0103話 行動方針
一時的な休憩を挟み、俺たちは再び集合した。
今後の方針の検討のためだ。
「話せますか?リュウ」
「ああ…少し体はだるいけどな」
俺はベッドのうえで上半身を起こす。
「これで勘弁してくれ」
「へっ、問題ないぜ」
「無理しないでね、リュウ」
「そーだよー」
ガイル、アイリス、ミコトがそれぞれの言葉で俺を気遣ってくれる。
だが、寝てばかりもいられない。
ラウルは俺の目を見て、会議の進行を行う。
「さて、今後の方針ですが、最優先事項は決まっています」
ラウルの言葉に全員が頷く。
「そう、アイリスの呪いへの対応です」
「呪術師の情報を仕入れて呪いの正体を探りにいかないとね」
「うん、そうだね」
ミコトの言葉にアイリスが嬉しそうに微笑む。
「情報屋にあたってみないことには何ともいえませんが、呪術師を探すメンバーは決めておきたいと思います」
「そうだな」
闇雲に動くよりは専任するメンバーを決めておく方が動きやすいだろう。
「それと将来的なことを考えていくつか提案があります」
全員がラウルの言葉を待つ。
「まず、私は今回のエリーン伯との1件で情報収集の重要性をより強く感じました」
「そうだな、それには俺も同意する、特に執事の情報は知らないで屋敷に行っていればもっと大変なことになっていたはずだ」
「ええ、ですのであのカゲロウを再度雇うことを提案します、それも長期的に」
「へっ、そりゃいいが、そんな金あるのかよ」
「そこは、ゴルベール家が雇う形にしますのでご心配なく」
「おい、貴族としてのラウルの力は使わないぞ」
「ええ、ですがカゲロウの力を欲しているのはチーム:龍翔<ドラゴニア>だけでなくゴルベール家も同じなのです」
「へっ、どういうこった?」
「身内の恥を晒すようで恥ずかしいのですが、実はゴルベール家の兄弟間で諍いがおきています」
「何を争っているんだ?」
「金と領地です、まさに貴族ですね、まぁ、私はそんなものに興味はなかったので無視していたのですが最近、私の領地を奪おうとしている兄弟がいることが分かりまして」
「えー、なにそれ」
「私の領地は将来の旗揚げの際の本拠地にする予定ですからね、奪われるわけにはいきません」
「それでカゲロウを?」
「ええ、誰が狙っているのかを探ってもらうというのがまず1つです」
「へっ、そのいい方だと他にも理由がありそうだな」
「ええ、こっちは将来を見据えてですが、マルタンとトリスタンにはカゲロウの傘下に入ってもらい隠密の修行をしてもらいたいと思っています」
ラウルの言葉に双子は驚きの声を上げる。
「僕たちが…」
「…隠密?」
「ええ、カゲロウの実力は本物です、そして長期的に彼を雇うとして将来的に隠密の数はもっと必要になります」
「それを僕たちに?」
「しかしカゲロウがそんな依頼を受けるかね?」
ここまで黙って聞いていたカルロスが口を挟む。
「そこは条件次第かと考えています、彼はプロです、プロには報酬で答える必要があるかと」
「ふむ、ならばオルベール家としても一枚かませてもらおうかの」
「ちょっと待て、カルロスも貴族の力を使うつもりか?」
「いえいえ、私の方にも依頼はありますのじゃ、元宰相として国の生末を心配しているのは事実ですから」
詭弁だ。だが、俺にラウルとカルロスの個人としての都合に口を挟むことはできない。
「納得いかないかもしれませんが、これは必要なことです、そしてあくまでも私とカルロス卿の個人的な都合が主な理由です」
「分かったよ、マルタンとトリスタンはどうだ?」
「僕たちは通常戦闘でガイルとラウルに負けているし、正直カゲロウにも勝てる気がしなかった」
「だから彼の元で修行できるなら逆にありがたい話だ」
「よし、では決まりです、早速カゲロウに依頼することにしましょう」
ラウルはジョセフにカゲロウへの依頼を済ませるように伝える。
