0125話 潜入
俺とアイリスがルイムの町に戻り、ガイル達が待つ宿屋へ向かうと、そこには瑠璃とアスカ、レムだけが居た。
「あれ、ガイル達はどうしたんだ?」
「実は…」
瑠璃によると、クレハ一家をつけ狙う相手がいて、それが裏社会の大物という情報を得たイヴが、確かめに行くと言って瑠璃と別れたのが昨日のことだという。
そのイヴが夜になっても戻らないので、町に帰ってきたガイル達に相談。今朝からガイルとミコトがイヴを探しに宿を出たということらしい。
「裏社会の大物って誰のことだ?」
「ジルバーノってやつだよ、瑠璃はそんなに詳しくないので名前を知ってるくらいだけど…」
「私も大して詳しくはない、噂を聞くくらいだがいい話しは聞いたことがないね」
王都での生活が長い瑠璃やアスカも知ってるような輩らしい。
だが、そんな人物とクレハにどういった関係があるかは分からないが、イヴを含めて何らかのトラブルがあったと考えたほうがよさそうだ。
「俺たちも行こう、アイリス」
「うん」
「あっ、そうだ、リュウ、クレハさんに例の話しをしたよ」
瑠璃に依頼していた件だ。
「そうか、どうだった?」
「うん、喜んで受けたいってさ、一応、子供たちにも聞いてみるってことだったけど今より環境が良くなるから大丈夫だと思うってさ」
「分かった、ありがとう、一回クレハにも会ってみるよ」
「そうしてあげて」
俺と瑠璃の会話が終わるのを待っていたアイリスが問いかけてくる。
「ねぇ、リュウ、イヴもだけどガイル達はどこに向かったんだろ?」
「そうだな、何か言っていたか?」
瑠璃とアスカは首を振る。レムも知らなそうだ。
「どうしよう?」
「そうだな…クレハに聞いてみるか」
「そうね、もしかしたらガイル達も行ってるかもしれないし」
「瑠璃も行くよ、クリンの様子も気になるし」
こうして俺とアイリスに瑠璃は、イヴたちの足取りを求めてクレハたちがいる川沿いのあばら家に向かうことにした。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「ん…ここは…?」
イヴは意識を取り戻すと周囲を確認する。
目の前には床があり、自分が寝転がされていることが分かる。
「痛っ…」
頭を上げようとしたときに、頭部に鈍い痛みを感じる。
触って確認しようとするが、それは叶わなかった。
両手は後ろ手に縛られており、両足は2本揃えてきつく拘束されているのだ。
イヴはここまでの記憶を思い出す。
瑠璃と共にクレハの家に向かう途中で怪しげな二人組を倒した。
そのときにジルバーノの話しを聞いて、確認のためアジトへの侵入を試みた。
アジトの場所は案外すぐに分かった。
例の二人組が意識を取り戻し、アジトへ戻るのをつけたのだ。
侵入者対策として建てられているだろう塀を乗り越え、ここに来るまでにくすねたタオルで顔を隠す、そして裏口を思われるところから侵入する。
「そうだ…そして…」
裏口から屋根裏に侵入し、天井から中の様子を伺っていたイヴ。
下っ端が集まっていると思われる大部屋で、ボスの部屋の場所を聞いたイヴは手掛かりを求めて移動する。
ボスの部屋には誰もいなかった。
屋根裏から出て、部屋を物色するイヴ。
なぜクレハのような何の変哲もない普通の一家を、ジルバーノのような大物が狙うのかが興味をそそられていた。
「クレハやその家族に秘密があるのか…それともあるいは…」
ボスの物と思われる大きな机の鍵がかかった引き出しがある。
他の場所に目ぼしいものを見つけられなかったイヴはこの引き出しに狙いを定める。
鍵は探したが見つけられなかった。
「…仕方ないね」
イヴは懐から細い針金を取り出すと、おもむろに机の鍵穴に差す。
かちゃかちゃと数回鍵穴に刺さった針金を動かすと、カチッという音が聞こえる。
「ビンゴ」
引き出しを引っ張ると、すぅと音もたてずそれは動いた。
「さてさて」
引き出しの中には数枚の羊皮紙が入っているだけだった。
「なになに…」
1枚目の羊皮紙に目を通す。
そこには王都のある貴族からの依頼が書かれていた。
だが、クレハの件とは関係なさそうだ。
「これは違う」
続けて2枚目に目を通す。
そこには間違いなくクレハの名前があった。
だが、借用書などではなく、クレハの誕生日や生い立ち、出身地、家族構成などが記載されていた。
「クレハのことだろうけど…なんでこんなものが必要なんだ?」
羊皮紙はもう1枚あるようだ。
それに手を伸ばそうとしたとき、イヴは自分に向けられた殺気に気付く。
とっさに机を壁代わりに屈むイヴ。
ダンッという音を立て、先ほどまで自分の頭部があった辺りを横切って、ナイフが後ろの壁に突き刺さる。
「チッ、見つかったか」
「族めが…このジルバーノ一家のアジトに忍び込むとはいい度胸をしている」
3名の気配を感じる。
なんとかこの場を切り抜ければ外への脱出も不可能ではない。
そして人数が多くなる前にこの場を切り抜けるしかない。
そう考えたイヴは、ジリジリと近づいてくる相手の気配を探りつつ、机に一番近いところにいるものに向かって姿を見せると同時に蹴りを放つ。
側頭部に蹴りが決まり、壁に吹っ飛ぶその者。
続けざまにその隣にいた男の腹に正拳をめり込ませる。
前のめりに倒れるその男。
次に部屋の入り口付近に立っていた男にも蹴りを喰らわせる。
「ふん」
騒音を聞いてこちらに向かってくる声や足音が聞こえる。
「ここまでだね」
イヴは最後の羊皮紙は諦めて、アジトの入り口に向かって走り出す。
ボスの部屋の前の廊下を進み、門で一度曲がる。
屋根裏を進んできたとはいえ、出入り口の方向くらいは分かっている。
廊下の先に一人の男が立っているのが見えた。
ソイツはイヴが目指す入り口のあたりにいる。
イヴは避けるのは難しいと判断し、倒して脱出事に決めた。
走りながらその男に正拳突きをお見舞いする。
が。
その瞬間、イヴは自分の腹部に強い痛みを感じる。
正拳突きは躱されており、同時に鞘に入ったままの刀が腹部にめり込んでいた。
反撃を、とイヴが考えると同時に自分の頭部に振り下ろされる刀の鞘が目に入る。
そしてイヴは意識を失った。
「そう、あたいはアイツにやられて…」
高い天井にある微かな隙間から月が見えていた。
「長いこと、気を失っていたみたいだな…」
少しもがいてみたが両手足の拘束はとてもきつく簡単に外せそうにはなかった。
「クソッ、ドジッちまったぜ…」
そのときイヴは自分が拘束され留め置かれている場所に向かってくる声と足音を聞く。
動けないイヴの前に現れた数人の男。
取り巻きの部下に、自分を倒した刀を持つ男、そし中央に立つ偉そうな男。
その偉そうな男がイヴを見つめながら言う。
「てめぇ、どこのもんだ?」
その男こそがジルバーノ本人だった。




