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たった一匹差だった。二人は互いに顔を見合わせる。負けた少年より、青年の方が気まずそうだった。
空は、白き雲の殻を破り、輝く黄身を山の端に落とそうとしている。夕方の横殴りの日の光の中、敦は鼻の頭を掻くのだった。
「敦兄さんって、すごかったんだね」
「それほどでもないさ。君の方こそ大したものだ……」
「僕は、地元だから……」
「それでも凄い。あの、十匹の差をつけられたときなんか、半分諦めたよ。この目で見て、信じられなかった」
二人はちょっと笑う。勝負の、網袋の魚をリリースする。黄金色の波紋が、湖面に広がった。魚たちが帰って行く。二人ともその光景に見とれ、声もなかった。
そのとき、沖の方で、ひときわ大きな波紋がゆるやかに広がった。しかし、この時の二人は、とうとう気づかずじまいだったのである。
カラスが鳴いた。ススムはヒメマスのクーラーボックスを肩に掛け、敦はヘッドランプをかぶった。
「そろそろ帰らないと道が危なくなる。歩きながら話そう」
「ねぇ、どうやってスゴ腕になったの」
「あはは。そりゃ、実戦だよ。経験を積んだのさ。いろんな所に行ってね。そうすると、初めての場所でも、なんとなく勘が働くようになる。海釣りはやったことあるか」
「ううん。父さんの都合がつかなくて……」
二人は帰り道を、話を弾ませながら歩いて行ったのだった。
この道中で、主について、ススムは自分が知ってることを、洗いざらい言葉にしたことは言うまでもない。




