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「県庁観光開発部の課長さんって、すごいんだね」
「ん? なにが」
「あんな大事な機材を自由に使えて……」
「あはは、それは違う。これは俺の個人の物なんだ」
「……とってもお金がかかってるように見えるけど」
「そうだな……。車、一台分はしたか」
「なんでそこまでするの」
「好奇心さ。知りたいんだよ。主をキャッチすることに、俺の総力を注ぎたいんだ」
「もし、むだに終わっちゃったら、どうすんだよ」
「後悔はしない。また何か、テーマを見つけて、それに全力をぶつけるまでだ」
「なんでそこまでやるの」
コントローラに向けていた顔を、こちらに向ける。柔らかい顔だった。
「……なぁススム君。俺達ふくむこの世の生命は、どこから来て、どこへ行くのだろうね」
なぜか、顔が熱くなった。まっ赤になってるに違いない。
「――なに言ってんだかわかんないよ!」
「それを理解するために、いろんな謎を解明したい。特に今は、主を見つけたいのさ」
かろうじて、「見つかんなかったら、僕らとも、これっきりなの? 僕らのことすぐに忘れて、次の新しいことに夢中になるの」
「それは……」
会話が途切れた
一時間ほどして。リモコン船を陸揚げする。雨対策のためにまたブルーシートで包んで、ロープを縛り、ペグで固定した。そこまでして、とりあえず放置する。今はとにかく、僕らはビデオテープを大事に布でくるんでリュックに入れて、家に帰ったのだった。
まずは風呂場で汚れを落とし、焦るように急かされるように三人、競うように乾いた服に着替える。小走りしてテレビの前に並び座り――
ボタン操作ももどかしくビデオを再生させて。早送りして。次の瞬間、「あっ」、全員の声が揃う。
ストップ、巻き戻し、再生。テレビ画面に写しだされたその姿は――
それは――
真っ黒な魚!
たったの二十秒。けれど間違いなくこの形は、魚影、確かに魚影――!
ああ、なんて巨大な姿なんだろう!
全長一・五メートル。頭、胸ビレ、背ビレ、尾ビレ――
主だ。
そう、夢にまで見た、黒鷹の主なのだ。
全身漆黒の、確かにそれとしか呼べない大怪魚が、悠然と漂っていたのだった!
「……」
ススム、魅入られてしまった。対して――
「これは――!?」
大人二人の顔がこわばっている。硬く言葉を交わすと、二人して頷いた。
「来たいなら来い」父が振り向きざまにそう言い――
「な……?」
お構いなしにビデオテープを取り出すや、大事に抱きかかえて、家の外に飛び出すのだった。




