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引きこもり聖女は闇魔法を極める  作者: 山本エヌ
第1章 闇魔法との出逢い編
8/88

8 この手に闇魔法を(1)

「なるほど、そういうことね……」


 予想に反して、エリシアの反応は非常に淡白なものだった。

 クロエとしては、もっと驚かれたり、ひいては叱られることも覚悟していたというのに。

 

「あれ? それで終わり……?」


「終わりって、何が?」


「ほら、怒ったりしないの? 闇魔法って禁忌の術なんだよ……?」


「それは昔の話でしょ? 使い手がいなくなった今では、とっくに廃れた法よ」


「でも、現にボクは使えるんだけど」


「……それが一番の謎よね。原因はやっぱりアレ(・・)かしら……」


 エリシアの脳裏に浮かんでいるのは、以前この場所で見た怪しい本だ。

 タイトルがない時点でまず怪しいし、何より邪悪なオーラが放たれていた。微量ではあるが。

 

「アレって……やっぱりアレ(・・)?」


「うん、アレ(・・)


 アレ、で通じ合うクロエとエリシア。それだけ二人の仲は深い。

 

「で、そのアレはどこにあるのかしら」


「ああ、それならね――」


「待って! やっぱり私に探させて」


 エリシアはそう言うと、なにもないテーブルの上を(まさぐ)り始めた。傍から見れば意味不明な行為、しかし意味はちゃんとあった。

 

「発生源は多分……ここ!」


 バンッ、とテーブルを強く叩くエリシア。するとその手の下に、怪しげな――クロエにとっては見慣れたアレ(・・)が現れた。

 そう、闇魔法の魔導書『гримойре(グリモワール)』である。例によってそのタイトルが見えているのはクロエだけだ。

 

 しかし、なぜその魔導書がなにもない所から急に現れたのか。

 そして、なぜエリシアにはその場所が分かったのか。

 答えはそこまで難しい話ではない。

 

「嘘!? 隠匿魔法をかけてたのに見破られちゃった!?」


 クロエは驚く。

 

「これも闇魔法なわけ?」


「うん、一応……けど、どうやって見破ったの?」


「邪悪な気配の元を辿っただけよ。本自体は隠せても、気配は隠しきれないみたいね。その闇魔法」


「あー……やっぱり分かる人には分かるんだね」


「そうね。敏感な人なら何となく違和感を覚えると思うわ」


「はぁ。別の隠し方を考えないと……」


「ところで、今使った闇魔法もその本に載ってたりするの?」


「うん、闇魔法なら大体載ってるんじゃないかな。ちなみにさっきの隠匿魔法はこのページに書いてるよ」


 魔導書を返してもらったクロエは、序盤の方のページを開いてエリシアに見せつける。

 が、邪悪な気配に人一倍敏感なエリシアは非常に嫌そうな顔をしていた。

 

「いや、あの、クロエ? 私にはあまり見せないでくれる?」


「あ、ごめんごめん」


「あとさ、さっきのページちらっと見えたんだけど、クロエはあの文字読めるの?」


 エリシアからすれば、魔導書に書かれている文字は何かの模様にしか見えていなかった。

 ではクロエはと言うと――、


「いやぁ、実を言うとボクも読めないんだよね」


 彼女にとっても同じだった。

 クロエ目線からでも文字というより模様、模様というより大量のミミズである。


「ええ!? じゃあ、どうやって内容を理解してるわけ!?」


「何となく……かな? 見てれば何となく、内容が勝手に頭の中に入ってくるんだよ」


「えぇ……。説明が説明になってないわ」


「けど、こうとしか言いようがないんだよ」


「うーん……それってつまり、クロエの闇魔法適性が高いってことかしら」


「どういうこと?」


「闇魔法って、闇魔法が(・・・・)使い手を選ぶらしいの。選ばれなかった人は、闇魔法に触れることすら適わないらしいわ。私みたいにね」


「なるほど、つまりボクには闇魔法の才能があるわけだね!」


「そういうことね。喜ぶべきことかは微妙だけど」


「いやいや、何かの才能があるだけでも嬉しいよ~」


 ほんわか顔としたり顔が入り混じった結果、すごくニヤついたように笑うクロエ。彼女にとって、才能の貴賤などは存在しなかった。


「あっ、ところでさ。あの子(ライナ)の目を治した魔法も載ってるの?」


 エリシアが尋ねる。

 

「もちろんあるよ。ほら、このページなんだけど……」


「あの、だから見せないでってば。私はクロエみたいに適性ないんだからさ」


「ごめん、つい……。じゃあ代わりに読み上げるね。中級拷問術、序列の四十四番――――」




「拷問……何度も痛めつけたい……やっぱり、闇魔法ってとんでもないわね」


 ひとしきりの説明を聞いたエリシアの顔からは血の気が引いていた。

 しかし、あの傍若無人なライナに一泡吹かせたことを考えると、胸の内がスカッとしたのも事実だ。

 なるほど、だからあんなに怯えていたのね。エリシアはようやく納得する。

 

「いやぁ、ライナっていう女の子には悪いことしちゃったなぁ」


「いいえ。謝る必要はないわ」


「え、なんで?」


「それは秘密」


「えー、教えてよ~」


「あら? 人間誰しも隠し事の一つや二つあるものでしょ?」


「うわ、ずるい!」

 

「とにかく。私以外の人には絶対闇魔法のことは教えちゃダメよ」


「あー……分かってるよ、うん」


 いきなり歯切れが悪くなるクロエ。

 どうしたの、とエリシアは訊いた。

 

「実は……エリィで二人目なんだ。えーと、その、ボクが闇魔法使えるって知ってるの」


「は……はァァ!? 私以外の誰かにもうバラしたの!?」


「バラしたっていうか、バレちゃったっていうか……」


「それ……まずいんじゃない?」



 話は、数時間前まで遡る――。

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