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 八月の曇天の出校日。学校から帰ると、見慣れない白い自動車(セダン)が止まっていて、敦さんがいた。

「やあ、元気だったか。しばらくご厄介になるよ」

 ニコリと言う。

「どうしたの……」

 敦兄さんがまた来てくれた事はうれしいんだけど、ただ遊びに来たとは思えない。運んできた大きな荷物も大いに気になった。

「まだ気づかんか、スー坊」

 顔を出した(オド)が言う。

「なににさ」

「毎日天気予報見とってわからんか」

「台風……あっ」

 敦が笑った。

「そう、来るんだ。予報では明日、この真上を通過する」

 貞次郎も笑う。

「五年ぶりの直撃コースだ。黒鷹も荒れるだろうな。さぁ、絶えて姿を現さなかった(ぬし)様が、この台風でも駄目ってんなら、もう本当に駄目というものだ。南無八幡! 明日こそは運命の分かれ道~ってやつだ!」

 わははと笑う。父も敦兄さんも、まるで猛禽類の目だった。


 大人二人はすぐに働き始めた。ブルーシートに包まれた、抱えるほどの荷物を背負子に乗せ、黒鷹湖に向かう。ススムはしつこいくらい中身を聞いたが、あとであとで、と相手にして貰えなかった。自分も湖に同行したかったが、天候が怪しくもあり、それも叶わなかった。

 だいぶ時間がたって二人は無事に帰ってきた。その表情から、準備が万端整ったことがわかる。荷物の中身は、結局、その時がくるまで内緒にされてしまった。

 風が強くなる。夕方から雨が降り始めた。夜半には激しくなり、翌日は豪雨だった。ススムは屋根を叩く音に目を覚まされた。窓ガラスが溶けてるようだった。お昼頃、台風の目に入ったのか、いったんは雨脚が弱まる。すぐにまた激しく降り出して、その後は早かった。夕方ころには目に見えて勢力が衰えていった。台風が、去ったのだ。

「……!」

 翌日。嘘のようなすがすがしい朝だった。

 三人は万全の装備を調えた。近所の山に行くにしては大げさなほどの重装備だった。父はこっちを見て、

「本当は置いてくつもりだったんだぞ。一緒に来るなら、きっと大人の言うこと聞くように」

 かんで含めるように言葉を続ける。

「これから、わしらは、信じられない光景に、出会うことになるんだからな」

「主のこと?」

「それは湖にまで辿り着けたらの話だ」

「……」

 ぶるってしまった。三人は出発する。(オガ)が、心配そうな顔で見送ってくれたのだった。

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