Anyone can't separate my soul from me except love of God
第7章 北方の若き獅子王 立つ
ここはスウェーデン王国首都、ストックホルムのガムラスタン地区のストックホルム宮殿の北棟にある控えの間。
フランス王国の外務大臣であるヒューゴー・グロチウスがリトアニア=ポーランド王国に行き、ジグムント3世やスタニスワフ・コニェツポルスキにフランス王国軍やスウェーデン王国軍のその軍隊の「通行許可」を得る為に、一定の通行料を払い、そして、その件を自らが外交官として活躍した経験もあるスウェーデン王国に報告をしようとしていた。
グロチウスが現スウェーデン王国君主であるグスタフ・アドルフに今まさに謁見しようとしていた。
グロチウスが1回、拝跪してからグスタフ・アドルフに報告する。
「国王陛下、どうやら、スウェーデン王国軍と我がフランス王国軍は無事にリトアニア=ポーランド共和国とロシア帝国の国境側に着いたそうです」
「・・・・・・・・・・・」
玉座に座る金髪・碧眼の若き王はそのグロチウスの報告に何か不満そうであった。
この時、謁見の間にはグスタフの妃、マリア・エレオノーラ・フォン・ブランデンブルク、そのスウェーデン王国の将校であるグスタフ・ホルン、レンナート・トルステンソン、ヨハン・バネールなどがいたが、宰相のアクセル・オクセンシェルナは今まさにリトアニア=ポーランド共和国に出兵していたのだ。
実は、このスウェーデン王国の君主であるグスタフ・アドルフはアクセル・エリクソンとして、エレクトリックダンスミュージックのDJもやっていたが、そのグスタフがその音楽に関心を示したのは、3歳年上の宰相アクセル・オクセンシェルナの影響があったからである。
そのオクセンシェルナとグスタフ・アドルフの2人の血は通っていないが、実の兄弟以上に刎頸の交わりを交わすほどの仲だった。
その2人の性格の対称性として、グスタフ・アドルフはかつて古代ローマの都市ポンペイを埋没させたヴェスヴィオ火山の溶岩のような熱き激しさを持ち、オクセンシェルナの方はスカンジナビア半島のフィヨルドを作らせた氷河のように冷徹であった。
エレオノーラが夫であるグスタフ・アドルフに訊いた。
「どうしたの?あなた、何か不満でもあるの?」
「俺は1か月前にドイツのバイエルン州でフランス王国軍の将校であるアゼリア・ラ・トゥールモンドに戦術を教えた時は、あの小生意気なミネルヴァ・フォン・イシュタールは孤立無援になるものばかりと思っていた、だが・・・」
グスタフ・アドルフは右の拳を握り絞めた。
「ロシア帝国軍のヴァレリー・エル・ルシードという男がそのイシュタールの援軍として参戦すると聞いた。この戦いにロシア帝国が参戦すれば厄介なことになる」
ホルンがグスタフ・アドルフに頷いた。このホルンは妻であるヨハンナとの間に一男一女がいたが、長女の出産の合間に自分は神聖ローマ帝国に出征中であったので、その妻の出産には立ち会わない程、スウェーデン王国とグスタフに厚い忠誠心を持っていた。
次にグスタフ・アドルフは周りの者の背筋が寒くさせるようなことを言った。
「俺はサディストはないが、今度イシュタールにあったら、生きたまま歯を抜くか、その生爪をはいでやりたい気分だぜ」
ここは一つ、落ち着けと言わんばかりにグロチウスが助言を入れた。
「まあまあ国王陛下、ここは一つ、落ち着きを取り戻して下さい。して、我らの今後の行動や如何にしますか?」
グスタフ・アドルフがここで「作戦変更」の指令を皆に出した。
「いいか、皆の者、俺はかつてトゥールモンドという女に「我々のしてやることはここまでだ」と言った。しかし、ロシア帝国軍がこの戦いに加わるというなら、こちらにも考えがあることを思い知らせてやるんだ」
そして、グスタフ・アドルフはホルンとトルステンソンの2人に声を掛けた。
「ホルン、トルステンソン、卿らはあのトゥールモンドという女と面識がある、今度の相手はイシュタールとそれに味方するロシア帝国軍をあの女と共に撃滅することだ。すぐに出兵の用意を」
ホルンとトルステンソンは右腕を左胸に当てて言った。
「はっ、かしこまりました、国王陛下」
「かしこまりました、国王陛下、それでは、あのオクセンシェルナ様の率いる軍と合流するのですね?」
グスタフ・アドルフは首を振った。
「いや、オクセンシェルナにはこのスウェーデンに戻ってきてもらい、パネールと共にこの国を守ってもらうつもりだ」
そして、最後、グスタフ・アドルフはその蒼氷色の双眸をグロチウスにむけた。その目つきはライオンが得物を得ようとする時のそれに似ていた。
「グロチウス、卿に伝えておきたいことがある」
「はい、何でしょう?」
欧州一の平和学者と呼ばれるグロチウスもこのグスタフ・アドルフの覇気にタジタジであった。
「そちらのフランス王国軍に所属するゲアーハルト・クロヴィス・セザールは何でも、ルイ13世と不仲らしいな・・・」
「はい・・・、陛下がどこでその情報を手に入れたか知りませんが、それが何か?」
「俺としては、フランス王国の君主がルイであろうとセザールであろうと関係がない。そして、スペインやロシアにも言えることだが、この戦いで勝つのは我らスウェーデン王国だ、そのこと、きっちりフランス王国の奴らに伝えろ」
「は、はい、わかりました」
ここで、暫く沈黙していたエレオノーラが夫の方を向いた。
