0123話 ベルの話し
刀がベルに触れる寸前で動きを止める俺。
ベルの視線は俺の刀の切っ先を見つめている。
話す気になったのだろうと思った俺は意識して冷たい声でベルに聞く。
「話す気になったのか?」
「あ、ああ…もう逃げないし攻撃もしない、だからその剣を収めてくれよ」
俺は刀はベルに向けたまま会話を継続する。
「それで、老師の遺体はどこにやったんだ?」
「…」
ぼそっと小さく何かを呟くベル。
「聞こえない」
「だから、知らないんだよ」
まだ答える気がないのか、というのが顔にでたのだろう。
焦った様子でベルが会話を続ける。
「ちょ、ちょっと待ってくれ、知らないのは本当なんだ、というか我は墓を荒らしてなどいないのだ」
「はぁ?」
「最初から話すから、なっ、まずは聞いてくれよ」
そうしてベルは話し始めた。
「その前にお前は誰なんだ?なぜここにいる?」
「あー…」
何やら答えなきゃダメ?みたいな顔をしているベル。
だが俺は無言で答えを要求する。
「…我はベル…ベルゼビュート、魔王ベルゼバブの一人娘じゃ!」
「なっ!、魔王ベルゼバブ!」
ベルゼバブは老師を殺した張本人だ。
「魔王ベルゼバブの娘がなぜここに?」
「前に魔王≪パパ≫がここを襲撃したろ、そんときに怪我して帰ってきたんだわ…」
「…前腕か」
「そうだよ…で、我は魔王に一撃くれた奴が気になって見に来たってわけだ」
魔王とは圧倒的な存在。
その魔王が自ら出向き、そして怪我をして帰ってきた。
それは魔王の国に住む者にとって大きな衝撃だった。
「ベルゼバブの娘…関係者ってことはやっぱり老師の遺体に用事があったんじゃないのか」
ベルは少しため息をつきながら、話しを続ける。
「違うよ、ようやく魔王≪パパ≫の側近を締め上げて場所を聞き出して来てみれば誰もいない…そんで裏手に回ったら墓が荒らされてたって感じだね」
「んっ、じゃぁ、あれはお前がやったんじゃないのか?」
「だからそう言っているだろ、知らないって、墓を見てたところに丁度あんたらが来たんだ」
なるほど確かにベルは一度も墓を荒らしたのが自分だとは言わなかった。
知らない、そうだったらどうする、といった言い方をしていたはずだ。
「知らないならはっきりとそういえば戦う必要なかったじゃないか」
「まぁ、我がここに来たのは魔王≪パパ≫を怪我させたやつと闘うためでもあったからね、話しの流れで関係者だと分かったし、ちょうどいいと思っちゃたんだ」
ここまで話してようやくアイリスたちが立ち上がれるまで回復したようだ。
同時に俺が纏っていた龍闘気も消える。炎龍のオーラもいつの間にか消えていた。
「おかしな力だね…でもまぁ、我では勝てないことは分かったよ」
「老師の遺体の件、本当に何も知らないんだな」
「ああ、魔王ベルゼバブは麾下の軍団にこの辺りへの手出し無用の命令を出している、だから誓って我らじゃない」
「お前はここに来ているじゃないか」
「我は例外…というか軍団員でもないしね」
親の言うことを聞かない娘という感じか。魔王が手出し無用と言っているにも関わらず、思い立ったら行動せずにはいられない性格なのだろう。
「ということは誰が…」
「さてね、でもどっかの魔王勢力だろうねぇ…半端者が手出しできる話じゃないよ」
ガイル達が俺とベルのところまでやってくる。
俺たち5人でベルを囲む格好となった。
「やぁ、すまかったね、我はあんたらの仲間に負けたよ…」
「それより、この娘、魔王の娘って聞こえたと思うけど…」
「ああ、我はベルゼビュート…魔王ベルゼバブの娘さ」
俺は皆にさきほどまでの話しの内容を告げる。
魔王、それもベルゼバブの娘であることに、驚きがありつつ皆は話しを聞いていた。
老師の遺体のことを知らないというのは嘘ではないと感じたことから、いったんはベルにその話を追求することはやめることにした。
老師の遺体については誰かが持ち去ったという状況に変わりはない。
だが、その手掛かりは全く残されていなかった。
そのことに俺とアイリスは少なくないショックを受けたが、今ジタバタしても何も始まらないため、まずは墓を綺麗に戻しておくことにした。
驚いたのは墓の修繕に、戦いで怪我を負わせたお詫びだといってベルが手伝いをしてくれたことだ。
ガイルはいい経験になったことを喜んでいたし、アイリスもミコトも自分の実力が足りないからだと結果を受け入れていた。
レムだけは戦力になれなかったことを悔しがってはいたが。
こうしてベルゼビュートたちとの戦いは終わりを告げる。
だがその後、再度の驚きが俺たちを襲う。
「我はあんたらと一緒に行くよ、だからチーム:龍翔<ドラゴニア>に入れとくれよ」
「なんでそうなるんだよ?」
「我は負けたからね、魔族は負けたヤツに従属するんだよ」
「いやいい、帰れ」
魔族の特性はともかく、魔王ベルゼバブと今の時点で敵対するつもりはない。
いつか老師の件で決着をつける必要があるとは考えているが、それはいまではない。
「娘を連れていると魔王に付け狙われる可能性があるからな、いま俺たちは魔王を相手にしている暇はないんだ」
「なんだいツレナイねぇ」
暫くベルは考え込むようなしぐさをする。
「分かった、では魔王≪パパ≫を説得してくる」
「うーん…」
「へっ、魔王の許可があるならいいんじゃねぇか」
「そうね、ベルの加入は心強いし」
「おいおい…まぁ、いいか、じゃぁ、魔王を説得して俺たちが魔王軍に狙われないことが条件だ、いいな」
「よし、それでいいよ、ああ、そうだ、これを渡しておく」
ベルが耳にしていたイヤリングの片方を受けとる。
「このイヤリングは2つで共鳴しあうので離れていても互いの場所が分かるんだ、魔王≪パパ≫の説得が終わったらそれを頼りに追いつくよ」
「なるほど、では俺たちは先に進んでいるぞ」
「構わない、すぐに追いつくよ」
そう言ってベルは去っていった。ベルゼバブのようにゲートを開くのではなく魔道具らしきものを使用していたようだ。
「よし、大体片付けも終わったし、オレとミコト、レムはルイムの町に戻るぜ」
「そうだねー」
「ショウチシマシタ」
「あれ、みんな帰っちゃうの?」
「へっ、向こうのことも気になるしな、あっちがうまくいっていればこの小屋で寝るのも最後になるかも知れねぇ」
「ここには思い出も多いでしょ、リュウとアイリスで泊まるといいよ」
「うん、分かった、ありがとう、ガイルさん、ミコト」
こうして小屋に残ったのは俺とアイリスだけとなった。
久しぶりの小屋での暮らし。
夕方の鍛錬を行い、食後の片づけは俺が担当することになった。
前のように二人で食事を作り、二人で食事をとった。
風呂に入り、俺たち二人は久しぶりに互いのベッドに入る。
以前は家族のように暮らしていたが今は違う。
俺とアイリスは、お互いの想いを認識しあっている。
そして夜が明けた。




