願いしたいことはクエストであることには変わりございません、また報酬もそれなりのものをご用意いたしております」
俺はナタリーをチラリと見る。
「それは名指しクエスト、ということですかぁ?」
「こちらの皆様にお受けいただければ、そういうことになります」
「名指しクエスト?」
「そのままだが、このチームに依頼したいと名指しされるクエストだな、当然報酬も高くなる」
「いかがでしょう?」
完全にこちらの事情を知ったうえで高い報酬で交渉をしてくる。
俺はアイリスをチラリと見る。
全てはアイリスの呪いを解くためだ。
ガイルとミコトも頷いてくれている。
「分かった、ただし受けるかどうかは話しを聞いてからだ、それでもいいか?」
「おおっ、ありがとうございます、もちろん内容をお聞きいただいてからのご判断で結構でございます」
こうして俺たちは依頼内容を聞くためにエリーン家へ行くこととなった。
訪問は明日ということになったので宿に戻り休むことにした。
「そういえば会わせたい人がいるって話しだったけどいいのか?」
ガイルに尋ねる。
「ああ、そっちは急ぎじゃねぇ、まずはアイリスの件を優先しよう」
「助かるよ、ありがとう」
その晩、俺たちはゆっくりと休み、翌朝セントラルタウンにあるエリーン家へ向かった。
貴族が済むエリアへ入るための証書は昨日、執事からもらっていたのでスムーズに手続きは終わった。
次第に見えてくるエリーン家の屋敷は、やはり豪邸と言っていい立派な屋敷だった。
〇イエル
この世界の通貨。世界統一通貨が導入されており、貨幣経済が行われている。
硬貨、紙幣に加え、金貨、銀貨、銅貨も同等の扱いをされる。
すべてある国で鋳造、造幣されており、強力な暗号魔法による管理で
偽造を防いでいる。




