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ススムはゆっくりと首を横に振る。本当に夢だったのかもしれない。
でも……だからこそ真なのだ。
この黒鷹湖に大魚が生息している!
なら、釣る。
自分の生きがいだった。
折りにふれて父は言う。
昔だったら、いや遙かな昔でなくていい、ほんの一昔、二昔前だったら、主と呼ばれる大物は、至る所におったのだ。
それが、スポーツとしての釣りブームの到来で、それこそ根こそぎ釣られてしまったのだ。
マナーのなってない人が多かった。見境なしに荒らしまくった上に、ゴミを捨てて行ったのだ。死んだ水鳥の胃袋から釣り針が出て来た、ということが多々あった。
昔だったら、釣り上げたものが主と思われたなら、たいていの場合リリースしたものだ。ゴミはきちんと持って帰ったものだ。そんな、自然を敬う慣習が、人々の間から消えてしまった。だから主はいない。いたらそれは夢なのだ。
そう、父は寂しく語り、口をつぐむ。
主をリリース。なぜそうしなきゃならないのか分からない。が、そうするものだと、そのときは漠然と思った。
釣り人だったらやっぱり一度は大物と格闘したい。ススムの正直なところだ。黒鷹の主は、そんなススムに与えられた大きな夢だった。
そんな思いのこもった魚に、明らかにそれに挑戦する装備で割って入って来た男が現れた。それも地元の人じゃない。よそ者がだ。
大いに気に揉む。あの男の人は、どこで主のことを知ったんだろう。これからどんどん、主目当てに、沢山の人がやって来るようになるんだろうか。
嫌だった。この湖が、そんな人たちに荒らされるのは、とても嫌だった。
いきなりロッドがしなった。我に返るのと合わせるのと同時だった。今の反応に自尊心がくすぐられ、心が明るくなる。これで五匹目だった。




