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宮腰先生はビデオの問題の部分を確認した後、機材の操作に取りかかった。
ススムは心が高ぶって仕方なかった。研究室には様々な科学機器が並んでいて、今、電気が入り、実際に稼働しているのだから。まるで宇宙ロケットの中みたい。主発見の余韻も相まって、無重力のように体がふわふわと動くのだった。興奮のまま装置の一つを指さし、敦に聞く。
「あれはなに!」
対して敦は、緊張した表情で、よどみなく答えた。
「FFTアナライザー……。合成された光の複雑な波長を、単純な数個の波長に分けてしまう機械だ。そうする事によって、物の特性を調べることができるんだ」
そしてほぅ、とため息をつく。彼は、呼びかけるように思いを口にした。
「ここの学校、びっくりするほど設備が整ってますね? まさかタイムロスなしに、この地で調べることが出来るとは、まったく予想外のことでした……」
宮腰は悪戯っぽくニヤリとした。
「田舎学校のいい所だよ。融通が利く。これらは、実は、私の私物なんだ。分析こそわが使命、生きている証なのだからね」
老先生はパーソナル・コンピュータを軽く叩く。
「この、解析プログラムは、私がマシン語で組み上げたものだ。早いぞ。爆速だ」
「それは、いろいろと、頼もしい」
二人は声を立てずに笑うのだった。
ススムはふと、振り向く。
貞次郎が、ずっと、ぶすっとしていたのだった。
先生の作業が終わった。言ったとおり、早かった。
こちらに振り向く。眼鏡を直す。老師は、幾分、緊張気味に、口を開いた。
「解析結果が出た。……小林さんの目利きどおり……木、でしたな……」
たんたんと告げる。
木。
「へ……?」
魚が、木。え? つまり――?
木彫りの魚。こけし。木像。
「……」
空気が重くなる。
……やがて。そうですか、と敦が一人、答えた。
先生は解説する。
「すべての物体は種類によって固有の電磁波の反射特性がある。太陽光線が物体表面で反射したとして、その反射光を分析する事によって逆にその物体が何であるか識別することができるわけだ。多重スペクトル放射計のサンプルデータは持っているから、それ使って、ビデオの画像データを四つの波長帯に分けてランク付けした。予想されたとおり合成スペクトルだったが、ヒストグラムに鋭く集中してる箇所があり、それが目的のものだと考えられた。その後の解析は、比べるだけだったから、簡単、確実。まず間違いなく、あれは――木材である、な……」
語り終える。
なに言ってんだか、さっぱり分からなかった。




