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 それから、私は子ども部屋での時間は減った。もう立派なレディーだからということで、三食を家族と食べる。ずっと一緒に食べたかったと打ち明けると、両親は喜んでくれた。

 家族の時間がぐっと増えたことで会話も増えた。そしてなんでもヘンリーに相談できるようになった。

 勉強はそのまま続けている。

 前世の目覚めから割とスムーズに、家族とヘンリーにカミングアウトできたのは全く幸運なことだった。

 抱えるものがないことで、こんなにも気持ちは晴れやかだ。

 食事には野菜が増え、晴れた日はお母様とお散歩を楽しむ。だいたいの私の要望は通った。もうアヘンシロップも禁止された。

 そして半年後、私に弟ができて私はお姉ちゃんになった。

 弟はアレクシスという名前になった。

 魔力は持っていないらしく宙に浮いたりはしない。素晴らしい。魔力は血筋ではなく本当に偶然授かるものらしい。

 私は毎日隙あらばアレクシスをかまう。だっこもする。泣けば率先してあやす。

 ぷにぷにのほっぺ、おまんじゅうのような手足、輪ゴムをはめたような手首、ぷりぷりのおしり……、ああ赤ちゃんてかわいい。泣き声までかわいい。たくさん泣いて肺を発達させるのだよ……。

 久しぶりの赤子を私は思う存分堪能する。

 前世の自分の子どもの時はかなり精いっぱいで、できないうちに時期が終わってしまった原始反射も試してみる。

 足をこちょこちょすると足の指がまがる。バビンスキー反射だ。その他の反射反応も、うろおぼえのものから調べなおしたものまで試して悦に入る。

 この時代の育児情報もチェックしまくった。前世の記憶から絶対だめなものは全部紙に「禁止」と書いて壁に貼った。このかわいいアレクシスに、もしものことがあったら大変だ。

 お母様は乳母は使わず自分で育てると言って、そうしている。私が前世でそうしたと話したら、自分もやりたいと言った。

 私もメイドたちもそれを支えている。

 私はアレクシスを見ながら、前世の自分を思う。

 私の子どもたちは元気だろうか? 私の産んだ赤ちゃんはちゃんと育っただろうか?

 ……会いたい。一目だけでも。たとえ私はもう一緒に生きられないとしても……。



 ところで、勉強していてこの世界について少しずつ分かってきた。

 ここはアルヴァ王国、大陸の西に位置する島国だ。イギリスと地形も歴史も似ているが、少しずつ色々なことがズレている。

 例えば地名、首都はロンドンではなくロームシティだ。そもそもイギリスに特別詳しいわけでもないので細かくはたくさんあるのだろうけれどわからない。

 ヤポンはやはり日本のことのようだが、やはりそっくりそのままでもないようだ。

 つまり単純に過去に戻るタイムスリップではなく、ちょっとズレた二十世紀初頭風異世界に転生したということなのだろうか。謎はまだ謎のままだ。

 ちなみにこういった考察もヘンリーと共有している。というかもう私はヘンリーとは呼ばずヘンリー先生と呼んでいる。私の恩人であり大切な導き手だ。

 荒唐無稽な話でも分かち合える相手がいるってすばらしい。

 ヘンリー先生は見た目は怖そうで淡泊だがその実とても知りたがりだった。

 私が言うアレコレを実に真剣に調べてくれ、必要があればお父様に言うように助言してくれる。

 私が風邪をひいたとき、また善意で一服盛られそうになった水銀製剤をすんでのところで止めてくれたのも彼だ。まさに命の恩人だ。

 また、勉強についてもよく見てくれた。

 そして私はあまり宙を浮くことがなくなった。またおかしなものを飲まされたら嫌だというのもあるが、無意識にできた魔法だったのに意識するとできなくなったのだ。

 使おうとすると天井に猛スピードでぶちあたったり、窓からでていきそうになったりととにかく危ない。

 コントロールがまったく利かないのだ。自意識が目覚めた弊害なのだろうか。

 ヘンリー先生はしばらくは使わないように、時が来たらコントロールの訓練をしようと言ってくれた。

 ここまで生き延びたのに、まさか激突死や転落死はしたくない。

 私は従うことにした。

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