0100話 炎の力
「あああっ、ま、まて!」
執事は驚愕と共に懇願の声をあげる。
さきほどリュウ(炎)に頭を掴まれたアイベールは一瞬で燃やし尽くされた。
その姿を思い浮かべずにはいられないのだろう。
「そ、素材はもういらない…お前たちにも手は、だ、出さない…なっ?」
必死に懇願する執事。
「…」
しかしリュウ(炎)は無言だ。
そして一瞬、リュウ(炎)の炎が揺らいだように見える。
「がぁぁっ!!」
執事の両足が燃え始める。
「ま、待ってくれ!、俺は雇われただけなんだ!」
「へっ、執事なんだから当たり前だろ」
「ち、違う、俺はエリーン伯と辺境伯の関係強化のために雇われたんだっ」
執事は必死の形相で言った。
「へっ、どういうこった?」
オレが話しを聞く気があると踏んだのだろう。
頭部を掴んでいるリュウ(炎)にではなく、オレに向かって話し始めた。
「お、俺の雇い主は辺境伯だっ、将来的にエリーン家を乗っ取るために令嬢との婚姻を進めていたんだ!」
「オレたちを襲ったのは?」
「エリーン伯の命令だっ、命令を実行し、信頼を得るために仕方なかったんだっ」
「へっ、だから許して下さいとでもいうつもりか」
執事は必死になって首を振る。
「ち、違う、俺は辺境伯とエリーン伯に通じている、俺を殺せば二人の伯爵を敵に回すことになるぞっ!」
そこまで言ったときに執事の右足が焼け落ちる。
「がぁぁっ!」
「貴族を敵にといってもいまさらだぜ、すでに敵対行動は明らかだしな」
「な、ならば俺が口利きをすれば辺境伯の保護を受けることができるぞっ!、エリーン伯も許してくれるかもしれなっ、がはっ!」
そのとき執事の左腕が燃え尽きる。
「お、俺と…協力すれば…伯爵家の乗っ取りも…可能…だ…ぞ」
もはや声になっていない。
「リュウ…」
オレの問いかけにリュウ(炎)が頷いたように見えた。
「や、やめろ…殺さな…」
執事のか細い声が炎でかき消され、そして跡形もなく燃え尽きた。
「圧倒的だな…」
つい先ほどまで追い詰められていたとは思えない状態だった。
「へっ、ということらしいが、どうする?」
オレは部屋の奥の扉に大剣を向けながら言う。
「…待て」
「へっ」
扉が開いてエリーン伯が出てくる。
「一人かよ」
「ああ、すでに兵を連れてきても意味がないことが分かっているのでな」
「へっ、そりゃ、お優しい」
「単刀直入に言おう、交渉の余地はあるか?」
「へっ、そりゃこっちのセリフだ、攻撃を仕掛けられたのはこちらなんでね」
「…」
「だんまり決め込んでもムリだぜ、襲撃者までよこしたてめぇは許さねぇ」
オレは剣先をエリーン伯に向ける。
その時、俺たちが入ってきていた扉が開いた。
「待ってください、ここは私に任せてもらいましょうか」
そこにはマルタンとトリスタンを護衛に連れたラウルが立っていた。