「いくつかってことはまだ他にもあるの?」
アイリスが話しをつなげる。
「ええ、次はラルガンスです」
ラルガンスは今この場にはいない。
「リュウはラルガンスが行っている研究のことを知っていますか?」
「ああ、完全復活だろ」
ラルガンスは風狼に襲われている俺たちを助けに現れて以降、まだ光のある所での活動はできないでいた。
本人いわくアンデットに近い形、だからだそうだがそれを克服する方法の研究を行っている。
「いまはラルガンスだけが行っていますが、ハイルにも手伝ってもらいたいと思います」
「おお、僕が師匠の復活の手助けができるってことか!」
ハイルが喜びの声をあげる。
「ラルガンスが常時活動できるようになればパーティにとって重要な戦力になります」
「へっ、そうだなアイツは強い」
「それについては…」
俺はハイルを見る。
満面の笑みで自分に与えられたミッションに喜んでいる。
「問題なさそうだな」
ラルガンスも反対はしないだろう。研究の進みが倍とは言わないまでも2人であたればそれだけ進みは早くなるはずだからだ。
「ねー、最初に言ってたアイリスの件のメンバーはどうなるの?」
ミコトが疑問を口にする。
「そうですね、それはリュウ、アイリス、ガイル、ミコト、レムで当たってもらいたいと思います」
ある程度想定できたメンバーだ。
「あれ?、ラウルは?」
「にゃー(わしも入ってないぞ)」
「すみませんが私は先程の領地の件で少し間そちらに集中します、さんじゅーろーにはそれを手伝ってもらいます」
「にゃー(わしがか?)」
「えー、すごいじゃん、さんじゅーろー」
「実はこれまでもさんじゅーろーの何気ない言葉に気付かされることが多くありました」
「たしかに、さんじゅーろーって侮れないよな」
「にゃー(人生経験が豊富だからな)」
さんじゅーろーがドヤ顔をしている。
「それを言うなら猫生経験だろ」
とりあえずツッコミを入れておく。
「で、エイルですが、あなたには針を有効に使うためにある村に行ってもらいたいと思っています」
「針を有効活用?」
「ええ、あなたの針は攻撃だけでなく強化に使えると思います、いわゆる魔法針です」
魔法針とは針を経絡に差すとともにエーテルを注入することで一時的に能力上昇をさせる技法だ。
経絡の知識と正確性が求められる非常に難易度が高い、成り手の少ないジョブだ。
「聞いたことはあるけど…」
「非常に難しいでしょうが、あなたは針を扱う基本はすでにできています、きっとものにできると思います」
「まぁ、いいわ、あたいもあのカゲロウには針が通用する気がしなかったし、味方に行う魔法針を覚えれば役に立てそうだし」
「カルロスには引き続き調査の継続をお願いしたいんだが」
俺は希望を口にする。
「ええ、もちろんそのつもりです、よろしいですか?カルロス卿」
「もちろんじゃ、まだ何も掴めておらんが全力で調べてみるよ」
「あのー、あたいだけ呼ばれてないんだけど」
イヴがおずおずと手を上げる。
「イヴにはリュウたちと一緒に行ってもらいと思います」
「えっ、メイン班なの?あたい」
「メイン班って」
「よろしくね、イヴ」
「ああ、任せろ」
アイリスとイヴは戦いを経て以降、奇妙な絆が生まれているようだ。
こうして行動方針は決定した。
その夜、ラルガンスがハイルと研究を進めることを渋々ながら同意した。
またカゲロウは俺たちからの依頼を請け負った。
正直こちらは意外だった。
特にマルタンとトリスタンの修行の部分は拒否される気がしていたからだ。
だが彼は正真正銘のプロフェッショナルだったのだ。
プロフェッショナルは報酬で仕事を受ける。
ただそれだけなのだそうだ。
翌日まで休んだ俺はすっかり回復した。
各自、それぞれの役割に向けて出発した。
そして俺たちメイン班のメンバーは呪術師の情報を得るために情報屋の元へ向かった。




