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 たちまち親子の釣り競争となったのだが、ススムは父の敵ではなかった。貞次郎はリズムに乗った。テンポ良く、ポンポンと面白いように釣り上げていく。わっはっは、わっはっは、と笑いっぱなしだった。

 ススムはだめだった。真実だめだった。これはいけない。このままボウズで終わってしまったら、一生からかわれる羽目になる。ほんとにそうなる。自作フライはまだ、何点か持ってきている。具合良く手元に修理道具もある。ススムは今このゴムボート上で可能な、できる限りのことをするのだった。形を変えたり、抜いてみたり。父が横目で見ている。作業を見られると、なぜか恥ずかしくなった。

 ようやく待望の一匹目がかかった。嬉しい! これで目星も付いたというものだ。だが貞次郎は素っ気なかった。

「今のは、奇跡だ」

「だけど食いついた事は事実だろ!」

「神様のお情けだ」

「がんこなんだから」

 が、貞次郎の言うとおりだった。全然来なかった。結局、数えるのも阿呆らしい大差で敗れたのだった。

「まんだ、わしの敵でねぇなぁ」

「ブスブス!」

「そんなざまで、(ぬし)は釣れるんだろうか。やっこさん、侮辱されたと思って、これ見よがしに、誰か別の人に釣られてやってしまうかもしれん」

「ひどいなぁ。なんでそんなこと言うんさ。オドのぞいたら、ここでトップは僕だよ」

「初顔の小林さんに負けたろが」

「それは、ま、そうだけど。……互角だったよ」

 貞次郎、苦笑する。ススムの頭を撫でた。

「本当のところ、お前が(かな)う相手でねぇ。間違っても天狗になるな」

「まさか、手抜きしてくれた、て言うの!」

「さて」

「敦兄さんは、そんな曲がった人じゃないよ」

「そのとおり。優秀で真面目だ。だが、屈折してるな」

「屈折?」

「あの若さで県庁の課長さんだ。それだけで只事でねぇ。人生に疑問も持つようになるわさ」

「なんだよそれ」

「そのうち分かる」

 わはは、と笑い。岸に向かって漕ぎ始めた。

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