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次の日の朝刊、地方欄に、くだんの記事が載った。折角なんだけど、写真がないと目立ち方に乏しい。反響あるかな、と思った。
父は父で宵っ張り、清太郎伯父の資料に目を通していたようだけど、結局、得るものはなかったようだった。
テーブルの上に無造作に置かれてあるノート数十冊。
「ねぇ、僕もこれ見ていい?」
「……まあいいか。もっと自分でできるようになってから、渡したかったけどな」
「大事にする」
ススムはその貴重な資料を受け継いだのだった。
その日はそれから、父と一緒に湖に上がった。到着すると、浮かんでいる魚の数が、だいぶ減っている。沈んだか流れたか、動物に食われたかしたに違いない。
父はまず、合掌したのだった。自分も手を合わせる。
そのあと、父は川口を調べた。流れ出る西の沢である。三十匹あまりが漂っていた。そうか、とススムは気づいた。
「初めっから、ここを張ってたら良かったんだ。自然に流れてくるから」
「うんにゃ」
父はあちこちと撮っていた写真機の手を止めて、
「お前がやったように、一周するのが正しい。何が見つかるか分からんでな。労を惜しんではいかん」
それから貞次郎は、背負ってきたゴムボートを広げる。足踏みポンプで膨らます。
二人は湖の中央へ漕ぎ出した。浮かんでいるのを二、三匹拾ってみたが、どれにも刺し傷があることが確認できたのだった。
貞次郎は久しぶりに釣る気になったらしく、竿を構えた。ススムは喜んで自分も準備する。
貞次郎は毛針だった。見事なフォルスキャストを見せた。ススムはどうして父が、ゴムボートに腰を据えたまま、五十ヤード(約四十五メートル)もフライを飛ばせられるのか、不思議でならなかった。自分もいつか、と努力してるのに、なかなか上達しない。
自分の番。キャスティング前に、自作のフライを父に見せた。貞次郎はニヤリとした。
「駄目だ」
「えええ、だめ? どうして。ていねいに仕上がってるよ。どこがだめなのさ」
「駄目だから駄目だ」
「だからどこがだめなんだよ」
「駄目だから、駄目なの」
「そんなの分かんないよ」
「お魚さんに聞け」
「そうする」
父はわははと笑った。僕はプンスカだ。自信作と思っていたのに。釣り上げてみせる。ススムはキャスティングを決めて見せた。




