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6話

「疲れましたねー」

 

 日も暮れたので今日の練習は切り上げることになった。2人は訓練場の片付けをしている。

 マリーはヘトヘトといった感じだが、シアンは特段疲れた様子ではない。本を読みながら、マリーの魔法を見て時々口出ししたり、数回お手本を見せたくらいしかしてないからだ。

 

「お疲れ、結構長いことやったな」

 

 シアンはねぎらいの言葉をかけると、用意していた水を差しだす

 

「先輩って意外と優しいんですね」


 マリーは目をぱちくりさせ、意外そうな顔をしながらもコップを受け取る


「意外って失礼だな」


「いや、なんか先輩っていつも一人でいるんで気難しい人なのかなって思ってたんですよ」


 2人は同じ孤児院出身と言えど、もともとそんなに仲がいいわけではなかった。むしろ、ほとんど会話はなかったほどだ。

 シアンは今ほどではないものの浮いた存在ではあったし、マリーは持ち前の明るさで周りとなじんでいた。


 学園では2人とも超少数派になってしまったこともあってかそこそこ話す機会も生まれたが、それもマリーが入学してきた3か月ほど前からだ。

 だからお互いのことをきちんと理解しているわけではない。


「でも、確か先輩って孤児院にお金送ってくれてましたよね。すごい助かるって先生たち言ってましたよ」


 シアンは学園からの奨学金で生活している。これは特待生だけの権利であり、普通に生活するにしてはかなり多めにお金がもらえる。

 シアンはその奨学金の一部を故郷の孤児院に送っているのだ。


 シアンたちの出身の村はかなり田舎で、孤児院は小さく貧乏なところだった。

 孤児院を運営しているシスター2人が教会からの資金を必死にやりくりし、それでも足りない分は自分たちの生活費を削ることでどうにか子供たちを養っている。

 

 シアンはそんな孤児院の運営が少しでも楽になるならとお金を送っている。

 

「俺が今生きているのはあの2人と孤児院のおかげだからな。それくらいの恩返しはするよ。自分のために使いなさいって結構反対されたけどな」


 当時のことを思い出しながらシアンは話す。ちなみに卒業してもこの援助は続ける予定だ。


「そうでしょうね。私もこっちの生活に慣れたらしようと思ってるんですけど。何回も無理しなくていいからねって言われました」


「あの人たち自分は無理する癖に、俺らには全然無理させてくれないからなぁ」


 あの孤児院出身の者ならあの2人に感謝してない人はいない。シアンがそう言い切れるほど優しい人たちだ。


「そういえば先輩、収穫祭って今年は誰かと見て回ったりしますか?」


 ふと思いついてかのようにマリーはシアンに尋ねる。


「いや、その予定はないけど」


 シアンは今年も一人で収穫祭の時期を過ごす予定だ。


「よかったら、3日間のうち1日ぐらい一緒に回りませんか?」


 収穫祭は3日間に分けて行われる。3日間とも同じ人と回る人もいれば、それぞれ別の人と回る人もいるだろう。

 ちなみに最も盛り上がるのは最終日である3日目だ。

 

 学園で浮いている自分と一緒にいるところを見られることでマリーに何かしらの被害が出ないか。そう考えるとシアンとしては若干不安でもあった。


(まぁ、あっちから誘ってくれたんだし、そこまで考える必要もないか)


 そこまで考えて、シアンは誘いに乗ることを決める。


「……いいよ。俺は多分どの日も空いてるから、そっちの都合のいい日にしてくれ」

 

 そうでなくても今年の収穫祭は1人でも少し見て回ってみようと思っていたのだ。

 

「いいんですか!? 興味なさそうだったし断られると思ってました」


 意外そうな声を上げるマリー。


「いや、興味はあるぞ。去年はよく分かってなかったし、一緒に回る相手がいないなら別にいいかと思ってただけだ」


 シアンは基本的に1人でいるのが嫌いではない。しかし、収穫祭という皆が盛り上がり、ほとんどが誰かと一緒に回っている中、1人でいることに若干の寂しさを感じることもある。

 誰かと一緒に回れるのならそれに越したことはない。


「じゃあ、都合がいい日が分かったらまた連絡しますね」


 そうこうしているうちに訓練場の片付けも終わった。


「じゃあ、今日は帰るか」


「そうですね。今日はありがとうございました」

 

 そう言ってマリーは軽く頭を下げる。

 かなりフランクな感じではあったが、一応感謝はしていたらしい。


「いいよ。じゃあお疲れ」


「はい、お疲れ様でーす」


 2人とも学園の設備である寮に住んでいる。しかし寮は男子用と女子用で分かれており、場所もかなり離れている。ここからだとちょうど反対方向だ。


 軽く挨拶をしてから2人はそれぞれの寮に向かう。






(結構遅くなったな)

 

 シアンは暗くなった校舎を一人で歩いていた。男子用の寮に帰るには、校舎内を突っ切るのが一番早いからだ。

 昼間は学生であふれ、明るい雰囲気の校舎も夜になると若干不気味な雰囲気となる。

 音もコツコツという自分の足音しか聞こえない。

 肝試しが成立しそうなほどだ。

 

 廊下の電気は夜のこの時間はつかないため、魔法で生み出した小さな光で足元を照らしながら進んでいく。



「もう諦めろよ。戦えない貴族の女なんて政治の道具でしかないだろ」


「ふざけないでください!!」


 しかし、しばらく歩いていると男と女の口論が聞こえてきた。

 

(なんだ?)


 シアンは普段他人の喧嘩や口論など見て見ぬふりをする。しかし、夜中の校舎での口論という普通ではないシチュエーションに今回ばかりは若干の興味をそそられてしまう。


 足音を小さくしながら、声の方へと向かっていく。

 どうやら近くの教室内で口論になっているようだ。シアンと同じく魔法で生み出した光が教室の窓から漏れている。


「もうお前は終わったんだよ。諦めて俺の言うことを聞け!」


「終わってなんかいません! 私に何をしたのかを教えなさい!!」


 そうしている間にも、2人の口論の激しさは増していく。


 向かっている途中でシアンは、女子側の声がミーナであることに気づいた。最近模擬戦をしたばかりで印象に残っていたのだろう。

 

 教室が近くなってくる。口論の内容すべては聞き取れないが、声のトーンからしてだんだんとヒートアップしているようだ。


 シアンはその教室の前にたどり着いた。

 そして、2人に見つからないように中を確認する。ミーナと口論になっているのはシアンやミーナと同じく2年の男子生徒だった。

 

 その彼は学園ではそこまで目立つ人物ではなく、シアンも彼の名前を知らない。顔を何度か見たことがある程度だ。

 そこそこいいところの貴族の家柄で平民を見下すタイプの生徒だったため、シアンのような平民出身の特待生を見下している。


 シアンは直接的に嫌がらせの被害を受けたことはないが、あたりがきついのであまり印象はよろしくない。


「俺が何かしたって証拠はあるのか? そんなものないよな? 自分が戦えなくなったのを人のせいにしないでよ~」

 

 男はおどけた調子で言葉を返す。

 心底ミーナを馬鹿にしているという感じだ。


「ふざけないで!!」


 そんな態度の男に対して我慢の限界だったのだろう、ミーナは男に向かって勢いよく殴りかかった。


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