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 不気味なほど沈黙していた貞次郎が、ようやくに絞り出したのは、怒声だった。

「くそったれ!」

 敦が口元を引き締める。

「くそったれがあ!」

 肩で息している。

「なんだあれは! わしは、わしらは何を追いかけてたんだ? 作り物? 木の模型? ええ? おい! じ様もオドも、死んだ兄チャも、あんなオモチャ釣ろうとしてたんかよ!? そりゃ釣れるわけねぇやな! 生き物でねぇもの! 木像だもの! まきざっぽうだもの! 滑稽すぎる! バカ丸出し! わしら恥さらしの一族じゃねえが! くそったれ! なんてこった、なんてこったくそったれがぁ!」

 敦が厳しい顔で言葉を発する。

「親父さん。斉藤さん。どうか落ち着いて」

 貞次郎は喚いた。

「小林さん、残念だったなぁ! せっかくあれだけのことしたのに。せっかく黒鷹のアッピールポイントにしようとしてたのに。何のこたぁねェ。“木”だとよ! わしらが先祖代々釣り上げようと果敢に挑んで。あんたとイトウでもねぇ鯉でもねぇって話しして盛り上がって。一目だけでも見たいと思って、あんたが何十万もの金かけて。リモコン船上げて、濁流の中命張って歩いて、……! それがだ! ビデオちょいと一時間、大層な機械にかけて、分析の結果、木、でございます! 丸っきり、わしら、阿呆じゃねぇかよう! 違うか? ねえ、小林さん!」

「親父さん。親父さん。俺を、恨みますか。思わぬ正体を暴いてしまった、あなた方、皆さんの夢を砕いてしまった、俺を恨みますか」

「……」

 貞次郎、泣いていたのだった。


「宮腰先生、今夜はありがとうございました。恐らくですが、近いうちにまた、ご厄介になることと思います」

「いつでも歓迎する。……今後の進展を期待している」

 敦が挨拶して、宮腰が応じて。そうして学校を辞したのだった。

 夏。満天の星空の帰り道。三人で歩く。敦はススムの肩を叩いた。

「黒鷹の(ぬし)は、木。文字通りの、木魚だった……。ススム君はどう思う」

「主は、偽物だった、てこと?」

 だとすれば、観光地の目玉が無くなる。いまはそんな下らないことしか思えなかった。

 敦さんは首を振る。

「ひょっとすると黒鷹湖、というか、この大森町がだが。たいへんな観光地になるかもしれないよ」

「え……」

 聞き間違いかと思った。

「なんで? 主は、木の、“オモチャ”だったんでしょう」

「だからだよ……」

 そう答えて、敦兄さんは口をつぐんだ。

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