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 それから少しまた遊んで、門扉の修理とその他に頼んでいた修繕が終わり、デイジーちゃんたちは一緒に帰っていった。

 私が今日のたまっていた分の勉強をしていると、ヘンリー先生がやってきた。

「昨日の続きをしましょう」

「……う……」

 昨日の失敗?が頭をよぎり及び腰になる。

 そんな私を見て、ヘンリー先生はため息をつく。

「……したくないならいいです。でも、今のうちに魔力のコントロールはできるようになった方がいいと思います」

 まあそのとおりなんだけど……こう……モチベーションというものがありまして……

 そうモジモジしていると、

「私がお付き合いできるのも、あと三か月ですから」

 ヘンリー先生が衝撃発言をした。

「!?どういうことですか?」

 私はヘンリー先生に詰め寄る。看過できない発言だ。

「どうもこうもありません。私は八月いっぱいでお屋敷は辞めさせていただきます。すでに旦那様にもお話してあります」

「そんな……」

 ずっといると思っていたのに……。

「ですから、今私ができる限りの練習を今させていただいているのです。……魔法が使えない私にはこれくらいしかお付き合いできません。

でも、同じ魔法使いの方々にはお嬢様をお任せすることはできないと私や旦那様は考えているのです」

「?」

 考えてみれば、魔法が使える人から習った方がよさそうな気はするけれど、ヘンリー先生はそうしなかった。なんで?

「私は魔法というものやそれを使う人を今まで調べてきました。でも、かなりアンダーグラウンドな世界で、お嬢様をそちらにお連れすると教育上良くないと感じます。

魔法・魔術には闇の面や汚い部分もありそちらに傾倒する人も多くいます。動物や人の命を扱う一線を越える方もいます。

そちらに染まってしまえば、もう二度と明るい世界には戻れないでしょう。そんなことにはなってほしくないのです」

「……なるほど……」

 そんな怖いのは私も嫌だ。

「それと、いなくなる前に気がかりを全てなくしておきたいので言いますが、魔法の中に『時空旅行』というものがあります」

「?」

 聞いたことのない単語だった。

「この世界は見えている世界以外にもいくつもある、という視点での魔法ですね。魂だけであちらの世界、こちらの世界に飛ぶことができるそうです。

つまり、あなたがずっと気にしている前世の世界にも行く術があるということです」

「!?」

 頭をぶたれたくらいの衝撃を受けた。

 ……会える……?戻れる……?あの世界に……

 子どもと夫の顔がぼんやりと思い浮かんだ。

「もちろん、行ったきりではなくちゃんと戻ってこれたという話です。旅行と名がつきますからね。

ただし、戻ってこれなかった人もいる。

……別に私は行けとも行くなとも言いませんが、手段があるというのはお伝えするべきと思いました。……この先変な輩に騙されないように」

 突然の話に動悸がしてきて、頭がぼうっとする。

「どうやるの……?」

 上滑りした思考のまま尋ねる。すぐにでもやってみたかった。

「それは今はお教えできません。」

 ヘンリー先生は頭を振った。

「今のお嬢様の魔法のノーコンぶりを見るに、できないと思いますし、できても帰ってこれないと思います。

ですから、まずは魔法のコントロールの練習をしましょう。

使う使わないは別として、これからの人生で魔法を暴走させるリスクを減らしておくことは良いことです」

 現実的なことを言われてハッとする。そうだ、今のままではそんなすごい魔法が使えそうもない。

「三か月でできるかな……?」

「いや、無理でしょう。私がいなくなってもこの先続けるのです。いなくなるまでに学ぶ道はいくつか残しておきますから、お励みください」

 私は迷子になったような気持ちでヘンリー先生を見る。

 急に突き放されたように感じた。だって、ヘンリー先生はいつでも私のそばにいてくれた。

「いつまでも誰かを頼れるわけではないのですよ」

 あっさりと言われて私はうつむく。

 ……先生の言うとおりだ。むしろ先生は優しい。事前に言ってくれているし、いなくなる前にできることをしてくれようとしている。

 私は黙って水晶玉を目の前に置く。

 そうなれば時間は惜しかった。

「あの、門扉が壊れてしまったのは私のせいですか?」

 一応聞いてみる。

「さあ。タイミングはよかったですね。古いものだから壊れることぐらいあるでしょう」

 先生は何でもないことのように言った。

「それに、失敗なら今のうちにこの屋敷の中だけで済むうちに存分にしていた方がいいですよ。何の練習もなしに外で大失敗なんて目も当てられません」

 う……まあ、そういう考え方なのか。確かに先生は失敗を咎めなかった。

「わかりました。……がんばります」

 私は昨日と同じように水晶玉に手をかざす。

「……庭をうつせ」

 水晶玉が光を放ち庭の風景を映し出す。……今度はどこも壊れなかった。

 そのままぐるっと屋敷の周りをうつしだし、元の場所にもどってきて手をかざすのをやめる。

「……ぷはっ……」

 息をつく。というかコントロールに集中して今まで息ができていなかった。

「上出来です」

 お褒めの言葉をいただく。

 はー、疲れた……でも、良かった。

「毎日やりましょう」

 ヘンリー先生との残りの日々を大切に過ごそうと私は思った。


 三か月後、ヘンリー先生は宣言通り屋敷を辞めた。

 これからは全国を転々とする生活をするそうだ。

 とはいえ、住まいはウィステリア家の領地内にあり、たまには帰ってこれるかもしれないということだった。

 何かあれば手紙は読んでくれるらしい。先生の優しさを感じる。

 私はヘンリー先生の残した宿題のノートをもらった。

 魔法について色々と私の課題について書いてくれている。

 あとは自分でがんばれとのことだ。

 結局、時空旅行のことはまだ教えてはくれなかった。もっと上達してからだそうだ。

 そして、最後に学校に行くことを勧められた。

 『お前は馬鹿だから学校に行くべきだ』と言われた時の衝撃。

 もうお屋敷は辞めたから敬語は使わないそうだ。先生の素はこっちにあったのか、と驚いた。

 私は入試に向けて試験勉強を始める。


 目指すはバーン学園高等部。


シンシア視点版(幼少期~入学前)完結です。

学園入学~完結までは,主に学園で出会う後輩目線での話になります。

「運が減ると噂の占い師に無理やり占われたら学園生活が充実しました」の方に投稿済みです。

最後にちょっとレイモンド視点での後日談/ただのイチャラブが入ります。


こちらの方では,後は閑話一話とレイモンド視点の話を二つ載せておしまいです。

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