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5話

 少しするとシアンは竜巻の中から出てきた。シアンは出てくると魔法を解除し、ストームによって作られた竜巻は消滅する。


「どうだ?」


 シアンはマリーの方を向くと感想を求める。


「凄いですけど、凄すぎですよ! ストームって、魔法専門の卒業生でギリギリ使えるレベルの魔法ですよね!?」


 マリーもこの魔法のことは知っていた。ストームは風属性の魔法の中でも強力な魔法で、習得を目指す学生も多い。かなり有名な魔法だ。


「てか、なんでそんな余裕そうにしてるんですか、この魔法って難しいだけじゃなくて消費魔力もえげつないんじゃなかったですっけ?」


 規模が大きな魔法はそれだけ必要な魔力量も多い。ストームクラスの魔法になると、学生レベルでは発動できたとしても、そのあと息絶え絶えになる者がほとんどだ。


「俺は魔力量多いからな。ストームにしては小さめに展開したから余裕ある、本気で使うと俺でも結構魔力持っていかれるし」


「へぇー、あれで小さめなんですね。初めて生で見たんで知らなかったです」

 

 大規模な魔法を見る機会は少ない。特に1年生は基礎的な魔法の練習がほとんどのためマリーにとってはストームは知ってはいても見るのは初めての魔法だったのだろう。

 

「あぁ、あれくらいなら余裕もって発動できる人、学生にも何人かいると思うぞ」


 この魔法は難しいが、決して常識はずれなほどではない。


 風魔法が得意な学生が少し背伸びをして目標にする程度の現実的な魔法だ。

 実際卒業までに使えるようになる学生は毎年数人は出てきているし、学生ではないものの宮廷魔法使いやその他の優秀な魔法使いでも風属性が得意ならほとんどが習得していると考えていい。


「でも、先輩は風が得意属性じゃないですよね」


「まぁ、そこは才能ってことで」


 シアンの魔法の才能は10年に一度ともいわれるレベルだ。2年生の現在ですでに、学生のレベルを優に超えた魔法の腕前を持っている。


 卒業生でもこのレベルの生徒はごくまれにしか存在しない。

 そして、それらの生徒はほぼ例外なく、宮廷魔法使いになるなど魔法使いとして大成している。


 実力的にはシアンもそうなりそうなものだが、平民、それも孤児院出身という身分が邪魔をして

このままでは宮廷魔法使いになるのは厳しいと彼は考えている。


 それは、将来安定した職に就きたいシアンにとっては安心できる状況ではない。

 だからこそ、成果を出すために才能に胡坐をかかず、精力的に魔法に取り組んでいるため努力する天才となり、学生の中でとびぬけた実力を得るに至っている。

 

「うらやましいなー」


 ふてくされたように、顔をそむけるマリー。


 彼女はどちらかと言えば努力タイプだ。勿論、特待生としてこの学園に入学している以上十分才能ある生徒ではある。

 しかし、特待生に求められるのは普通に才能がある程度ではない。シアンを始めとして、常人離れした、他とは一線を画するほどの才能だ。


 マリーの才能はそれに比べると見劣りする。そこを努力によって補うことで、ぎりぎりで特待生として滑り込みで入学することができた程度だ。


 入学してしまえば特待生だけに厳しいことがあるわけではないため、普通に才能のある生徒としてやれているが、他の特待生と比べると才能という点では若干見劣りしてしまうだろう。


 その自覚のあるマリーからするとシアンの才能をうらやましく感じてしまう。


「でも、お前は剣術とかもちゃんとできるじゃん。俺は魔法以外はからっきしだからなぁ」


 しかし、逆に魔法特化で他がダメダメなシアンからしてみると、何でもそつなくこなすマリーをうらやましく感じることもある。


「まぁ、隣の芝は青いってやつなんですかね~」

 

 マリーはそう言うとシアンの魔法によって吹き飛ばされた的を片付けようと動き始める。


「それは置いといて、これからどうする? そのレベルなら焦ることはないと思うぞ」

 

 シアンも片づけを手伝いながら、マリーのこれからの方針を尋ねる。


 シアンの魔法が規格外すぎるだけで、マリーの魔法も十分合格点がもらえるレベルのものだ。急いで克服しないといけないという話でもない。


「せっかく来たんで、もうちょっと魔法の練習したいです。魔法の展開速度を早くしたいんですよね」

 

 マリーは遠距離で魔法を打つタイプではなく、近接戦闘をしながら魔法を使うタイプだ。そのため魔法を発動する速度は特に重要だ。

 

「なるほど確かに、むずい魔法覚えるよりもそっちの方が、お前にとっては有効かもな。じゃあこっからは反復練習か?」


 魔法の展開速度を上げるには、繰り返し練習が最も有効だ。


 そもそも魔法を発動するためには、魔法陣の構築と魔力を操作する技術が必要だ。そしてその作業はそれぞれの魔法によって違う。


 そのため、よく使う魔法を繰り返し、その作業になれることが魔法の展開速度を上げるには必要とされている。そうすることで、最終的に単純な魔法ならいちいち頭を使うことなく、反射的に発動できるようになる。


 魔力操作の訓練や多くの魔法を覚えることでも基礎能力が上昇し、魔法発動の速度を上げることはできる。しかし、特定の魔法を早く打てるようになるには、その魔法を反復し、体に覚えさせるのが手っ取り早い。

 魔法の練習の常識だ。


「そうですね。 戦闘で使い勝手のいい魔法のスピード上げたいんですけど、何の魔法がいいと思いますか?」


 1つの魔法を繰り返す以上、何の魔法を練習するかは大切だ。

 せっかく早く発動できるようになっても、その魔法の使い道がなければ練習時間が無駄になってしまう。


「そうだな……、スラッシュとかいいんじゃないか?」


 スラッシュは風属性の魔法でそこまで難易度は高くない。風の刃を作り出し相手に打ち出す魔法だ。

 単純な魔法のため威力や射程が特別凄い魔法ではない。しかし、使うのが簡単な割には攻撃力が高く、それなりに射程もあるため便利な魔法の1つだ。


 使う魔力の量も少なく、コスパのいい魔法として風属性が得意な魔法使いには好まれている。


「やっぱそうですかね、私もそれがいいと思ってました。ミロ先生にも練習するならスラッシュがいいって言われましたし」


 もともとマリーもそのつもりだったようだ。


「だろうな、あの魔法は優秀だから練習しといて損はないと思うよ」


「じゃあ練習するんで、見てて気になることがあったら教えてくださいね」


 そう言って、マリーは的に向かって魔法を放つ。

 案の定魔法自体はきちんと発動しているし的にも命中している。展開速度は速いわけではないが、1年生なら十分な速度だ。


 図書館では自信なさそうにしていたが、ただ単に目標が高すぎるのと謙遜していただけだとシアンは頭の中で納得する。


(長くなりそうだな)


 スラッシュは使う魔力量が少ない魔法だ。そしてマリーの魔力量は一般的に見れば多い。そのため、それなりの時間練習を続けることができる。

 

 シアンは長くなることを見越して、鞄に入れていた読みかけの本を開く。

 

 実際、小さな休憩をはさみながらとは言え、マリーが満足する頃には日は沈んでいた。


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