「あなた、今度の戦いには私も参加していい?」
グスタフ・アドルフは頷いた。
「ああ、いいよ。ただ、俺たち夫婦であることはトゥールモンドには伏せておこう」
そして、最後、グスタフ・アドルフはグロチウスの盟友にもこう伝えろと言った。
「卿の盟友、フランス王国の宰相リシュリューは何でもSTAP細胞問題や男女産み分けに関心があるような素振りをしているな、だが・・・」
「だが、一体何でしょう?国王陛下」
グロチウスの額には冷汗が流れていた。
「今はこの欧州の覇権を賭けた戦いの最中、あまり余計なことに気を取られていると、我がスウェーデンはフランスとの同盟を見直せねばならなくなると、そのように伝えておけ」
「わかりました、国王陛下」
「それから・・・」
「それから、何でしょうか?国王陛下?」
グロチウスの疑問の声にグスタフが答える。
「今、神聖ローマ帝国のザクセン州で新型コロナウイルスの感染者が激増している、この戦いが長引けば我ら軍の兵士たちにもそれが感染する恐れがある、だから、今回の戦いは短期決戦で行くつもりだ」
「はい、わかりました、国王陛下、私が帰りましたら早速、リシュリューに伝えておきます」
グロチウスは今回スウェーデン王室と会談した要旨を書類にまとめ、それを鞄に入れ、一礼してこの謁見の間から踵を返そうとした直後・・・、
「ちょっと待て、グロチウス外相」
「はい、何でしょうか?国王陛下」
「卿がスウェーデンに来たついでに訊きたいことがある、卿の趣味は何だ?」
グロチウスが呆気に取られた感じでグスタフの質問に答えた。
「私の趣味ですか?私の趣味はチェスとか、マニアックなクイズ番組の答えを考えることですが・・・」
グスタフ・アドルフがそれに頷くと、グロチウスをこのように誘導した。
「俺の趣味はEDMだ。付いて来い、俺のプライベートルームに案内してやる」
「は、はぁ・・・」
そう言って、グスタフ・アドルフはグロチウスを自分のプライベートルームに案内した。
その部屋にはピアノやエレクトリックギターもあったが、特に目立ったのは、電子音を出すシンセサイザーの数々であった。
「どれ、一曲、弾いてやろう」
グスタフ・アドルフは帽子の鍔を逆にして被り、ジパング製のシンセサイザーを操り、見事に電子音を奏でた。
それを聞いたグロチウスはグスタフに拍手した。
「素晴らしいです。私は国王陛下が軍事的なことばかりに目が行っているとばかり思ったのですが、人は見かけによりませんね」
ヘッドホンを取ったグスタフがグロチウスに言う。
「この欧州が戦乱の状況じゃなければ、このEDMで世界ツアーでもするのだがな・・・」
グスタフ・アドルフが一息ついてグロチウスに言った。
「だが、現実にはそうはいかん。数日後にはホルンやトルステンソン、そして、エレオローナと共にドイツのテューリンゲン州に向かう」
「そうですか、国王陛下もお忙しことです」
グロチウスが額の汗を拭った。
しかし、この時・・・、
「リィィィィィン」
グスタフのプライベートルームの電話が鳴った。
「もしもし、俺だ、グスタフ・アドルフだ」
「はい、フランス王国宰相のリシュリューです。今日は国王陛下に一大事を伝えに連絡をしました」
「何だ?一大事とは?」
「国王陛下もある程度ご存知でしょうが、実は私のリセの後輩にあたる男がロシア帝国軍を率いて神聖ローマ帝国に向かってくるのです」
「もうその話は聞いている」
グスタフ・アドルフは受話器を取りながら頷いた。
「それが、私の後輩にあたるルシードが率いる軍の数は何と8万という大軍で、テューリンゲン州にいるイシュタールの率いる軍と合計すると、その数は10万になるのです」
「何?8万の大軍をルシードという男は率いてくるのか?」
「はい、わが軍の密偵によるとその様で有ります。いかがなされますか?国王陛下?」
「・・・わかった、こちらからは俺がホルンやトルステンソンと共に2万5千を率いることにする、そっちのフランス王国軍の方はどうなんだ?」
「はっ、トゥールモンドが率いている兵の数は2万強です、ですから、こちらも予定を変更して、私とセザールで兵1万を増派したいと思います」
「それでも、合計すれば5万5千だが・・・」
「はい、後は、トゥールモンドの副官のパトリック・ド・ヴェリエがカトリック軍との共同戦線の交渉をしています。カトリック軍の兵数は4万か5万程でしょうから、これで、イシュタールの軍とロシア帝国軍に対抗できると思います」
「わかった、詳細な報告を感謝する」
「いえいえ、私も国王陛下のご武運長久を祈っています」
グスタフ・アドルフがリシュリューとの電話を切った後、グロチウスがその電話が誰からか訊いてきた。
「今の電話は誰ですかな?」
「卿の盟友、リシュリューからだ、なんでも、ロシアから8万の大軍がやってくるという事だ・・・」
「はあ・・・、それは一大事ですな・・・」
グロチウスは去年、せっかく「戦争と平和の法」を書き著した努力が無駄になるのでは?と危惧した。
ここで、グスタフ・アドルフは話題を変えた。
「ところで、もう季節は夏を過ぎたが、俺はこのスウェーデンに生まれたが、温かいところが好きなんだ。この戦いが終わったならば、南フランスのコートダジュールでEDMのコンサートでもやりたいぜ」
それに対しグロチウスが頷く。
「ホントにそうですね。早くこの戦争が終わることを祈ります」
高緯度に面するスウェーデンは夏が終わると、長い夜が待っていた。




