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 脳内が大混乱のまま、夕食を迎えた。

 何もする気が起きず、ぼうっとしたまま、むしゃむしゃと夕食を食べる。我ながらゾンビのような動き……。

 そんな私を心配して、両親が声をかける。

「どうしたんだい? シンシア……具合が悪いのかい?」

「シンシアちゃん、大丈夫……?」

「うん……」

 混乱しすぎて返事しかできない。

 それを見ていたアレクシスが

「ねーね、けっこんするのー」

と言った。

 ぶふぅっっ!!

 食べていたスープを吹き出し、盛大にむせる私。

 そうだ、アレクシスだってあの場にいたんだった……。

「けっ……結婚……!? 誰と!?」

 お父様が慌てる。

「えっもしかしてレイモンドちゃん!?」

 お母様が言う。お母様はもうレイモンド様のことはちゃん付けだ。娘のお友達だからだそうだ。

「で……殿下と……っ!?」

 お父様は驚きすぎて口をパクパクしている。

「ち……ちがう!? ……いや、違わないのか……? あのっ私も混乱してて!!」

 真っ赤になりながら、私は説明をする。

 今日結婚してくれないかと言われたことを言った。

「きゃーーーっ! 素敵!」

 お母様が手をパタパタさせて喜んでいる。

「えええ……」

 お父様はショックすぎて悲壮な顔をしている。

「……いや、さすがに私まだ六才だし……」

「ええ? 貴族だとなんでもありなのよ。齢は関係ないわ! 婚約しておいて結婚は先って話はいくらでもあるわよ!」

 お母様が興奮して言う。人の恋バナが大好きな人だからめちゃくちゃ楽しそう……。

「でもお父様は……さびしいよ……あっという間にお嫁に行くなんて……」

 お父様は悲しそうに言う。そりゃそうだ、六才だし。

「いや、お受けするとは言っていないし……、何かの間違いかもしれないし……、次来た時には忘れてるかも……」

 淡い期待を込めて言ってみる。

「いいえ、そんなことないわ! レイモンドちゃんは誠実な子よ!」

 お母様に即否定される。

 ……そうですよね……、言ってみただけです……

「……それに……私……」

 それに私?

 自分の言葉にハタとする。

 それに私?はなんだろう……?

 頭を前世の家族のことがよぎった。

 そうだ、それに私、もう結婚してるし。子どももいるし。

 ……ん? そうか、ちょっとびっくりな展開にあせってしまったけど、そんなあせることなかった。そうだそうだ、結婚してるんだから他の人と結婚できないじゃないか。

「そう、私には夫と子どもがいるから……」

 ぼそりとつぶやく。

 すると両親は顔を見合わせて、難しい顔をした。

 そして私の顔を見て話し始めた。

「……シンシア。僕たちはね、君が生まれたときに魔法でぷかぷか空を飛んだ時は、本当にびっくりしてね」

「……はい」

 それは驚くだろう。……大変だったでしょうね……申し訳ない。

「それで魔力持ちだと分かったときに、お母様とたくさん話し合って決めたんだ。君にもう普通は求めないと」

「さらに前世の記憶が目覚めちゃったときには、またおもしろいことになったねって、お父様と笑ったのよ」

 お母様がうふふと楽しそうに笑う。

「……」

 その節は……本当にお騒がせしました……

 お父様は優しく微笑む。

「期待していないわけじゃないよ。幸せになってほしいと思う。

でも、それがどんな形でもいいと思っている。どこかに嫁いでもいい、嫁がなくてもいい。何か事業をしてもいい、何もしなくてもいい。

君が君らしく生きられれば、それでいいじゃないかってね」

「お父様……」

 父の想いを聞いて、胸が締め付けられる。

 すごく自由にさせてくれるとは日頃感じていた。でも、そこまで思ってくれているとは……。

「だからね、僕らはレイモンド殿下と結婚しても、結婚しなくてもどっちでもシンシアのことを応援するから。……君の心のままに決めなさい」

 お父様はそう言った。



 自室に戻って考える。

 ……結婚? 思いもよらなかった難題だった。

 だってまだ六才だ。時代が時代なら幼稚園児だよ。考えられるわけがない。

 ……でも、それでいいのだろうか? 私は精神年齢二十九歳+六才=三十五歳だ。

 たぶん、レイモンド様は彼なりに真剣だった。だから私だって真剣に答えてあげなくてはならないと思う。

 前世に夫も子どももいる。でもそれは前世のことだ。今生じゃない。

 これから先も、私はそれを理由に結婚しないのだろうか?

 ……正直わからない。

 もう、前世の家族の顔すらも思い出すのが怪しい。今生に生まれてからもう六年たっている。写真だってない。

 でも……生活の端々で思い出すことがある。

 アレクシスを見て子どもたちのことを思い出す。食べ物を食べて思い出す。景色をみて思い出す。

 お父様の優しさは前世の夫、和也さんに似ていて思い出す。(お父様のようなひげダンディーではなかったけれど)

 お父様にいってらっしゃいを言うときだって、その背中を見て思い出す。

 お父様の大きな手でなでてもらっているときだって、なつかしく思う時があった。

 私は……忘れられない。

 もう会えないけれど、忘れられるわけがなかった。

 私の大切な家族たちだった。

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