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家族の時間になり、私は一階の大広間に連れていかれる。

お父様とお母様がアームチェアに座ってくつろいでいる。

「シンシア! おいで!」

お父様に声をかけられて、私はお父様に抱っこされる。

お父様はこげ茶色の髪に青い瞳、口元に髭のあるハンサムな人だ。

「どうしたんだい? 今日は元気がないね」

「……うん……」

「もう眠いのかしら?」

お母様が心配そうに私の顔を覗き込む。

お母様は私と同じ亜麻色のふんわりした髪をしている。心配そうに水色の瞳がこちらを見ている。

「……ねむくない……」

この人たちなら私の話を聞いてくれるだろうか?

でもなんて言えばいいのだろう。前世の記憶がある?あの鎮静剤は毒だからやめてくれ?

いきなり言っても信じてもらえないだろう。さっきのヘンリーのような冷たい眼を向けられるのだろうか?

でも時間がたてば解決されるのだろうか?その間私は生きられるのだろうか?

ぐるぐると考えていると、今度はお母様がだっこしてくれた。

「あのね、シンシアにとってもいいお知らせがあるの」

お母様はニコニコしている。とても機嫌がいい。

「? なあに?」

「実はね、お母様今おなかの中に赤ちゃんがいるの」

突然の告白に私はびっくりして固まってしまう。

「シンシアはお姉ちゃんになるんだぞ」

お父様もうれしそうに言う。

「そ……そうなんだあ……」

「うふふ、びっくりしちゃったかしらね。まあ生まれるのはもっと先なのだけどね」

「男の子かな?女の子かな?楽しみだね」

二人は待ち遠しいといった様子で会話をしている。

私は不安になった。

赤ちゃんが生まれて私はお姉ちゃんになるらしい。それはいい。うれしい。

でも、と今日の出来事を思い出す。

きっとこの家にいると、生まれてきた赤ちゃんは同じことをされるのだ。

良かれと思った古くて悪い慣習を行うのだろう。

前世の事を思い出す。

一世代前のお母さんの育児ですら情報は古いものになっていた。

抱き癖とか、ふろ上がりに果汁を飲ませるとか、離乳食の時期だって違っていた。

歩行器とかおしゃぶりとかもいらなかったし、ワクチン接種だって変わっていた。ロタワクチンの接種は情報不足で長女の時は間に合わなかった。

靴下だってすぐ脱いじゃうのに、履かせないと寒そうでかわいそうかわいそう言われるし……

色々と記憶が蘇ってきたけれど、今はそういう話じゃなかった。

生まれてくる赤ちゃんのことだ。無事に生まれて無事に育つだろうか?

昔は七つまでは神の子と言われるほど乳児死亡率は高かったと聞く。

……心配すぎる。

そしてこの心配はきっと誰にも共有されないものだ。

私がなんとかしなくては。

私はこっそりと一人決意を固めた。



次の日、私はメイドに頼んで読み書きの練習を始めた。

突然のことでメイドは驚いたが、やる気があるのはいいことだと言って教えてくれた。

大体英語と同じだった。でも、そもそも英語は学生時代しか使ってこなかった私にとって辞書もなしの勉強は正直辛い。

でも読み書きができないことには本が読めない。情報を集められない。やるしかない。

まずは絵本を教材に読んで書いてを繰り返す。

勉強の合間に私はキッチンに行った。

基本的なこの時代の生活様式を知らなくてはならない。

前世がただの主婦であり、何の専門家でもない私にはわからないかもしれないけれど、わかることは何とかしたかった。

キッチンメイドたちは私に優しかった。こっそりおやつもくれた。

食生活はパンを中心としていて、肉が多く野菜は少なかった。

そしてお母様は外にあまり出ない。

……ビタミンや葉酸が心配だ。

母体の健康は胎児の発育に直結する。

野菜たっぷりの食事と外での日光を浴びての散歩をさせたい。

とはいえ私が口を出してもどうにもできないし……なんとか協力者をつくるしかないけど……こんな話信じてもらえる人なんていないし……

思い悩みながら私は読み書きの練習を続けた。



毎日お勉強をしていると、お父様がほめてくれた。

「シンシアはお利口だね、もうお勉強をしているの?」

「うん、わたしおねえちゃんになるんだもの」

お父様にいつものようにだっこされながら、私はニコニコして言った。

本当だ。弟妹を守らなければならない。

「そうかそうか、えらいなあ」

お父様は微笑んで頭をなでてくれる。

「ねえ、おかあさま、赤ちゃんのためにおかあさまはなにに気をつけているの?」

今生の妊娠・育児情報をねだる。

「うふふ、お母様はね赤ちゃんのためにあまり体を動かさないようにして、赤ちゃんの栄養になるようにたくさんご飯を食べているのよ」

おおう……、食べすぎも良くないし適度な運動も大切なんだよ!

「そ……そうなんだあ……」

私は笑顔を作って応じる。

「ええ。シンシアはもう小さなお母さんになる準備をしているのかしら?」

冗談めかしてお母様が尋ねる。

「うん、そうなの。わたし赤ちゃんのおかあさまになるわ」

子どもらしいませたことを私は言う。

こう言っておけば後々の役に立ちそうだ。

「まあ、楽しみね」

家族三人で笑い合った。

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